『くノ一物語』淫虐修行の巻 四、女ゆえの苦しみ

 幻舟斎が去った後、真由はふとんにもぐり込んでいた。
 疲れのせいではない。拷問の痕跡も、スネが少し痛む程度である。
 真由は誰に見られている訳でもないのに、裸の状態から逃げ出したかったのである。
 ふとんの中に横たわっていると、ついウトウトとなる。どれくらい経ったのか、強く尿意を感じていた。
 尿意はもっと早くからあったのだが、まどろみの心地良さの中で、そのままにしていたのである。
 真由は厠(かわや)を使うために起き上がった。
 ふとんから出ると、あらためて全裸の羞ずかしさが襲う。牢の中の厠は数歩の距離だが、真由は乳房と股間に手をあてずにはおれない。
 厠は畳半分の広さに囲ってあり、その真ん中に、金隠し付きの落とし口が切ってある。厠の横は、やはり畳半分の所に水かめ、柄杓、水桶等が置かれている。
 真由は囲いの扉を開けて、厠の中へ入った。囲いといっても、しゃがんでやっと腰まで隠れる高さである。真由は、落とし口に乗せてある蓋を外して、跨いだが落ちつかない。そもそも、素っ裸で用足しなどしたことはない。
 それも、丸見え同然の所で行うのである。真由は両手で乳房を押さえて、しゃがみこんだまま、何度も後ろをふり帰った。
 もとより人の気配など無く、静まりかえっている。それがかえって真由の羞ずかしさをつのらせる。(早く済ませてしまった方が・・・)
 それが、なかなか出ない。下腹の膨満感は、もう限界に近づいているのに出ないのだ。
 真由は右足、左足と重心を移動させて、緊張をほぐそうとしてみた。そうすると、やっとチョロチョロとあふれ出してきた。
 一度緊張が緩んだ尿道は、もう、堰を切ったように尿流をあふれ出させる。
 静まりかえった牢内に、シャーッという音だけが響き、いやでも真由の耳に飛び込んでくる。
 溜まりに溜まっていたせいか、流出はなかなか止まらない。(あーっ、早く終わって・・・)
 そんなに長い時間ではないのだが、羞恥に震える真由にとっては、永遠の時に感じられた。
 長い長い放尿が終わり、雫が尻を濡らすようになると、真由はホッと一息ついて落とし紙を使う。そして股間の処置もそこそこに、手を洗うことさえ忘れて、真由はふとんにもぐり込んだ。
 ここに居る間は、日に何度もあの羞ずかしさを味あわねばならない。
 小用でさえ、あんなに羞ずかしいのに、その上・・・。
 もう真由は、これ以上考えたくなかった。(それでも、日が経てば慣れてくるのかしら?)
 真由は「あんなこと」に慣れてしまう、自分を想像するのはいやだった。
 幻舟斎が言った言葉を思い出す。
「羞ずかしさは羞ずかしさを、痛さは痛さを、苦しさは苦しさを素直に味あうのじゃ。はね退けようと思ってはならぬ。それを耐え忍ぶのが、くノ一の修行じゃ」
 真由は今、修行の意味が何となく判るような気がしていた。
 次の日は休養日で、その次の日の、陽が高くなってから幻舟斎がやってきた。
「真由、今日は次ぎなる責めにかかる。牢から出なさい」
 例のごとく真由は、乳房と股間を手で隠して、牢の外へ出る。牢の外の方が羞ずかしい気がする。牢の中では「閉じ込められている」という諦めがあるからだろうか。
「さあ真由、牢の外に出た時は、ヒザまづいて手を後ろに回すのじゃ」
 素直に従う真由。ヒザまづいてつま先立ちになり、両腕を背後に回して手首を重ねている。
 少しうなだれた細い肩。真っ白い素肌のまま、手首を重ねて縄を待つ真由。幻舟斎を信頼しきっているその姿はいじらしい。
 こんな可愛い娘を、辛い拷問にかけることに、痛ましさを覚える幻舟斎ではあったが、真由のためにも心を鬼にしなければならない。
 真由は高手小手に縄を打たれた。縄が掛かっている方が、羞ずかしさが紛れるのは、やはり「諦めの気持ち」からだろうか。
 真由はそのまま拷問部屋の方に引き出された。床の中央には筵(むしろ)が敷かれてある。その筵の上に真由は座らされた。
「今日の拷問は、逆海老吊りと逆さ吊りじゃ、心して受けるように、よいな」
 幻舟斎はその責めを、更に詳しく真由に説明する。
 逆海老吊りは、背中に重石を乗せることもあるが、今日は重石は使わない。
 逆さ吊りは苦痛は少ないが、意識がもうろうとなる責めであること等。
 さっそく逆海老吊りの準備がなされる。
 真由は縄を解かれて、筵の上に腹ばいにさせられた。そして両腕は背後に真っすぐ引き伸ばされ、手の甲を合わせるようにして、手首を縛られた。
 両脚は足首のみを揃えて括り合わされ、背中の方へ曲げられる。手首を縛った縄知りは、足首の縄に通されて引き絞られ、真由は弓反りになった。
 手首と足首が触れる程の逆海老縛りだが、体の柔らかい真由には、それ程苦しくは感じられない。
 手足を絞りつけた縄尻は、吊り縄に連結され、吊り上げられていく。
 真由の体は半反りの角度が深まり、腕には引き抜かれるような痛みが襲う。
 それでも非情の吊り縄は、真由の体を幻舟斎の眼の高さまで引き上げた。
 吊り縄の支点の関係か、真由の体は頭の方が少し低くなっている。
 そして二つ折りにされそうな程、胴が撓んでいる。その痛みを緩めようとすれば、腕に力がはいり今度は腕が痛い。
 それでも力を緩めるわけにはいかない。無意識のうちに、全身に力が入っているようである。
 幻舟斎は真由の手足の縄をさわっている。外れれば危険だから点検しているのであろう。その幻船斎が、今度は真後ろに廻った。
 幻舟斎の目の前には真由の両ヒザがあり、その少し開いた両ヒザの奥には、真由の秘めやかな部分が、羞ずかしげに息づいている。
 真由もそのことを察知したのだろう、ヒザを閉じようともがいた。
「アッ、アーッ」
 それは、かえって腕を引っ張ることになり、自分を苦しめる。
「真由もがけば余計辛いじゃろう、何をされてもジッと耐えるしかないのじゃ」
 幻舟斎が真由の正面に立って、諭すように語りかける。項垂れたままの真由。
 どの位経過しただろうか。真由が限界近くなった時、吊りから降ろされた。
 この後一息入れて、二度、三度と吊り上げられた。
 三度目に吊り上げられた時、真由の体は吊り縄を支点にして回された。
 肩を突かれて右側へ回るだけ回らされると、今度は縄の捩れの反動で、逆に回転を始める。初めは緩い回転も、次第に加速度を加え、急回転を始める。
 そして、また速度が弱まると、今度は逆海老吊りの苦しみが強くなる。真由の意志では、どうすることもできない。
 回るだけ回らされてやっと静止した時、真由の体からは、汗がしたたり落ちるようになっていた。逆海老吊りから解放されても、真由はぐったり横たわったままである。
 だがこのまま許されるわけではない。やっと一心地ついたと思ったら、今度は逆さ吊りであった。
 真由はまた後ろ手に縛られ、足首の縄だけで吊り上げられていく。
 筵の上を上半身が引きずられ、体が宙に浮き、景色が逆さまに見えると、真由に恐怖心が湧き上がった。背筋を冷たい物が走る恐怖感である。
「この責めは、さほど苦痛はないはずじゃ。恐ろしいのも初めだけじゃ」
 幻舟斎がしゃがみ込んで、真由に声をかける。
 そう言われれば確かに、足首に圧迫感を感じるくらいで、苦痛は殆どない。
「だが時が経つと、次第に意識がもうろうとしてくる。その時、落とされるかも知れぬ」
 真由は自然体に身をまかせていた。
 頭に血が集まってくるのだろう、顔が火照ってくる。
 しかし、これまでの拷問のように神経を刺激するような痛みや、体を引き伸ばすような苦しみは、感じられない。真由は天国の雲の上を、たゆたうような感覚になっていた。
「真由、通じの方は順調にあるのか?」
 夕方の食事が終わってから、幻舟斎が真由に尋ねた。
「えっ、いえ、あの・・・」
 真由は少し顔を赤らめ、眼をそらせた。
「やはりそうか、まあ無理もない。後で薬湯を持ってきてあげよう」
 真由は毎朝、小用を足すときに試みているのだが、どうしてもできなかったのである。
「拷問の時に粗相をすると、もっと惨めな思いをすることになるからな」
 真由もそのことが気に掛かっている。素直にうなづいた。
 幻舟斎は一たん牢を去り、しばらくしてから、土瓶を下げて戻ってきた。
「これを今、湯飲みに一杯飲んでおきなさい。そして寝る前にもう一口飲むのじゃ。そうしておけば、明日の朝はすっきりできるはずじゃ」
 真由は教えられたとおりにすると、翌朝てきめんに効果があらわれた。
 寝床から体を起こすと、お腹がグルグルと鳴った。下腹には軽い蠕動が感じられ、尾てい骨の上の方に、甘かゆいようなくすぐったさを感じる。
 もう「羞ずかしい」等と言ってはおれなかった。真由は厠へかけ込んだ。
 しゃがむと同時に、前と後ろからほとばしり出ていた。
 この土蔵に入れられてから初めての排出も、そう時間がかからなかったのも真由は嬉しい。そして体が軽くなったような気分も嬉しい。
 串刺しにされていた体から、槍を抜き取られたような解放感を感じていた。
「真由、すっきりしたようじゃな?」
 幻舟斎にもからかわれたが、からかってもらえることが楽しい。そんな真由であった。(もう、どんな拷問でもこわくない)
 そんな気持ちでもあった。

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