『くノ一物語』淫虐修行の巻 七、女責めの極致

 五日経った。第三段階、最後の仕上げである。
 とはいっても、第二段階と負荷はそう変わらない。ただ、責め時間が長くなる。
 そして、ここからは悲鳴もあげずに、耐えなければならない。
 真由は算盤責めで、石を三枚抱かされていた。
 真由は苦悶の表情は浮かべているが、歯を食いしばって呻きをかみ殺していた。
 抱き石が、一枚、二枚と外される。真由が、やっと許されるのかとホッとしていると、また二枚目、三枚目と抱かされた。そんなに甘くはなかったのだ。
 乗せては降ろし、降ろしては乗せる。
 三回目を乗せられた時、真由はあまりの苦しさに、絶望的な気持ちさえ襲っていた。
 顔は汗と涙でクシャクシャになり、髪を乱したほつれ毛が一筋、真由の頬にへばりついている。真由はそのほつれ毛を口に含み、奥歯でギリギリと噛み締めていた。
 もう何を聞いても耳に入らない。頭の中は真っ白になっていた。
 気絶寸前でやっと解放された真由は、自分で起き上がることさえできなかった。
 スネには恐ろしい程のギザギザの跡がつき、今にも血を吹き出さんばかりである。
 真由は抱きかかえられて牢へ戻されても、グッタリと横になっているだけだった。
 逆海老吊りも海老責めも、やはり第二段階の比ではなかった。
 その都度真由は、気息奄々の状態で、牢へ送り返されている。
 そして最後の最後、木馬責めの日がやってきた。
 もう真由には、羞ずかしいとか、つらいとかの気持ちはなかった。(今日一日耐え忍べば・・・、わたしも一人前になれる)
 そんな気持ちが、心を晴れ晴れとさせていた。
 本当の拷問であれば、「これで最後だから」等ということは、あり得ないのであるが、やはり修行ということであろう。
 今、真由は三角木馬の上で喘いでいる。上体は吊り縄にゆだね、三貫目の重石をつけられた両脚を、必死で締めつけている。
 散々笞を当てられて、尻、背中、腿に赤い筋が無数についている。
 少しうつむいた頭と、後ろ手に括り合わされた手首が、憐れさをさそうが、どうして、ここまで耐え抜けるのであろうか?
 顔は、腿の力が緩むたびに苦悶の表情を見せるが、屈服した悶えではない。(わたしは、もうどんな拷問にも負けはしないわ)
 これまでの苛酷な拷問を、耐え続けてきた自身が、真由の心に誇りのような気持ちを、湧き上がらせていた。
 そんな真由の心根くらい、幻舟斎ともなると、手に取るように解る。
 幻舟斎は何を考えたのか、土蔵から出ていってしまった。
 そのことを真由が知ったのは、幻舟斎が再び土蔵に入ってくる時だった。
 入り口と反対を向いている真由の背に、入ってくる人の声が聞こえた。(あっ? 誰か人が来る! こんな姿を見られたら・・・)
 真由の胸の鼓動は、早鐘のように激しく鳴り響く。
「先生、こんな土蔵で何の用があるのですか?」
 声の主は、小十郎だった。(あ、いやっ、小十郎さま、こっちに来ないで・・・)
 狼狽する真由。本能的に逃れようともがいたが、厳しく拘束されている身には無駄なもがきであった。
 そのもがきが、かえって股間の割れ目を責めつける。
 結果的に真由は、余計つらい思いをすることとなった。
 小十郎が拷問部屋に足を踏み入れて、絶句したのであろう、土蔵の中は一瞬シーンと静まりかえった。
「ま、真由ではないか? 幻舟斎先生! これはどういうことなのですか?
 真由が、何か仕出かしたのですか?」
 小十郎の声も上ずっている。
「うろたえるな小十郎。お主にも解るであろう? これも真由の修行の内じゃ」
 幻舟斎の言葉に、小十郎は総てを理解した。
「真由はよく勤めを果たしておる。だが、羞恥心が少し薄れてきたようじゃ、
 そこで、お主に協力を求めた、ということじゃ」
「は? はあ・・・」
「お主は見ているだけでよい。それが、真由の修行の手助けじゃ」
 そう言うと幻舟斎は、真由の前面へ廻った。
 前後から見られている真由は、消え入りたげに、身を強ばらせている。
「どうじゃ小十郎、もう、くノ一の役目が務まる体になっておるのが、解るであろう? よく張った腰、丸みをおびた尻なぞは、桃のようにプリプリしておるじゃろう」
 真由は自分の肉体を、明らさまに批評されて、耳をふさぎたい程である。
 でも、どうすることもできない。
 小十郎の声がないのは、ジッと眼を凝らしているからだろう。そのことも、真由の羞恥心を責めたてる。
「小十郎、今度はこちら側へ参れ」
 幻舟斎が後ろに廻り、替わって小十郎が真由の前に立つ。
 小十郎に、顔を見られるのが羞ずかしいのだろう、真由は必死でうつむいている。
「小十郎、乳房も立派なものであろう。その先っちょの朱い実もよく熟れておる」
「は、はあ、まことにもって・・・」
 小十郎も照れ臭いのか、トンチンカンな返事である。
「真由の女の象徴の部分は、木馬が食い込んで、見ることはできぬがのう」
 幻舟斎は、真由の羞恥心を煽り立てることを、わざと言っているのである。
 真由も幻舟斎の意図は解っているのだが、それ以上に真由の心根は純真だった。
 あまりにもの羞ずかしさ、惨めさに、真由は涙がこぼれそうだった。
 その上、木馬責めももう、耐えられる限界をとっくに過ぎている。
「真由、木馬責めが女責めの極致であること、骨身に滲みたか?」
 うなだれたまま、ガクガクとうなづく真由。その時、一滴の涙がこぼれた。
「小十郎、もうよいじゃろう。お主は去ってくれ。これ以上お主がそばに居ると真由が可哀想じゃ」
「はっ」
 小十郎は、逃げ出したいような、まだ居たいような、後ろ髪を引かれる思いで拷問部屋を出ていく。
「小十郎、蔵の外に出るときは、油断するでないぞ」
 小十郎はハッとなった。頭の中が、真由の白い肉体で一杯だったのである。(こんな事では、忍びは失格だな)
 小十郎は、小さく咳払いを一つして、土蔵を出た。
 その袴の前は、大きく突っ張っていた。

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