『宴のビーナス』(第14夜)

作・さくら

 どのくらいの時間が経ったのだろう。
 優子はまだはっきりとはしない意識の中で目を覚ました。
 身体は痛みのせいか、まだ痺れていた。
 上体を起こそうとして軽く身体をひねったが、激痛が優子の全身を走った。
「うう…」
 優子は目を開けて、辺りを見回した。
 何も家具らしい物が置いていない、殺風景な部屋の一角にいるようであった。
 ドアが一つと、天井近くに小さな窓がぽつんとあるだけである。
 その窓から、かすかな光が差し込んできているだけで、他には照明のような物は何一つないようである。
 ショーはとっくに終わったようであった。
 時折かすかにカチャカチャと何かを片付けているような音が聞こえるような気がする。
 あれから更にどのような責めが優子に対して行われたのであろう。
 決して暗いというだけではなく、明らかに優子の視力は弱く、それ以上自分の置かれている状況を把握することは無理であった。
 痛む右腕をどうにか動かし、優子は、自分の腹の辺りに触れてみた。
 やはり、服は着ていないようである。
 優子は目を閉じ、さきほどのショーで起きたことを否定するかのように、ゆっくりと首を左右に振った。
 「夢よ…。きっとあれは、悪い夢だったのよ…」
 涙が優子の頬を一筋、流れ落ちる。
 思い出したくない悪夢が、優子の意思とは反対に、一つずつ鮮明にまぶたの裏によみがえって来てしまう。
 頭痛と耳鳴りがひどくなり、優子は痛む身体を無理矢理抱えこもうと脚を動かそうと試みた。
 その時であった、優子は何かが自分の脚に触れていることに気づいた。
 「何?」
 返事はない。
「だ…誰…?」
 もう一度不安げに声を震わせた。
 痺れた脚に確かに何かが触れている。
「誰かいるの? 一体誰?」
 やはり何の返事もない。
 ただ、何かが確実に優子の脚に触れ、そして少しずつだが動いているようであった。
 優子は、痛む首をねじるように動かし、自分の足元の方を見ようとした。
 誰かいる…。
 姿は見えないが、誰かが優子の足元にいて、優子の脚に触れていた。
「まだ私に惨い仕打ちをするつもりなの? これ以上一体何を…」
 優子は残っている力を振り絞るようにして、思い切り首を曲げ優子に触れる正体を確認しようとした。
 激痛が優子を襲う。
「ああっ!」
 思わず悲鳴が上がる。
 だが、その悲鳴は痛みのために出たものではない。
 何と優子の足元にいたのは、綾であった。
 傷を負い全身汚物まみれになった綾が、優子の内腿に口をつけ舌を這わせているのであった。
「あ、あ、綾さん…」
 優子は驚いて声をかけた。
 が、綾はそんな優子の声などまったく聞こえないかのように、優子の脚を舌で舐め続けている。
 優子は身体を起こそうとしたが痺れのためまったく力が入らず、それ以上動くことはできなかった。
「綾さん! どうしたの? 聞こえないの?」
 綾は何の反応も示さず、もくもくと優子に舌を動かしでいるだけであった。
 その目には生気というものはまったく感じられず、ただ木偶人形のように同じ動きを繰り返しているだけである。
 優子は背筋が凍るような恐怖を覚えた。
「綾さん…」
 一体綾の身に何が起こったのだと言うのだろうか。
 優子は声を高めて綾の名前を呼んだ。
「綾さん! 優子よ、分かる!? 綾さん!」
 一瞬、綾の舌の動きが止まったような気がした。
 そして、綾が弱々しく唇を動かし何かをつぶやいた。
 優子は耳を澄まして綾の声を聞こうとした。
 だが何も聞こえぬまま、綾は再び優子の脚に口をつけ舐め始めた。
 優子はもう一度叫んだ。
「綾さん! 綾さん! 綾さん~っ…」
 優子の叫びは最後は嗚咽と変わり、そのまま優子は身体を震わせて声ともならない泣き声を上げはじめた。
「う、う、う、う…」
 しばらく泣いていた優子の耳に小さくかすれたような綾の言葉が聞こえたような気がした。
「…な…さい…」
 優子ははっとして耳を澄ませた。
「ごめん…なさい…」
 綾の方を見ると、わずかに唇を震わせて綾が何かをつぶやいているようであった。
「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめん…なさい…」
 綾の目は相変わらず光を失ったままで、どうも優子の声に反応しているのではなさそうであった。
「綾…さん…」
 ふと綾のつぶやきが途切れ、綾は再び優子の脚を舐め始めた。
 一体綾はどうしてしまったのであろう。
 優子には何が起きているのか理解することができなかった。
 綾は、もくもくとひたすら優子の脚を舐め続け、時折「ごめんなさい…ごめんなさい…」とつぶやくだけであった。
 太股に付けられた鞭の傷跡も、綾は一心不乱に舐め続けていく。
 痺れているはずの優子の脚であったが、なぜか綾の柔らかい舌の感触で傷が癒されていくのが優子にも感じることができた。
 綾の様子に戸惑いを隠せない優子も、痛みをやわらげてくれる綾の舌を感じつつ、いつの間にか深い眠りへと再び落ちていくのであった。
 優子は何とも言えない穏やかで幸せな気持ちを感じていた。
 ───夢…?
 今、優子は初めて女にしてもらった時のことを思い出していた。
 あの時の彼の胸、彼の腕、甘いささやき、そしてやさしく優子を愛撫してくれた彼の舌のことを…。
 優子の大切な部分を愛おしむように、しかし優子の女としての本能を目覚めさせてくれた彼のやさしい舌の動き…。
 今再び、その感覚が優子の全身を包もうとしていた。
「はっ…」
 優子は目を覚ますと、足元の方に目をやった。
「あ、綾さん…」
 綾が優子の股間に顔をうずめているではないか。
 そして綾が、鬼のような男たちに散々汚された優子の部分に丹念に舌を這わせていることに気づいた。
 綾の舌によって綺麗に舐めあげられた優子の脚も、綾の汚物まみれの身体を押しつけられているために、再びすっかり汚されてしまっていた。
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
 そんなことには気づかぬように、綾は時折そうつぶやきながらも、優子のそこを丁寧に舐め続けている。
 あわてて上体を起こし逃げようとした優子であったが、まるで金縛りにあったようにまったく動くこともできずに、異様とも言える綾の姿におびえるだけであった。
 綾は舌でそっと優子のそこに舌を這わせ、小陰唇をわずかに開いた。
 そのまま何人とも分からぬほどの男たちの精液に汚された優子の小陰唇を片方ずつゆっくりと唇で咥えるようにはさみ、そして舌を這わせていく。
 身体が敏感に反応する。
「あ…」
 優子は思わず小さな声をあげた。
「あ、綾さん…」
 全身を包む痛みの中で、なぜか優子のその部分だけが甘美な感覚に貫かれていた。
 綾の舌の動きは、まるで優子の汚れを洗い落すかのように丹念にそして隅々までくまなく動いていく。
 傷だらけの優子の膣も、綾の舌がそっと差し込まれていくと、なぜか傷が癒されるように痛みが消え、代わりに何とも言えない甘い感覚が蘇るのであった。
「ごめんなさい…」
 綾は相変わらず同じ言葉を繰り返すだけで、優子のひだのすべてに舌を進めていく。
 そして、何度も何度も同じ動きを繰り返し、小陰唇の表も裏も丹念に舐めあげていくのである。
 時折優子の口から、ため息が漏れる。
「あ…、ふう…」
 血の滲む尿道口も、綾は尖らせた舌の先で丁寧に舐めていく。
 いつの間にか優子のそこは、喜びに満たされた優子自身の液で潤い始めていた。
 しかし、綾はその潤いさえも次から次へとその舌ですくいとっていくのである。
 まるで、男たちの汚れたありとあらゆる体液を、優子が自ら出す愛液で洗い流してしまうのを手助けするかのように。
 もくもくと舌を動かす綾の瞳には相変わらず生き物としての光は宿っていない。
 そのアゴからは綾自信のヨダレであろうか、それとも優子の流す快感の証なのであろうか、一筋そして二筋と透明に輝く液体が糸を引き床へと滴り落ちていく。
「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…」
 まるで意識がない綾のロボットのような動きであったが、本能的に優子の身体を清めようとしているとしか優子には思えなかった。
 そしてその綾の動きは、確かに優子の肉体を浄化し人間らしい感情の高ぶりを呼び戻してくれるようであった。
「あ…。あぁ…あ…」
 綾の舌が優子の敏感なクリトリスをとらえ、その全身を突き抜けるような感覚に優子が思わず声をあげた時であった。
 閉じられていたドアが音もなくゆっくりと開いていった。