『くノ一物語』淫虐修行の巻 九、 くノ一誕生

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 もう、朝日は昇っている。
 さあ、これから真由は、山を下りて行かなければならない。
 真由は、乳房と股間を手で覆って、全力で林の中へ走り込もうとした。
 しかし、脚が思うように動かない。ヒザから下でチョロチョロと走るのが、精一杯であった。
 何とか林の中に逃げ込み、大きな木にしがみつく。
 人気のない山の中とはいえ、若い娘が全裸で動き回らなければ、ならないのである。
 真由は、木の陰に隠れるようにして、大木を求めて移動していく。
 どのくらい下った時であろうか、人の声が聞こえて真由は、心の臓が止まりそうになった。
「それじゃあ、俺いらはこっちの方へ行くからな」
「ああ、それじゃあ」
 林の切れ目には、人が通って、けもの道のようになっている所がある。(あっ、あの声は土竜の源助!)
 連れと別れて、真由の方に登ってくる男である。
 この源助はいつも、真由の体をなめ回すように、見ている男なのだ。(あの男にこんな姿を見られたら・・・)
 まさか襲われることはないだろうが、あの眼で見られることを思うと、背筋がゾーッとしてくる。真由は大きな木にしがみついた。
 息をひそめて、木と一緒に呼吸する気持ちであった。
 源助も下忍とはいえ、忍びである。人の気配を察知する能力は持っている。(ああ・・・、早く行って、お願い)
 真由は祈るような気持ちだった。
 けもの道を登ってきた源助は、真由の近くで歩みを止めた。(まさか! 気づかれたのでは?)
 真由は、気が気ではなかった。その時、かすかな音が始まった。
 ガサッ、シャワ、シャワシャワ・・・。
 カヤの茂みに向けて、源助が小便を始めたのだった。
 真由はしがみついた木と、一体となって息をひそめている。
 長い小便を終えて、源助が立ち去っても、真由はしばらくは放心状態だった。
 我に返った真由には、まだ試練が続いているのである。
 再び林の中を下っていく真由。
 幸いにもそれからは、誰とも遭遇することはなかった。
  やっと幻舟斎の家が見えた時、真由は涙があふれそうになってきた。
 無理もない、登った時の、倍以上の時間を費やしているのである。
  真由は家の裏手から、土間に入った。
 表には、人がいるかも知れないからだ。真由は土間の片隅に、小さくなっていたが、上がり框(かまち)から首だけのぞかせてみた。
「お師匠さま! 真由でございます!」
 真由は思いきって、家の中へ声を掛けた。
 幻舟斎も、待ちわびていたのだろう、小走りで土間に出てきた。
「真由、よう戻った。よくやった」
 幻舟斎が土間に降りると、真由がその胸に跳びこんでしがみつく。
 真由はいつの間にか、声をあげて泣いていた。幻舟斎は、裸の真由の肩を、
 やさしく撫でてやっている。
「真由、よく頑張ったな。これでそなたも一人前の女子(くノ一として)じゃ」
「嬉しゅうございます」
 幻舟斎には、真由の気持ちが痛いほど、解っていた。
「さあ真由、湯を立ててあるから入りなさい。そして一月分のアカを落として、これ迄の真由に戻るのじゃ、よいな?」
 幻舟斎も修行の時とは違って、好々爺の眼差しに戻っていた。
 真由は今、首まで湯につかり、解放感にひたっていた。
 暖かいお湯は、真由の心まで癒してくれる。
 この一月は、夢の中の出来事だったような気がしてくる。
 それでも股間の痛みや、手首、二の腕に残る縄目の後が、現実の出来事であったことを、物語っている。
 無理もない、真由の知らない世界に、あっという間に引き入れられたのである。
 真由の心の中は、明らかに変貌をとげていた。(わたしも、もう一人前のくノ一なんだわ)
 そう思うと、ズキズキする股間の痛みも、くノ一の勲章に思えてきた。

第一章、終

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