『くノ一物語』淫虐修行の巻 二、女忍の宿命

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 指定されたその日、真由は幻舟斎宅を訪ねていた。
 真由の両親も”最後の修行”と聞いただけで、総てを理解していた。親の気持ちとしては「可愛い娘を危険な任務につかせたくない」のが本心だろう。 しかし忍びの里では、そんな世間一般の親子の情愛など許されない。むしろ「一人前の忍び」になることに、誇りを持たなければならないのである。
 両親は複雑な感情を隠して、真由を心良く送り出していた。
 幻舟斎の家はさほど大きくないのだが、裏庭に立派な土蔵がある。
 百姓の家なら、農具や穀物、種籾などを保存する小屋があっても当たり前だが、幻舟斎にはそんな必要はないはずである。真由も土蔵の存在こそは知っていたが何に使われているのかは知らなかった。
 この土蔵は、忍びたちが使う道具や武器、薬品の保管、それに薬や毒薬、火薬の調合などに使う仕事部屋でもあった。敵を捕らえた時の牢や、拷問蔵も兼ねているのは、あらゆる事を想定してのことであろう。
 幻舟斎に連れられて真由は、その土蔵の中へ初めて入った。
 重い扉を開けて中へ一歩入ると、薬草の匂いがカビの匂いと入り交じって、鼻につく。よく見ると、薬草をたくさん吊るした干し棚が、何台も壁の方へ押しやられている。土蔵の中を広く開けたのだろう。
 土蔵の中は以外に広くて天井も高く、何本もの太い梁が通っている。奥まった所は、二階になっているのだろう、隅に急な階段がついている。そして、その奥まった板壁の前には、色んな道具が置かれてある。
 それは木材や竹、石などを利用した、真由も初めて目にする拷問道具であった。
 縄もたくさん吊るしてあり、大きな水桶もある。最後の大事な修行とはいえ、真由は不安なのだろう、両手で胸を抱えこんでいた。
「真由、恐ろしいか? だがこれは経験しておかねばならぬのじゃ、そなたのためにも」
 幻舟斎は、思ったよりやさしい口調で真由を諭す。
「まずは、どのような責めがあるか、知ってもらう。それ故、必要以上の負荷は掛けぬ。真由は自分の意志で耐え忍ぶのじゃ。自分の意志でじゃぞ。それが肝要じゃ」
「は、はい・・・」
「限界かどうかは儂が見極める。それまでに耐えられねば申せ。解放してやろう」
「はい」
 真由は”自分から弱音は吐くまい”と心に誓っていた。「それでは、着ている物を全部脱ぐのじゃ」
 真由はハッとして身を堅くする。
「くノ一は丸裸にされて責められる。辱めも責めのうちじゃ」
 真由は覚悟していたのか、諦めて、おずおずと帯びに手をかけていく。
「本来なら、責め手から引き剥がされることになるのだぞ」
 真由が着ている物は、単衣の着物の下に、肌着と腰巻きのみである。帯を外して、単衣と肌着を脱いだ。
「腰巻きも外すのじゃ。素っ裸になれ」
 真由がしゃがみこんでためらっていると、幻舟斎の厳しい声が飛んだ。
「あっ、は、はい・・・」
 くノ一の修行として覚悟はしているものの、まだ十七才の乙女である。
 人前で全裸を晒すなどという、非日常的な行為に、体が拒否反応を起こすのはごく自然のことであろう。
 それでも真由は、健気にも腰紐に手を掛けた。”これもわたしの任務”と、自分に言いきかせているのだろう。小さく震える指先で、腰巻きを外していく。 そんな真由でも、外した腰巻きを床に置くと、身に一糸もまとっていない現実に、耐えきれなかった。空いている両手の置き場を求めるように、乳房を覆う。そして体を前に倒して、丸まってしまった。
「羞ずかしいか?真由、若い娘なら当然じゃろう。その心根を忘れるでないぞ。さもなければ、忍びの女であることが露見する、良いな」
 ハッと我に返った真由の前には、縄を持った幻舟斎が立っていた。
「もっと羞ずかしく、辛い思いをすることになるぞ。それがくノ一の宿命じゃ」
 幻舟斎は後ろに回って、真由の上体を引き起こす。そして乳房を押さえていた真由の腕を右、左と背中にねじ上げる。
 真由は幼い頃から、縛られたことは何度もある。忍びの里で育つ女の子は、躾の中で縛られることは再三である。これも将来を見据えた訓練であろうか。
 それでも、裸にされて縛られたことは勿論ない。ましてや今は全裸である。
 真由の両手首を縛った縄は、上体に回され、二の腕の上から乳房の上下を這い、絞り縄を掛けて、再び背中で縄止めされる。高手小手縛りである。
 きっちりと縛られた真由は、何故か冷静さを取り戻していた。
 羞ずかしさが消えたのではない。開き直りでもない。”縛られてしまったからどうしようもない”といった、諦めにも似た気持ちが、気怠い心地よさをもたらしていた。 縄はさらに増され、背中から首の両側を通り、乳房の縄を締め上げるようにして、縦に降りていく。そして胴の一番細い所を二巻きした縄は、再び背中に回されて縄止めされた。
 真由を縛った縄尻は、天井の滑車から下がっている吊り縄の鉤に、引っかけられた。その吊り縄を幻舟斎が引き、真由の体が上に引き上げられる。
 ヒザ立ちから直立になり、真由がつま先立ちになった所で、止められた。
 幻舟斎が前に回ると、真由は股間を隠そうとするのだろう、右脚を引き上げてくの字に曲げている。
「真由、吊り責めは簡単な責めだが、その分一番厳しいかも知れぬぞ」
「あっ、は、はい・・・」
 幻舟斎は再び吊り縄を手にして、静かに引いていく。
 真由のつま先は床から離れ、胸と胴を縛った縄目がギリギリと締めつけてくる。
 それでも真由は呻きもあげず、歯をくいしばって耐えている。真由の足先床から一尺程浮いた位置で、吊り縄は止められた。
「どうじゃ真由、もう羞ずかしさなど感じてはおられぬじゃろう」
 幻舟斎の言葉に、我に返った真由は、ハッとして両脚をきつく閉じ合わせる。
若い娘の本能か、ヒザを曲げて、股間を隠そうとしている。
 その時、真由の尻に笞が炸裂した。
 ピシリッ。
「あーっ、・・・」
 初めて呻き声をあげた真由の尻に、二度三度と続けざまに笞は当てられる。
「これは木を細く削った物じゃ。真由の肌を傷つけぬようにな」
 それでも尻を叩かれると痛い。現に真由の尻には赤く跡がついていた。
「通常使われる笞は、弓折れ、割れ竹、六尺棒、それに木の棒に籐を巻いた物じゃ。こんなものではないからな」
 そう言うと幻舟斎は、真由の体を回し始めた。
 真由は目を閉じて、吊り縄に身を委ねるしかない。幻舟斎が何回か廻して手を話すと、今度は逆に回り始める。真由の意志ではどうすることもできない。
 締めつける縄目の痛さにも、歯をくいしばって耐えるだけである。
 その時、また笞が尻に炸裂した。
「あっ・・、痛い、もう許して」
「この程度で音をあげるのは、まだ早いぞ」
 尚も幻舟斎の笞は続く。真由の体は右回り、左回りと縄の捩れが戻るまで回り続ける。
 笞音が止み、真由の回転が止まると、空気も止まったように静かになった。
 土蔵の天井から吊るされて、ガックリとうなだれている真由の、白い体だけが浮き上がっている。
 真由はようやく薄目を開けた。
 自分の白い両脚が、二本の円柱のようにぶら下がっている。
 少し開きかげんだが、もう閉じ合わせる気力もない。
 わずか足下一尺にある床は、奈落の底のように遠い。真由は逃れられない拷問の恐ろしさを、身を持って感じていた。(あーっ、も、もうダメ、我慢できない)
 その時、吊り縄が緩められた。
 長く吊るされていた真由は、脚にも力が入らない。吊り縄が緩められるにつれて、真由の体はくずれ落ちるように横たわった。
 冷たい床が、真由の火照った尻を癒してくれる。
 縛しめを外されると、体中の止まっていた血液が、一斉に流れ出したような、脈動を感じていた。

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