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  • ハードSM小説『奴隷姉妹』 第11章(終章) – 崩壊

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    I:はじまり

     

    1週間後の8月10日、七海の奴隷1周年記念日前日の夜。少人数調教の22時からの回で、陽葵は単独で佐渡の指名を受けた。激しい折檻が続く中で、陽葵は苦悶の末に絶頂し、調教は終わった。その帰り際、佐渡は陽葵に小声で話し掛けた。

    「なかなか良かったわよ? 仁科さん」

    「ぜぇ…… ぜぇ…… あ、ありがとう、ございます…… 佐渡先生……」

    「ところで、ペロに会いたくない?」

    「…………は?」

    「ペロよ。木下光希。あなたの恋人のお姉さん」

    「な、何言って…… 光希お姉さんは亡くなって……」

    「死体、見たの?」

    「!!!?」

    陽葵は驚愕した。あまりに大きな衝撃に、1日の疲れも眠気も、鞭痕の疼痛も全て吹き飛んだ。何? 何言ってんの、この人!? 光希お姉さんは死んじゃったんだよ! 火葬されちゃったんだよ!? ち、違うの!? まさか…… まさか……!!?

    「光希お姉さん、生きてるんですか……?」

    「ふふっ…… 知りたければシャワーを浴びた後、今夜11時20分に客用トイレまで1人で来なさい。時間になったら鍵を開けるわ。ただし木下さんや他の奴隷たちには決して言わないこと。 ……いいわね?」

    それだけ言うと佐渡は退室していった。

    陽葵は呆然としていた。わけがわからなかった。確かに遺体を見たわけじゃない。火葬されてるトコも見てない。生きてる……の? 光希お姉さん、生きてるのっ!!?

    死の1ヶ月くらい前から、光希は骨と皮だけの状態で、いつ死んでもおかしくない様子だった。だが、それからも点滴だけで1ヶ月生き続けたのだ。今も生きていたとしてもおかしくはない。でも…… じゃあなんで飯森様は死んだって言ったんだろ? なんでウソついたの!? わけわかんない…… 七海に相談したいけど…… 相談しちゃダメって先生言ってたし…… ああ、どうしよう!!

    陽葵はシャワーを浴びている間も考え続け、結局七海に書き置きをしてから指定の時刻に客用トイレの前に立った。すぐに鍵が開く音がし、ドアが開いて全身黒ずくめの佐渡が現れた。先程まで着ていた真っ赤なボンデージスーツではなく、黒の全身タイツに着替えたようだ。しかも何だか見慣れないマスクをしている。

    「行くわよ」

    「待ってください。色々聞きたいことが……」

    「後でね。まずは従いてきなさい」

    「…………」

    陽葵は、わけがわからないまま佐渡の後を従いていった。客用トイレから宿泊区画の廊下に出たが、佐渡は何故か明るい方には向かわず、廊下の端にあるSTAFF ONLYと書かれた金属製のドアを開けた。中は高さ2mくらいのコンクリート製のトンネルになっていて、電気やガス、上下水道に光回線など、様々な配管が縦横無尽に走っていた。佐渡は懐中電灯を点けてその中を進んでいく。途中幾つも分かれ道があり、なんだか毛細血管のようだと陽葵は思った。

    にしても、なんでこんな変なトコ歩いてるんだろ。ここ、どこ? こんなトコにお姉さん、いるの? ホントに…… ホントに生きてるの……!? 陽葵は佐渡の後ろを歩きながら、ひたすら考えた。エアコンのかかっていないトンネルの中は、裸でいるには寒く、陽葵は何度かくしゃみをしそうになったが、大きな音を出したらマズそうな雰囲気だったので、なんとか飲み込んだ。

    階段を幾つか降りて角を幾つか曲がった所に、先程と同じ金属製のドアがあった。STAFF ONLYとも書かれておらず、あまり使っていない感じのドアだった。

    ……いったいこの向こうに何があるんだろう。ここまで虹彩認証のセンサーを1箇所も通ってきていない。それが逆に怖い。佐渡と一緒だから脱走ということにはならないだろうが、深夜にこんなところにいて大丈夫なんだろうか……?

    寒気が止まらない。JSPFの施設内は、常時裸で過ごせるように室温が年中一定に保たれている。陽葵もこの施設に来てから寒いと感じたことは一度もない(氷水を浴びせられるなどの調教プレイは除く)。なのにこの寒さ。鳥肌が止まらない。 ……違う。寒いから鳥肌が立つんじゃない。エアコンの効いていない異常な場所にいることが、陽葵をたまらなく不安にさせるのだ。この恐ろしい施設で、こんな異常なことをして、罰せられないのだろうか。でも、気になる。光希お姉さん、ホントに生きてるのっ!!?

    「いくわよ」

    低い、抑揚のない声で言うと、佐渡は鍵を開けてノブに手を掛ける。そしてノブをゆっくりと回してそっとドアを開けた。

     

    ……凄まじい糞便臭が2人を直撃した。

    「ぅううげろぁええええええええええええええええっ!!!!」

    陽葵は反射的に嘔吐した。ドアを開けただけで、臭いを嗅いだだけで、反射的にリバースしてしまった。ありえない。ありえない! 何この臭い! なにこれ!! 臭いなんてもんじゃないっ!! うげええええええええっ!!!

    「あーあ、床汚しちゃって…… 後で掃除しなさいよ?」

    どうやら佐渡の着けているマスクは、防臭効果の高い特殊なもののようだ。佐渡は、嘔吐はおろか咳ひとつせずに部屋の中へと入っていく。陽葵は口で息をしながら、躊躇いつつ後に続いた。

    8畳ほどの広さの薄暗いその部屋は、凄まじく濃厚な糞便臭で満たされていた。陽葵は、5日前の午前中の調教の際に、10人分の糞便を身体に塗りたくられたて、あまりの悪臭に発狂しかけたのだが、そんなのまるで比較にならない。床は一面糞尿まみれで足の踏み場もない有様、部屋のあちこちに糞便を集めてできた高さ50cmくらいの山のようなものが築かれていて、ありえないほど激烈な悪臭を放っていた。

    避けようという気すら起きないほどに汚物で埋め尽くされた床の上を、全身タイツに身を包んだ佐渡は平然と歩いていく。素足の陽葵は、足の裏から伝わる汚物の柔らかい感触に悪寒を覚え、半ばパニックになりながらも、どうにか佐渡の後に従いていった。

    佐渡は、とある糞山の前で止まった。信じられないことに、そこには全裸の中年男がいて、糞山の中にペニスを突っ込んでいた。何こいつ…… 何やってんの……? あまりに薄気味悪い光景に、罵声の言葉すら浮かんでこない。辺りを見回せば、他にも糞山にペニスを突っ込んでいる男が数人いるようだ。気分が悪い。猛烈に悪い。異常なんて生易しいもんじゃない。狂ってる。完全に狂ってる。この部屋はエアコンが効いているのに、寒くて堪らない。悪寒が止まらない。今すぐ帰りたい。なんなの、ここ? なんなのよぉっ!!

    「よく見て?」

    佐渡はそう言うと、糞山の一角を指差した。そこだけ少し色が違う。ウンチじゃない。ウンチ色なんだけど、ウンチそのものじゃない。所々に築かれた糞山は、全て糞便の塊というわけではないらしい。厚く積もった糞の下に「何か」ある。 ……いる。長さ80cmくらい、幅30cmくらい、高さ20cmくらいの「何か」。男のピストンに合わせて「何か」がゆっくり動いている。

    「ぅ…… ぁ……」

    その時、「何か」が声を発した。陽葵は心臓が止まりかけるほどの衝撃を受けた。この声っ!!!!

    「うそ…… そんな…… 光希……さん……?」

    「かひゅ…… ぃあ……」

    色の違う部分は、どうやら人間の顔のようだった。糞で埋まっていないとは言え、顔にも汚物が付着して、肌の色は全く見えていない。声を発しなかったら陽葵は人間の顔だと気づかなかっただろう。でもよく見れば見覚えがある。目の窪み、歯が無くなって痩けた頬、口からだらしなく伸びた長い舌、それにこれは…… 糞色に染まった…… 眼帯!!

    「光希お姉さん!!」

    陽葵は大声を上げると、汚物まみれの床に膝を付いて、光希の身体の上に積もった汚物を手でどけていく。手が、腕が、茶色に染まっていく。あまりにおぞましい感触だったが、そんなことどうでもいい! 光希お姉さんが生きてた! 生きてた!! ……でも、なんでこんなことになってんのっ!!?

    その時、陽葵の手が止まった。思考も止まった。瞬きすら止まった。限界まで目を見開いて、手をガクガクと震わせて、全身から脂汗を噴き出して。陽葵の視線の先、光希の肩。そこに腕はなかった。股関節の先に、脚もなかった。光希は既に逃亡罪によって手足を失っていたが、完全に失ったわけではなく、二の腕と腿の中程で切断されていた。だから15〜20cmくらいの短い手足が残っていたのだ。それがない。ないっ!!

    「ひ……まり……」

    自分を呼ぶ光希のか細い声を聞いて、陽葵は我に返った。そして光希の顔を見、顔や頭を覆う汚物を手でどけていく。四肢切断からまだ1週間しか経っていないからか、切断箇所には包帯が巻かれていたが、それも茶色一色に染まっていた。

    「あぁぁ……」

    汚物を払いながら涙が溢れてくる。髪が…… 髪がない。1本も。うそ…… うそでしょっ!?

    メス犬ペロ(光希)の髪は、ここ最近は抜け毛や白髪が目立ち、髪質も急速に劣化していたが、雑用係がきちんと毎朝洗って手入れをしていた。調教中に汚物を被ってドロドロのバキバキになっても、翌朝にはキレイなポニーテールに戻っていた。なのに。抜け毛が進んで、全部抜け落ちてしまったのだろうか。それとも、手足を奪った連中が髪の毛まで奪っていったのだろうか。どうせ…… どうせそっちに決まってる。 ……なんてことすんのよ。こんなウンチまみれのトコで、手足切って髪も切って。ありえない…… ありえないっ!!!!

    陽葵は座り込んだまま、首だけ佐渡の方を向いて睨みつけた。佐渡の方も、(マスクをしているので口元は見えないが)残忍な笑みを浮かべながら陽葵を見下ろし、そして語り出す。

    「ここ、8畳くらいあるんだけど、等間隔に糞山が並んでいるでしょ? この配置、この間隔、なんだか見覚えない?」

    「…………」

    「実はここ、あなたが773号室に移る前に毎朝使っていた奴隷用のボットン便所の真下なの」

    「なっ!?」

    「あなたは毎朝、仕切りも何もない床に穴が開いているだけの場所で、恥ずかしい思いをしながら糞尿を垂れ流していたわけだけど、穴の下はこんなことになってたってわけ。」

    「じょ…… 冗談でしょ? そんなの……」

    「ここは便槽。奴隷たちの終着点よ」

    「はぁっ!!?」

    「役立たずになったJSPFの奴隷やメス犬はね? 手足を完全に絶たれてここで余生を過ごすの。奴隷たちの糞尿を毎朝浴びながら、たまにやってくるスカトロマニアの客に犯されながら、毎日点滴を受けて無理やり寿命を引き伸ばされて、完全に息の根が止まるまでここで過ごすのよ。そしてその有様を全て撮影されて、世界中のキチガイどものオナネタになるの」

    「!!!!」

    「仁科さん…… いや、陽葵。お前もね!!」

    「!!!!!!!!」

    「JSPFの奴隷のうち、オークションに出品されてここから出られるのは半分もいない。私みたいに身請けされる奴隷はさらに少ない。残りは全員ここ。ここが終点。陽葵…… お前も今は10代でお肌ピチピチだけど、10年も20年もここにいてごらん? 出産を繰り返してまんこはボロボロ、ケツの穴もぶっ壊れて、胸は醜く垂れて、若白髪で糞まみれのシワクチャババァだから。そんなの価値ないでしょ? そうなったらオシマイ。お前の未来はここ。ここで糞にまみれて、糞マニアの糞野郎に犯され続けて、死んでいくの。ペロみたいに!」

    「!!!!」

    「ここ、昔炭鉱だったっていうの聞いてる? この部屋のすぐ横にものすごく深い縦坑があってね? 墓穴にピッタリでしょ? 死んだらそこにポイ。死肉は糞まみれだからあっという間に分解されて骨だけになるらしいわよ? ……それがJSPFの奴隷の末路。あなたと、あなたのお母さんと、玲香と…… この施設にいる大半の奴隷の最期よ!」

    「!!!!!!!!」

    「ああ、それから…… さっきオークションとか身請けとか言ったけどね? 私が全力で潰すから。お仕置きの頻度が高い奴隷は優秀とは見做されない。そんなヤツ、お荷物だからオークションには出されないし、身請けもされない。私がね? 毎週お前を指名してボコボコにするの。そしたら集中力が切れて次の回でミスして毎回お仕置き。それが毎週続けばJSPFの評価はガタ落ち。歯もどんどん抜かれて、お腹の子は流産して…… それを何年も何年も続けるから。お前がここに落ちるまで続けるから」

    「な…… なんで…………」

    「……この前、ペロがお前たちの前から消えた日、お前、1日じゅう奴隷たちと乳繰り合ってただろ」

    はらわたが煮えくり返った。なんでコイツだけこんないい想いをしてるんだ! なんでコイツだけ!! なんで!!! 私は!!!! 私は!!!!!

    「七海と幸せそうに抱き合うお前を見てね…… 殺してやりたいくらい腹が立った。でも、殺したらそれっきりでしょ? だから、お前に絶望の未来を教えた上で、10年でも20年でも、役立たずのカスになるまで徹底的にいたぶってやることにしたってわけ。 ……楽しそうでしょ? 覚悟しておけよ!!? 仁科陽葵っ!!!!」

    「!!!!!!!!!!!!」

    怖い! 怖い!! 怖いっ!!! 陽葵は途中から完全にパニックになっていた。心臓がありえない速度で高鳴り、血圧が150を超え200を突破する。失禁し、全身が震え、悪寒が走り、脂汗が滝のように流れる。

    怖い! 怖い!! 怖いっ!!! 地獄よりも恐ろしい部屋で、地獄の鬼ですら逃げていきそうなほど恐ろしい顔で睨まれ、あまりにおぞましい未来を宣告されて、マトモな思考力は全て消え去った。

    怖い! 怖い!! 怖いっ!!! 足元にいる光希のことも、最愛の恋人のことも、母のことも玲香のことも堀田のことも、全部頭から吹き飛んだ。

    怖い! 怖い!! 怖いっ!!! 七海とママと玲香さんが一緒なら、ここでもやっていけると思ってた。でもやっぱりここは地獄だったんだ。アタシもいつかこうなる。いつか必ず! こうなる!!

    怖い! 怖い!! 怖いっ!!! もうイヤ! この人から、鬼から逃げたい。この地獄から逃げたい! 逃げなきゃ!! 逃げなきゃっ!!! 殺されるっ!!!!

    陽葵は猛然と立ち上がると、脱兎のごとく逃げ出した。床一面の糞便に足を滑らせながらも、往きに入ってきたドアまで全速力で走った。ドアには鍵が掛かっておらず、陽葵はドアを勢いよく開けると、配管トンネルを猛然と駆け出した。寒さなんてまるで感じない。怖い! 怖い!! 怖いっ!!!

    毛細血管のように入り組んだトンネルはまるで迷路であり、陽葵はすぐに往きに通ってきた道とは違う道に入ってしまった。直後、薄暗いトンネルのあちこちで赤色灯が点き、方々でけたたましいアラート音が鳴った。すぐに警備員や調教師たちが駆け付け、陽葵はあっという間に捕縛された。

     

    8月10日23時48分、陽葵は脱走した。

     

    ……佐渡は便槽の通用口のドアの前で呆然と立ち尽くしていた。

    奴隷の体内には各種センサーが内蔵されたマイクロチップが埋め込まれており、その位置は監視システムが常時把握している。システムは、奴隷の生活動線や指名状況などを基に奴隷の可動範囲を自動で切り替えつつ、奴隷がその範囲から逸脱した場合には即座にアラートを鳴らすようにプログラミングされている。

    佐渡は、虹彩認証付きのドアを通らずに客用トイレから便槽まで行けるよう、事前に配管トンネルの経路を調べ上げ、この日の23時から明朝までの間、その経路を陽葵の可動範囲に加えるよう、予め警備員に伝えておいた。警備員には堀田の命令であると虚偽の説明をした。

    全ては陽葵に極限の絶望を与えるため。絶望の中で苦悶するJSPFの奴隷たちを差し置いて、この私を差し置いて、ひとり恋人といちゃつくこのクソガキを徹底的に潰すため。

    うまくいっていた。便槽の中にいたスカトロマニアの男たちにも、自分と陽葵が深夜に便槽を訪れたことと、会話の内容は秘密にしてくれるよう事前に大金を渡しておいた。あとは陽葵に、今夜ここで起こったことを七海たちに話したら、七海たちの手足を切ってここに捨てると脅してから、773号室に帰らせて、それで終わるはずだった。

    だが、興奮の極みにあった佐渡は、陽葵が逃げ出す可能性を完全に見落としていた。それ故に便槽の通用口の鍵を掛け忘れた。 ……遅かった。気づいた時には陽葵は既に走り出していた。「あっ!」と声を上げて佐渡は急いで追いかけたが、通用口のドアに達した時には既にアラートが鳴っていた。佐渡は真っ青な顔でそれを聞いていた。

     

    II:罪

     

    翌8月11日。1周年の日の朝6時。七海たちが起きると陽葵はいなかった。3人とも昨日の最後の調教は別々に受けており、調教が終わってシャワーを浴びた直後、3人は例によってベッドに倒れ込み、失神するように眠りに就いた。深夜3時頃に美海がぐずり出したため、今日子が起きてオムツを交換し、その際に陽葵がいないことに気づいたものの、ここ最近、陽葵は七海のベッドで一緒に寝ることが多かったため、今日子は特に気に留めることもなく、オムツ交換が終わったらすぐにベッドに戻って寝てしまった。773号室は高性能の防音シートで覆われているため、けたたましく鳴り続けるアラートも、警備員や調教師たちの足音も、3人は全く気づかなかった。

    そして朝、陽葵は忽然と消えてしまった。調教部屋やシャワー室でそのまま寝てしまったのではないかと、全ての部屋を念入りに探したが見つからなかった。そして、玲香がリビングの机の上に置いてある書き置きを見つけた。

    『光希お姉ちゃん、生きてるみたい! 調べてくるね。必ず会わせてあげるから、待ってて! 陽葵』

    3人は、光希が生きているかもしれないという情報に驚愕し、だが喜ぶどころか一気に不安になった。調べるって…… 部屋の外に出たってこと? 玄関のドアを開けるには虹彩認証をパスしないといけないし、客用トイレは鍵が掛かっているのに…… どうやって出たの? ……なんで戻ってきてないの? これって脱走したってことに……ならないよね!?

    3人の不安は、8時になっても飯森と堀田が来なかったことでさらに跳ね上がった。

    どうなってるの? こんなことこれまでに一度もなかったのに…… 昨日の夜はいつもより疲れてて、すぐに寝ちゃったから隣に陽葵がいたかわかんないよ…… 陽葵、どこにいるの? いついなくなったの? いつ帰ってくるの? 無事なんだよね? 脱走なんてしてないよね? お願い…… 早く帰ってきて…… お願い…… お願いっ!!

    陽葵…… どこにいるの? いつからいなくなったの? ああ、美海ちゃんのオムツを換えた時に七海ちゃんの部屋を見に行けば良かった…… あの時には一緒に寝てたのかしら…… それとももういなかったのかしら…… ああ、陽葵…… お願い、無事でいて……!!

    陽葵ちゃん、どこにいるの? 調べるって、外に出たの? 外はマズいよ…… 普通の奴隷ならカプセルベッドと調教室の間とかは監視システムがオフになっていて自由に行き来できるけど、私たちは七海の部屋に移ってから一度も外に出てないから、多分オフエリアはない。多分玄関の外に1歩でも出たら即アウト…… お願い、無事でいて…… お願い!!

    だが、昼を過ぎて集団調教の時間になっても、夜の少人数調教の時間になっても、誰1人来なかった。もちろん陽葵も。時間を追うごとにどんどん強まる不安。光希が生きているという情報も気になるが、陽葵が心配でそれどころではない。

    陽葵は堀田の命令で、外で何かしているのだろうか? もしかして堀田の命令で光希の生死を調べているとか? まさか。飯森は「光希は死んだ」と言ったのだ。もし生きているなら飯森は嘘をついていたことになる。堀田も。そんな人間が、光希の生死を陽葵に調べさせるとも思えない。そして、もし堀田の命令とは関係なく調べているのだとしたら、あまりに危険だ。嘘をついていた堀田が、飯森が、JSPFの人間が、真実を知った陽葵を放っておくだろうか? ……放っておくわけがない。外は敵だらけ。見つかったら終わりなのでは? 怖い。考えるのが怖い。考えれば考えるほど陽葵が恐ろしい目に遭っていそうで、怖くて怖くて堪らない。

    結局誰も来ないまま深夜0時を回ってしまった。3人はベッドにも行かず、書き置きの置いてあったリビングのソファーに座って、ひたすら陽葵の無事を祈り、帰還を待ち続けた。

     

    ……時間を巻き戻して、朝の8時、飯森と堀田は七海の許には向かわず、メス犬区画1号室にいた。

    飯森と堀田は怒り狂っていた。佐渡を天井から吊るし、普段は使わない拷問用の鞭でメッタ打ちにした。全身の皮膚がボロボロに裂け、血と肉片が飛び散り、全身真っ赤に腫れ上がっても尚、鞭を振るい続けた。気絶するたびにスタンガンで起こし、ショック死しないように気付け薬を皮下に注射し、泣き叫ぶ佐渡の口を正面から拳で殴り付けて残り少ない前歯を全てへし折る。手足の爪は20枚全て剥がされ、右手の親指と薬指は前歯とともに床に転がっていた。右目には釘が打たれ、左の乳房は裂けて中の脂肪が飛び出してしまっている。凄惨な拷問の中で佐渡は洗いざらい自白したが、自白が終わっても拷問が終わることはなかった。

    陽葵への嫉妬! たったそれだけ! そんなくだらない理由で!! 姉の死という不可避のハードルを乗り越えさせ、あとはもう好きなだけ七海を可愛がっていこうと思っていた。1年、5年、10年、30年。自分が老衰で死ぬまで、毎日七海と愛娘たちを愛(虐待)していこうと思っていたのに! 七海の処女を奪って1周年となる今日。七海が理想の奴隷となるようひたすら調教してきたこれまでと、理想の奴隷となった七海をさらに調教し続けていくこれから。その結節点である記念の日。よりによってこの日に。なんてことをしてくれたんだ、このゴミクズは! 全部…… 全部パアじゃないか!!

    堀田もまた激怒していた。堀田の名前を勝手に使って陽葵を外に連れ出し、会員客を買収してまでこのような愚挙に出るとは! 七海は堀田にとってもお気に入りの奴隷だったし、仁科母娘も七海の影響を受けてか、当初の期待以上に良質な奴隷になりつつある。七海の人気はJSPFの中でもダントツのトップで、773号室は連日の大盛況。新たな調教部屋も続々と作っている最中だ。姉の死という特大の不安要素をクリアして前途洋々。堀田も七海と仁科母娘の今後に大いに期待していたし、記念日たる今日は、JSPFを挙げての大イベントを行う予定だったのだ。それを…… 嫉妬に狂った飼い犬に台無しにされるとは!!

    脱走した奴隷は四肢切断。これはJSPFの鉄則だ。陽葵たちJSPF専属の奴隷はもちろんのこと、七海のように会員個人が持ち寄った奴隷にすら適用される。そこに酌量の余地は一切ない。

    例えば、ポチは施設から故意に逃げようとしたわけではない。連日の過酷な調教でフラフラになり、ベッドルームに帰る途中で道を間違えた。すぐにアラームが鳴った。そこで立ち止まって、駆け付けた警備員に事情を話せば、抜歯1本程度で済んだのだが、当時14歳だったポチは、パニックに陥ってそのまま逃げ出してしまった。これは紛うことなき脱走であり、酌量はなされなかった。

    当然、陽葵も脱走罪となった。四肢切断刑(麻酔なし)の執行は既に決定済みである。佐渡の自白は一切斟酌されず、幹部の堀田への忖度なども行われなかった。 ……脱走罪とは、それほどまでに絶対的な存在なのだ。

    JSPFにとってはそれで良いのだが、飯森にとっては最悪だった。なにせ陽葵は七海と相思相愛なのだ。最愛の恋人が四肢を断たれてメス犬になるなどと知ったら、七海が受ける精神的ショックは計り知れない。しかも、姉の死の際には事前に入念な準備を行ってきたが、今度は一切それがないのだ。

    しかもより悪いことに、陽葵は書き置きを残していき、七海はそれを読んでしまった。

    深夜、陽葵の脱走が発覚した直後から、飯森は堀田に頼んで七海たち3人の監視を強化させたのだが、強化したのは七海の寝室と世話係の部屋、それに陽葵が便槽に向かった経路である客用トイレなどに限られ、書き置きの置いてあったリビングは対象外だった。朝になって玲香が書き置きを発見する前に、その存在に気づくことができていれば、警備員を向かわせて密かに回収することもできたのに。

    朝の6時に七海たちが起き、リビング含め各部屋を回って陽葵を捜索している間、数十台のカメラは3人を映し続け、飯森と堀田もそれを見ていたが、小さく折り畳まれた書き置きには気づけなかった。そうこうしている間に玲香が発見し、すぐに読んだ。そして七海に渡す。七海がそれを読んでいる間、七海の後方に設置されているカメラが書き置きにズームし、飯森と堀田は七海と同時にそれを読んだ。

    『光希お姉ちゃん、生きてるみたい! 調べてくるね。必ず会わせてあげるから、待ってて! 陽葵』

    最悪の内容だった。

    光希はJSPFの奴隷であるから、その処分はJSPFの規則に則って行われる。死期が近づき、役立たずと判断された奴隷(メス犬含む)は、四肢を完全に断たれて全身の体毛を永久脱毛され、便槽に放置される。そして死の瞬間までスカトロマニアの慰み者となり、死んだら縦坑に落とされる。これもまた不可避の鉄則であるが、こちらについては七海のような個人所有の奴隷には適用されない。

    ……最愛の姉がこのような悲惨な末路を辿ると知ったら、七海は激しく動揺するだろう。発狂してしまうかもしれない。だからこそ、光希が四肢を断たれる日の朝、光希が死んだと飯森は七海に告げたのだ。光希は既にいつ死んでもおかしくないくらい衰弱していたので、4人は光希の死体を見ることなくその死を受け入れた。絶叫する七海を最も強く支えたのは陽葵だった。姉に代わる精神的支柱。それは娘の美海でも、玲香でも今日子でもなく、陽葵なのだ。恋人の陽葵がいたからこそ、七海は姉の死を乗り越えられたのだ。

    その陽葵が書き置きを残して消えた。死んだはずの人間が生きているなど、にわかには信じ難いが、陽葵が消えてしまったことで真実味が出てくる。恐らく七海は、姉は生きていると信じ込んでしまったに違いない。と同時に姉は死んだと言った飯森に強い不審を抱いているはずだ。それは現在の絶対服従の関係に大きなヒビを入れてしまうだろう。

    七海は姉に会わせろと必ず言ってくる。その時、どうするか。会わせたらまず間違いなく発狂する。会わせなかったら陽葵の件と合わせて飯森への不審がさらに膨れ上がり、服従心は霧散してかもしれない。どちらにしても、理想の七海がいなくなってしまう。1年かけて作り上げてきた理想の七海が! このゴミクズのせいで!! 愛しの七海が!!!

    飯森と堀田は、さらに暴行を続けた。死なない程度に、死ぬよりも辛い苦しみを与え続けた。しばらくして、さすがに血の臭いに飽きてきた2人は、佐渡の耳元で処分方法を伝えた。佐渡は元JSPFの奴隷だが、堀田が身請けしているため生殺与奪は堀田の一存で決められる。そのあまりに恐ろしい処分方法に、佐渡は恐怖のあまり失神した。スタンガンを食らわせてももはや起きることはなかった。

    堀田と飯森は裏沢を呼んでゴミを片付けさせると、シャワー室で血しぶきを洗い流してから、服を着て拘束中の陽葵の許へと向かった。

     

    ……再び時間を巻き戻して、8月11日深夜0時過ぎ。捕縛された陽葵はJSPF内の牢獄に入れられていた。猿轡を噛まされ後ろ手に縛られたまま、粗末な簡易ベッドに腰を下ろし、ただ呆然とコンクリートの壁を見つめていた。

    やっちゃった。逃げちゃった。逃げたら光希お姉さんやポチのようになるから絶対逃げないって、七海と一緒にここで生きてくって決めてたのに。ここは辛いことしかない地獄のような場所だけど、それでも七海と一緒なら大丈夫って思ってたのに。

    佐渡先生のあの顔が心の底から怖かった。爪先から頭のてっぺんまで全身くまなく震え上がった。先生から逃げたくて、あの恐ろしい目から逃れたくて。 ……でもそれだけじゃない。

    まさか光希お姉さんがあんな恐ろしいことになってただなんて! ……手足、いつ切られたんだろう。飯森様がお姉さんは死んだって言った時? アタシたちみんなで泣いてた時? みんなで七海を励ましてた時? セックスしまくってた時? それとももっと前? 前の日? 前の日に光希お姉さんがみんなにお別れを言って、その後体調が優れなくって医務室に行って、それっきりだったけど、医務室じゃないとこに連れてかれたの……? 怖い! 怖い!! 怖いっ!!!

    光希お姉さん…… メス犬の身体でもなんとか動けてたけど、あんなふうになっちゃったら全然動けないよね…… 上からウンチが落ちてきても避けれない…… アタシ…… 今の部屋に移る前は真上のトイレ毎朝使ってた…… 何も知らずに…… 信じらんない…… なんなの? なんなのっ!? 毎朝大量のウンチやオシッコを浴びて、避けれないし片付けらんないし、身体の上にどんどん積もって、どんどん臭くなって、なのにキショいオッサンに犯されて、抵抗も何もできなくて…… 点滴で無理やり生かされて…… そんなの……ありえないでしょ!!

    でも。アタシもいつかああなるんだ。たぶん近いうちに手足ちょん切られてメス犬にされて、光希お姉さんやポチみたいにメス犬区画のくっさい部屋に閉じ込められて…… そのうち用済みって言われて、手足全部失ってハゲにされて、トイレの下に閉じ込められて、ウンチまみれになって、死んだら穴に捨てられるんだ。もし奇跡が起きて今回はメス犬にならずに済んだとしても、先生が言ってたみたいに、10年、20年経って、アタシもオバサンになったら、お前は用済みだって言われて、やっぱりあそこなんだ、きっと。それじゃおんなじじゃん! どうなってもあそこで死ぬしかないっていうの!?

    アタシだけじゃない。七海……は飯森様の奴隷だから違うかもしんないけど、ママも玲香さんもポチも、この施設にいる大勢の奴隷も、たぶんアタシとママのお腹の中にいる子も、みんな最後はあそこなんだ……!!

    あ、そうか。先生が言ってたオークションとかミウケとか、そういうのでこの施設から出られれば、あそこで死ななくてもいいんだ……。でも無理。先生が邪魔するって言ってたし。逃げちゃったし! もう手遅れ!!

    怖い…… 怖い…… なんなのここ…… なんなのここ!! 恐ろしい場所だって…… 狂ってるって思ってたけど、まさかここまでヒドかったなんて!!!

    七海…… 会いたいよ…… 七海…… ママ…… 玲香さん…… またあの部屋で、みんなで暮らしたいよ…… でもメス犬になっちゃったらもう無理…… それに…… 会ったとしても、光希お姉さんのこと、どうやって七海に言えばいいの!? お姉さんは死んだってウソをつきながら、あんなヒドいことしてた飯森様や堀田様にも、どんな顔して会えっていうの!!?

    陽葵はベッドに腰掛けたまま、一睡もできずに朝を迎えた。途中何度かベッドに横になってみたが、ノルアドレナリンが過剰に分泌されているためか、疲労の極みにあるのに睡魔は一切襲ってこなかった。

    朝8時過ぎ、佐渡を血祭りに挙げた堀田と飯森が牢の前に現れた。陽葵は恐ろしくて堀田の顔を見ることができず、震えながら牢の床の上に土下座した。猿轡があるのでうまく喋れないが、必死に謝罪の言葉を連呼した。

    「おえんあはい(ごめんなさい)! おえんあはい! おえんあはいっ!!」

    「……愚か者め」

    「おえんあはい! おえんあはい! おえんあはいっ!!」

    「これから猿轡を外す。何があったのか正直に話せ。嘘をついたり余計なことをしたら、母親共々直ちに便槽に突き落とす」

    「ひぃっ!!」

    「いいな?」

    「…………(こくん)」

    ……そっちだってウソついてたくせに。陽葵は一瞬そう思ったが、口にする勇気はなかった。

    堀田は南京錠を開けて牢内に入り、陽葵の猿轡を外してベッドに腰掛けた。飯森も牢内に入って南京錠を再施錠した後、鉄格子にもたれ掛かって陽葵の方に目をやった。陽葵は床の上に正座し、堀田の足の辺りを見つめながら、ぽつりぽつりと深夜に起きたことを話し始めた。

    「「…………」」

    話を聞き終えた堀田は飯森の方を振り返り、目を合わせた。陽葵の話は佐渡の自白内容と合致しており、どうやら嘘はついていないようだ。いきなりあの便槽と光希の成れの果てを見せられて、お前を必ずここに落とすと言われれば、反射的に逃げてしまうのは致し方ないことにも思われる。となると、やはり非は完全に佐渡の方にある。あのゴミクズめ!!

    だいたい詰めが甘すぎる。便槽の存在、光希の惨状、自分や母親の未来、縦坑での最期、それらの秘密を全てぶち撒け、特大のトラウマを陽葵に植え付けておいて、それで毎週陽葵を指名して徐々に追い込むなど、そんなことできるわけがないではないか。1人で抱え込むにはあまり大きすぎる秘密。隠し通せば陽葵の心は壊れてしまうし、話してしまえば、七海は光希の件でパニックになり、今日子や玲香もJSPF専属奴隷の末路を聞けば絶望する。4人全員が発狂すればあの部屋での生活は崩壊し、指名どころではなくなるではないか。何故それがわからぬのだ、あのゴミクズは!!

    ……だが起きてしまったものはどうしようもない。覆水盆に帰らず。今後のことを考えねばならない。堀田はそれ以上何も言わずに再び陽葵に猿轡を噛ませると、飯森と共に牢の外に出た。取り敢えず今後の計画を練り直さねばならない。

    「おえんあはい、おえんあはい、おえんあはい……」

    次第に牢から離れていく2人の足音を聞きながら、陽葵は土下座したまま謝罪の言葉をひたすら繰り返した……。

     

    ……飯森と堀田は会員用の小会議室に入り、今後について話し合った。

    まず決まっていることとして、今夜20時に陽葵の四肢切断刑(麻酔なし)が執行される。これはJSPFの決定事項であり何人も覆すことはできない。その後2週間の療養を経て、陽葵はメス犬区画9号室、これまで光希が入っていた場所に移る。これも決定事項だ。

    よって、これまでのように七海の部屋で起居を共にすることはできない。光希のようにキャリーバッグに入れて七海の部屋に毎日通わせることはできるが、衰弱著しく指名が少なかった光希と違い、メス犬になりたての陽葵はかなりの人気が出るであろうから、七海の部屋に運べるのは午前中の合同調教だけとなるだろう。

    陽葵には身体の手入れと食事・排泄のサポートを行う雑用係がつくことになる。光希とポチを担当していた雑用係は、現在ポチのみの世話をしている状況なので、その者に陽葵の世話も行わせるか。或いは、母親を、今日子を陽葵とポチの雑用係にするという手もある。その場合、今日子は773号室の外に出ることになるから、やはりあそこで起居することはできなくなる。元のカプセルベッドに戻ることになるだろう。しかし、陽葵と今日子が2人きりとなれば、陽葵は自分たちの末路を話すだろうし、そうなれば今日子も発狂して、母娘で心中を図るかもしれない。 ……どうすべきだろうか。

    正直なところ、飯森自身は仁科母娘にはまるで興味がない。メス犬になろうが便槽で朽ち果てようがどうでもいい。だが七海にとっては違う。特に陽葵は七海にとって極めて大切な存在で、そうなるように画策したのは他ならぬ飯森なのだからタチが悪い。こんなことなら七海と陽葵を恋仲になどしなければ良かった。当初の計画どおり人質は美海1人に留めておくべきだった。とは言え、七海が光希の死を乗り越えられたのは美海以外の3人、特に陽葵のおかげであることも事実である。

    ……そう、問題はその光希だ。あの書き置きがさらに事態を厄介なものにしている。あれさえなければ、陽葵が勝手に逃げたとシラを切ることもできるし、七海だけでなく玲香と今日子も773号室に監禁して陽葵との接触を断ってしまえば、光希の惨状や奴隷の末路を3人が知ることはなくなる。いっそあの書き置きも陽葵の勘違いということにするか。光希がまだ生きていると陽葵が勝手に思い込み、勝手に外に出て勝手に捕まった。そう伝えるか…… だが、賢い七海がそれを素直に信じるとは思えない。

    ……では逆に、こちらから真実を明かしてみるのはどうだろう。まず陽葵が佐渡に唆された経緯を話し、次いで奴隷の末路についても話す。ただし後者については回避方法も教える。即ち、七海は飯森の個人所有だから便槽には送られないし、陽葵含め他の3人もオークションで落札されたり、会員に身請けされれば、ここから出られる。その上で七海を光希に会わせる。七海1人だと発狂するかもしれないから、玲香を同行させるか。これで七海はどういう反応をするだろう。やはり精神が壊れてしまうだろうか。それとも……

    話し合いは7時間経っても結論が得られず、堀田は17時少し前に会議室を出、飯森は尚も1人で考え続けていたが、20時になると会議室に設置されているモニターの電源を付けた。映像はメス犬区画特別室。陽葵の四肢切断刑の中継である。

     

    III:罰

     

    陽葵は特別室の中央、処置台の上で仰向けになり、十字に拘束されていた。陽葵の真上には大きな鏡が下向きに設置されていて、陽葵は自分の姿を鏡越しに見ながら、顔を真っ青にして泣きながら震えていた。ホントにやるんだ。ホントにちょん切っちゃうんだ……!

    やだ…… やだ……! ちゃんと奴隷やってたじゃん! ご主人様にもお客様にも精いっぱいご奉仕してきたじゃん! 痛いことも苦しいことも全部耐えて、ウンチもいっぱい食べて、逆らわずに言うこと聞いてきたじゃんっ! なんで? 逃げたっていっても、この施設から脱走しようとしたわけじゃない。先生から逃げただけ。そしたら道にちょっと迷っちゃっただけ。何度もそう言ってるのに誰も聞いてくれない……!

    助けて。誰か助けて。ママ、玲香さん…… 七海。七海に会いたい。助けて。お願い。こんなのイヤ! いやあああああああっ!! ……あ。

    「ご主人様! 堀田様! 助けて! 助けてくださいっ!!」

    物音がしたので横を向いたら、ちょうど堀田が入室してきたところだった。もう堀田しかいない。ウソをついてたことなんてどうでもいいから! お願いします! 助けてください! 何でもしますから! お願いっ!!

    だが、堀田は陽葵を完全に無視して、処置台から離れた隅の方の席に座ると、陽葵の方は向かずに隣の男と何やら話し始めた。

    「なんでよぉっ!! 無視しないでっ!! 助けてっ!! 誰か助けてっ!! 七海っ!!! ななみいいいいいいいいいっ!!!!」

    陽葵は愛する者の名を必死に叫んだが、もちろん本人に届くはずもない。

    数分後、白ヒゲの目立つ黒ずくめの初老の男が処置台の横に立った。先程まで堀田と話していた男だ。直後、背後の壁に掛かっている時計の長針と秒針が12の位置で重なった。午後8時。男は低い、だがよく通る声で言った。

    「これより仁科陽葵の四肢切断刑を執行する」

    「いやああああああああああああああああっ!!!!」

    「仁科陽葵。朝にも言ったが、どんな事情があろうとお前が逃げたことに変わりはない」

    「そんなっ! 逃げるつもりなんてなかったんです! 先生が…… 佐渡先生がヒドいことばっか言うから、怖くなっちゃっただけなんです!」

    「先刻承知だ。尚、佐渡彩音は……」

    ……パチン。男が指を鳴らすと奥のドアが開いて、裏沢ともう1人の調教師がそれぞれ台車を押して入ってきた。台車に乗っているのは……

    「佐渡先生!!!!!!!!」

    心臓が止まりそうになった。否、一瞬止まった。身体じゅうをズタズタに引き裂かれて血まみれになり、目も口も胸も股間もメチャクチャになっていた。そして腕と脚が根本から切断され、切断面は茶色く焼け焦げていた。

    2台目の台車には大きな盥(タライ)が乗っていて、何かの肉が山盛りになっていた。堀田は17時にメス犬区画1号室に戻ると、失神している佐渡を蹴りつけて起こし、無麻酔のままチェーンソーで四肢を切断していったのだが、その際、根本からバッサリ斬らずに、手首に近い方から5cm間隔でスライスしていったのである。盥の中で山盛りになっているのは、その骨付き輪切り肉だった。

    「ウソ…… ウソでしょ…… なんてことを……」

    「安心しろ、陽葵」

    いつの間にか台車の横に堀田が立っていた。

    「こいつに色々と脅迫されたらしいが、見ての通りこいつはもう何もできん」

    「…………」

    「こいつはこのまま例の便槽に落とす」

    「……!!」

    「お前たちが毎日服用している大便を無毒化する薬は、傷口から侵入する雑菌の繁殖を抑える効果もあるのだが、こいつには与えん。大量に糞を食えば食中毒になって口も胃も腸も悲惨なことになる。さらには全ての傷口から大量の大腸菌が侵入して全身が炎症を起こし、発熱して化膿して壊死する。身体の中も外も、想像を絶する激痛に苦しみ抜いた末に真っ黒に腐って死ぬだろう」

    「ひぃっ!!」

    「お前をこんな目に遭わせたゴミクズは我々の方で処分するから、お前は安心してメス犬になれ」

    「!!!!」

    「いかなる事情があろうと逃げた者は四肢を失う。これを変えることは誰にもできぬ」

    「…………」

    「安心しろ。お前の場合は傷口の焼灼は行われない。切断痕は丁寧に治療してもらえる。良かったな」

    「そんなっ! 全然よくないっ! ショーシャクとかわけわかんないしっ!!」

    「ああ、焼灼というのは止血法の一種でな。切断面に焼き鏝を当てて血を止めるのだ。こいつの肩、焦げているだろう? ……凄まじい絶叫だったぞ」

    「…………」

    「切断はレーザーによって行う。故意の脱走ではないからな……」

    「…………」

    「ペロの場合は鋸(ノコギリ)だった。故意の脱走はそれだけ罪も罰も重くなるというわけだ。時間をかけてギコギコと肉や骨を砕いて引き千切るのに比べれば、レーザーは一瞬だぞ? それも4本同時。痛いのは最小限で済む。 ……良かったな」

    「…………」

    もはや陽葵には何も言えなかった。言葉が見つからなかった。怖い。堀田が怖い。佐渡先生も怖かったけど、堀田はもっと怖い。なんでこんな残虐なことを平気でやれるんだろう。佐渡先生に対してザマァミロなんてとても思えない。堀田を怒らせたら自分もミンチにされるかもしれない。怖い。心の底から怖い。 ……でも。それでも!

    痛いのが最小限で済んで良かったなって…… 良くない! そんなん全然良くないよ!! どんな方法だろうと手足を切られたらメチャメチャ痛いだろうし、手足が失くなってしまう事実は変わらない。もう二度と七海と一緒に歩けない。手を握れない。顔を触ることも髪をなでることも。悲しみの涙を流す彼女の目にそっと手をやって、優しく拭うことも。胸や股間や身体じゅうを愛撫し、クリペニスを扱き、熱く抱き締めることも。 ……なんにもできない!!

    なんでこんなことになっちゃったの!? 誰か助けて!! 七海!! いつかみたいに!! お願いっ!!! 七海ぃっ!!!!

    陽葵の周りに調教師たちがやってきて、腕と脚の切断箇所にマジックで印をつけると、その数cm手前を紐で強く縛った。身体を拘束されているので抵抗は一切できない。縛られた場所がものすごく痛い。その先の感覚が痺れてくる。調教師たちは、さらに切断箇所の周囲にレーザー装置を設置すると、一斉に陽葵から離れた。そして黒ずくめの男が静かに言った。

    「執行」

    直後、レーザー装置が稼働し、陽葵は一瞬で四肢を失った。その瞬間、痛みはなかった。手前で縛られている箇所の方が余程痛かった。が、1秒も経たないうちに激烈な痛みが陽葵を襲う。と同時に痺れていた手足の感覚がパッと消えた。そして視界に映る赤、赤、赤。

    「あぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!」

    陽葵の絶叫が特別室に響き渡った。想像を絶する痛み。だがこの痛みは、肉体的な苦痛だけに依るのではない。四肢を失った恐怖と絶望。今後への不安。七海との生活を失う悲嘆。それら全てが精神的な痛みとなって陽葵を襲う。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いいいいいいいっ!!!!!!!!

    「ななみいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!!!!!!!」

    痛みが肉体と精神の限界を超えた瞬間、陽葵はさらに高い声で愛する者の名を叫び、直後に気を失った。気を失う寸前、視界を覆う赤一色が黒一色へと変じる刹那、陽葵は恋人の顔を、幸せそうな七海の笑顔を見た。 ……見た気がした。

    横に控えていた女医と看護師が速やかに処置を施していく。彼女らは驚くほど短期間に止血し、切断面を消毒し、整形し、縫合していく。20分後、陽葵はメス犬になった。

     

    ……同刻。未だ会議室にいた飯森の顔には邪悪な笑みが浮かんでいた。陽葵が手足を失う一部始終をモニターで見ながら、ある邪悪なアイディアを思いついたのだ。否、思い出したと言うべきか。

    ここまでこじれてしまった以上、飯森が1年かけて作り上げた理想の七海を維持することはもはや不可能だ。ならば、新たな理想の七海を今一度作り直せば良い。元々いつかは、最終的にはそうするつもりでいた。やれることが極端に減るので、もう少し後にしようかと思っていたのだが、今こそそれを行う時だ!

    今日は1周年の記念日。ゴミクズのせいで散々な記念日となってしまったと落胆していたが、そうじゃない。これまでの七海の集大成の日ではなく、これから新たな七海を作り出す、その始まりの日にすれば良いのだ。1年前の今日と同じように……!

     

    IV:姉妹

     

    翌8月12日、朝8時。飯森が単独で玄関に現れた。昨夜から殆ど一睡もせずに陽葵の無事を祈り続けてきた七海・玲香・今日子の3人。彼女たちの目の下にはハッキリと隈(クマ)ができており、疲労の色が濃い。が、3人ともそれを感じさせない動きで飯森の許に駆け寄り、質問攻めにした。

    飯森は、質問には答えずにただ一言、低い声で言った。

    「陽葵が逃げた。よって、規則により昨晩手足を失い、奴はメス犬になった」

    うそ…… メス犬って…… 陽葵が…… うそ、でしょ? ……呆然と立ち尽くす七海の横で、今日子が床に崩れ落ちた。

    「いやあああああああっ!! 陽葵っ!! 陽葵ぃっ!! あああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」

    床の上でうずくまって号泣し、娘の名を連呼する母親。

    予想を遥かに超える最悪の事態に動揺する2人に対し、玲香は比較的冷静だった。やはりと思った。あの書き置きを読んだ瞬間から危ないと思っていた。ポチがメス犬になった経緯を本人から聞いている玲香は、脱走罪が、奴隷が逃げるに至った経緯を全て無視する、極めて無慈悲で教条的な存在であることを知っていた。そして脱走を検知するための監視システムが施設内のあらゆる所に網の目のように張り巡らされていることも。そんな中で、光希の生死を調べることなど陽葵にできるわけがない。玲香はそう思いつつも、それを七海や、まして今日子に話すことなどとてもできなかった。それに、堀田の命令で調べている可能性もゼロではない。玲香も夜を徹して陽葵の無事を祈り続けてきたのだが、やはりこうなってしまった……。

    玲香は、怒りと悲しみに声を震わせながら、低い声で飯森に詰問した。

    「どうしてそんなことになったんですか。陽葵ちゃんは今どこにいるんですか。 ……光希は、生きてるんですか」

    「……!!」

    呆然としていた七海が、姉の名に反応する。そう。おねえちゃんは生きてるの? あの書き置きはどういう意味? なんで陽葵はあんな書き置きを残したの? どうやって外に出たの? なんで捕まっちゃったの? なんでメス犬なんかに……! なんで? なんでっ!!?

    「ああ」

    「!!!!」

    飯森は短く肯定した。肯定した! おねえちゃんが生きてる! やっぱり生きてる!!

    七海に衝撃は殆どなかった。やっぱり、という想いしかなかった。陽葵が失踪したという事実が、あの書き置きが真実であることの証だと七海は確信していた。おねえちゃんはやっぱり生きている。だが嬉しさは微塵もなかった。だって陽葵が。陽葵が!

    姉の身体で見慣れているとは言え、人間の健康な手足を斬り落としてしまうなんてとんでもないし、手足が失くなるといかに不自由を強いられるのかも、姉の苦労を側で見続けてきた七海は充分すぎるほど知っていた。そのメス犬に、愛する陽葵がなってしまった。しかももうなった後だと言う。これからなるのであれば、止めることができたかもしれないのに。もう遅い。もう手遅れ! なんで!? なんでこんなことになっちゃったの!!?

    やっぱりあの書き置きが原因なの? おねえちゃんが生きてるって知って調べてくれたの? だったらなんで私に相談してくれなかったの? 今日子さんや玲香さんにも話して、4人でご主人様を問い詰めていれば…… 少なくとも陽葵1人が犠牲になることはなかったのに……!

    そうだ、ご主人様。やっぱりウソついてたんだ。「ペロが死んだ」って、あの時言ったじゃない! ウソつき! ウソつき!! ウソつき!!!

    七海の中に主人に対する強烈な不審感が芽生えた。七海は飯森に絶対服従を誓ったが、別に飯森を愛しているわけではないし、洗脳されているわけでも、信仰しているわけでもない。嫌々従っているわけでもない。全てを諦めて淡々と主人に付き従っているだけ。飯森がどんなに酷いことをしても無批判で受け入れようと努力しているだけ。だが、この嘘だけは看過することはできない!!

    姉が死んだと言われてどれほど動揺したか。どれほど辛かったか。絶望の底に突き落とされた七海を救ってくれたのは、玲香であり今日子であり美海であり、陽葵だった。一番最初に抱きついてくれて、ずっと一緒に泣いてくれた。慰めてくれて、励ましてくれて、冗談を言ってくれて、思わず笑っちゃって…… あれでどれほど心が落ち着いただろう。悲しみを忘れるようにみんなで快楽に溺れて、どれほど慰められただろう。ずっと愛し合おう、支え合おうって言ってくれて、どれだけ嬉しかっただろう……!

    姉の死が虚偽だったということは、陽葵のあの励ましの言葉も全て無意味になってしまったということ。あの時の陽葵の努力を、優しさを、この男が無駄にした。汚した! 踏みにじった!! それだけに留まらず、陽葵に極限の苦しみを与え、陽葵の手足を奪い、自由を奪い、未来を奪った!!! ……陽葵の失踪やメス犬化にこの男が関わっているかどうかはわからないが…… 違う!こいつのせいに決まってる! 全てはこいつのせいだ!! こいつが全部悪いんだ!!!

    七海は無言のまま主人を睨みつけた。できるなら大声で詰問したい。主人の胸ぐらを掴んで、思いっきりぶん殴ってやりたい! 首を締めて殺してやりたい!! ……それをしない自分が腹立たしい! 恋人が酷い目に遭って、なんで黙ってるんだ! なんでじっとしてるんだ! じっとしれれば酷いことはされないって…… じっとしてても陽葵が酷い目に遭ったじゃないか! 反抗したってしなくたって結局酷いことされるんなら、なんで反抗しないんだ、私!! 最低っ!!!

    七海の中に怒りが渦巻いている。誕生日プレゼントに抜歯してやった時以来の深刻な怒りが。 ……飯森はそれに気づきつつ、七海の次の行動に注視していた。どうするだろう。殴りかかってだろうか。罵声を浴びせてくるだろうか。それとも…… どう出る? 七海?

    「……陽葵に会わせて。おねえちゃんに会わせて」

    ……七海は十数秒の沈黙の後、主人を睨みつけたまま低い声で言った。敬語は敢えて用いなかった。

    飯森は薄気味悪い笑顔を浮かべながら「いいだろう」と言い、3人は飯森とともに玄関から外に出た。美海が心配だったが、少し前に母乳を飲ませてオムツの交換も終え、今は眠っているから大丈夫だろう。

    飯森は、他の奴隷との接触を避けるために中央ホールや少人数調教用の調教室を迂回しながら、陽葵のいる療養室へと向かった。その間に少しずつ真相を話していく。だが便槽や縦坑の存在については言及を避けた。

    佐渡の暴走。陽葵への嫉妬。光希が生きていることを告げ、言葉巧みに陽葵を誘い出し、光希の目の前で陽葵を散々に脅迫した佐渡。恐怖のあまり逃げ出して捕縛された陽葵。逃亡罪が適用されて四肢切断刑となったものの、余罪はないので歯は無事、違法薬物も未投与。佐渡は処分済み。

    だが、光希がいる場所の詳細、佐渡が行った脅迫の内容などについては一切触れなかった。その上で、「ペロが死んだ」と嘘をついた件に関しては、光希はこの先さらに衰弱が進んで見るに堪えない姿となるため、4人への影響を考えて死んだことにしたと説明した。 ……七海は、後半は嘘だと確信した。こんなマトモな理由のはずがない。が、それを追求する前に療養室に着いた。

     

    陽葵は療養室のベッドで眠っていた。二の腕と腿の中程で四肢は切断されており、厚く包帯が巻かれていた。

    「「陽葵ぃぃぃぃぃぃっ!!!!!!!!」」

    今日子が真っ先に駆け出し、僅かに遅れて七海が駆け出した。2人ともベッドの脇に立ち尽くし、小さくなってしまった陽葵の姿に絶句し、嗚咽を漏らし、そして泣き崩れた。大声で絶叫する2人。だが、麻酔が効いているのか、陽葵が目を覚ますことはなかった。

    玲香もまた療養室の入り口で立ち尽くし、大粒の涙を流していたが、すぐに異変に気づいた。七海じゃない。今日子。今日子の顔が真っ赤に歪んでいる。娘の身体をメチャクチャにされた憤怒、憎悪! この感じは…… 爆発する!! ダメっ!!!

    同時だった。激昂した今日子が飯森に向かって突進し、それを押さえようと玲香が今日子に向かって突進した。今日子の両手が飯森の首を掴む直前、すんでの所で玲香は今日子の腕を掴み、そのまま羽交い締めにした。

    「放して! 放しなさい! 殺してやる! 殺してやるっ!!」

    「冷静になって! 陽葵ちゃんをこんなふうにしたのは飯森様じゃありませんっ!」

    「うるさいっ! 同罪よ! ここにいる男全員! 全員同罪! 全員殺してやる!!」

    「そんなこと言って…… あなたまで酷い目に遭ったら、誰が陽葵ちゃんの面倒を見るんですか!!」

    「!!!!」

    今日子は雷に打たれたかのように棒立ちになった。

    「私はずっと光希の…… メス犬のペロとポチのお世話をしてきました。メス犬は自分では殆ど動けません。食事もトイレもお風呂も…… 誰かがお世話しないと自分ではもうできないんです!」

    「あぁぁ……」

    「今あなたが飯森様の首を絞めたところですぐには殺せません。そしてすぐに男の人が入ってきて取り押さえられます。監視されてるんですから。 ……きっと酷い罰を受けて、最悪あなたまでメス犬にされちゃったら、もう陽葵ちゃんのお世話もできないんですよ!?」

    「ああぁぁぁぁ……!!」

    「そんなことになったら、誰より陽葵ちゃんが悲しみます。だからどうか…… 怒りを鎮めてください。お願い。もうこれ以上、誰も、傷ついてほしくない…… お願いよ…… 今日子さんっ!!」

    「うああああああああああああああああああああああっ!!!!」

    後半、玲香は泣いていた。今日子も泣いていた。今日子はその場にへたり込むと、床に突っ伏して号泣した。朝から何度目だろう。どれだけ泣いても涙も鼻水も一向に止まらない。無限に湧いてくる。今日子は箍(タガ)が外れたのか、子供のようにひたすら泣き続け、玲香も涙を流しながらそっと今日子を抱きとめた。

    七海はその光景を見ながら絶望していた。 ……まただ。怒りに狂った陽葵を七海が押さえ、今日子を玲香が押さえた。同じだ。あの日の叛逆の失敗を教訓に、佐渡に対する怒りが暴走していた陽葵を七海は止めた。だが、それによって今度は佐渡の方が陽葵に対する嫉妬を暴走させてしまい、結局陽葵は手足を失ってしまった。あの行動は間違っていたんだろうか。正しい選択をしていれば陽葵は手足を失わずに済んだのだろうか。今の玲香の行動は正しいんだろうか。

    七海にはわからなくなっていた。叛逆したら手酷いしっぺ返しがやって来る。でも黙って従っていたって酷いことはやっぱり起こるんだ。じゃあもう、いったいどうしたらいいの? 反抗しても服従しても一緒なら、私はいったいどうしたらいいの……?

    ……今日子が泣き止む気配はない。陽葵が目を覚ます気配もない。七海はもう自分がどうして良いかわからなかった。どうしたら…… そうだ。おねえちゃん。おねえちゃんに会いたい……

    「……おねえちゃんに会わせて」

    先程と同じ言葉。だが明らかに覇気がない。怒気もない。

    「……いいだろう。ただし七海、お前だけだ」

    「…………」

    「……行ってきなよ。ひっく…… ここは任せて?」

    玲香は泣きながらそう言った。玲香も光希が気になるが、今の今日子を、陽葵と2人だけにしておくのは危険なような気がした。 ……七海は、飯森の後を静かに従いていき、療養室を出た。直後、飯森が語り出した。

    「お前にだけは真実を教える」

    「…………」

    「ペロは死んだと嘘をついた理由、納得していないんだろう?」

    「……はい」

    「ふふっ…… 素直だな」

    「…………」

    「ペロはJSPFの専属奴隷だからな。奴隷にせよメス犬にせよ、専属奴隷があそこまで衰弱してしまった場合、あとはもう決まっているんだ」

    「…………」

    「玲香も今日子も陽葵もペロと同じ専属奴隷。陽葵は眠っているが、奴らの前でその運命を教えるわけにはいかない」

    「……なんで」

    「自殺防止だ」

    「は?」

    「ここ、覚えてるか?」

    いつの間にか奴隷用トイレの前にいた。

    「……はい」

    奴隷用のボットン便所。仕切りも何もなく、床に開いた穴に向かって放尿・脱糞するだけの最低の便所。七海も773号室に移る前は毎日使っていた。 ……なんでいまさらこんなトコに?

    飯森は、便所の横にある黒色のドアの前に立ち、虹彩認証を行ってドアを開けた。黒は、奴隷は立入禁止であることを示す色だ。七海も当然入ったことはない。中は薄暗い階段になっていて、降りると小さなスペースがあり、重そうな鉄の扉があった。 ……七海は唐突に、この施設に連れて来られた初日のことを思い出した。虹彩認証を繰り返しながら暗い階段を降りていくと、そこには変わり果てた姉の姿が…… なんだろう。胸騒ぎがする。この中にとてつもない光景が広がっているような気がする。でも、行かなきゃ。きっとこの中にいる。おねえちゃんがいる!

    飯森が再度の虹彩認証を終えてドアを開けた。

     

    「うっ!!!!?」

    激烈な悪臭が七海の脳天を直撃した。反射的に胃液が逆流を開始するが、七海はなんとか口を閉じて嘔吐を阻止し、口の中に溢れた胃液と未消化物を全て飲み込んだ。喉が焼け付くように痛い。

    「なんなの…… ここ……!」

    まさにこの世の地獄だった。8畳程度の薄暗い部屋の床も壁も一面糞便で覆い尽くされ、その中に糞山が幾つも聳えている。いったい何人のうんちを集めたらこんなことになるの…… そう思って七海は絶句した。奴隷用のボットン便所から階段を降りてきた自分には構造がわかる。ここ、ボットン便所の真下だ! 広さも一緒だし! これ、奴隷が出したうんちなんだ!!

    「……察したようだな。そう。ここはボットン便所で奴隷たちが排泄した糞尿を受け止める場所、「便槽」だ」

    「…………」

    七海はただただ恐ろしかった。こんな場所があったなんて。そう思いつつ、七海は以前姉がしていた、用済みの奴隷は便器になって便所に繋がれるらしい、という話を思い出していた。ここが「便所」? ありえない…… ありえない!

    それに、隣にいる飯森がこの悪臭の中でも平気で鼻呼吸しているのが信じられなかった。糞便臭に慣れた七海でさえ、口で息をしないと吐いてしまいそうだというのに。飯森の変態っぷりに驚き呆れるなんてレベルじゃない。もはや恐怖しか感じなかった。

    「中に入るぞ」

    「…………」

    飯森は長靴を履いてからズカズカと便槽の中に入っていく。床は一面糞便の海。足の踏み場もないどころか、床の色がわからないほど茶色一色だ。さすがの七海も、素足で歩くことを躊躇った。だが、飯森はどんどん中へ入っていく。ということは、この中に……。七海は意を決して糞便の海の中に足を沈めた。

    猛烈な吐き気と寒気に襲われながら、七海は周囲を見渡した。部屋の中には男たちが数人いた。そして所々に積もった糞便の山。よく見たら等間隔に並んでいる。ボットン便所に空いた穴と同じ位置。上から落ちてきて降り積もったのだろう。そして、恐ろしいことに、男たちは糞山の中にペニスを突っ込んで前後に動いていた。あまりのおぞましさに、七海の胃液は再び逆流した。なんとかそれも飲み下す七海。

    そのうち、糞山のうちの1つが、他と形状が違うことに気づいた。大きな球状の糞塊が2つ。山の上に突き出ている。糞塊の上にはさらに糞棒が直立している。周囲に男はいないけど…… 僅かに…… 動いた!!? え? これってうんちの山じゃないの!? 人!!? ……まさか!!!!

    七海はその糞山の前で膝を付き、糞塊の表面に付いている分厚い糞を手で取り除いていく。これ、おっぱいだ! おねえちゃんだ!! 怪しい薬で大きくなっちゃったおねえちゃんのおっぱいと乳首!!!

    「おねえちゃん!!!!」

    七海は、姉の身体の上に積もった糞便を全て払っていく。胸に続いて腹に積もった糞便を取り除くと、下腹部に「姉犬」の文字を発見した。やっぱり! おねえちゃんだ!! こんなのあんまりだよ! 早く! 早くキレイに……  えっ?

    その時、手が止まった。思考も止まった。心臓も止まりかけた。腕がない!! 脚もない!! 髪の毛もないっ!!! ……その時、背後にいた飯森がゆっくりと口を開いた。

    「これがJSPFの奴隷の末路だ。死期が近づいた奴隷やメス犬は、麻酔なしで四肢を完全に断たれ、全身永久脱毛処理を受けてここに放置される。点滴で無理やり寿命を延ばされながら、後輩奴隷たちの糞尿を浴び、スカトロマニアの男たちにレイプされ続ける。心臓が止まる瞬間まで、な。」

    「なんてことを……!!」

    「そして死体は縦坑に落とされる。ここは昔鉱山だったと前に教えただろ? この便槽の横には恐ろしく深い縦坑があってな。そこに投げ捨てるんだ。墓穴を掘らなくていいから楽だろう?」

    「…………」

    「死体は糞まみれだから、大量の雑菌で死体はあっという間に骨だけになる。縦坑の底は、そうやって死んでいった奴隷たちの骨で埋まっているらしい。誰も見たことはないがな……」

    「……狂ってる」

    「そうだな」

    「もう、わけわかんない……」

    もう完全に理解不能だった。弱々しく呟くと、七海は考えることを放棄した。考えたくなかった。 ……奴隷の未来は陽葵の未来。いやだ。考えたくない! 考えるな!!

    糞便をあらかた取り除いたとは言え、まだまだ糞便まみれの光希に七海は抱きつき、そしてか細い声で泣き出した。

    「ふえぇぇぇん! おねえちゃん…… おねえちゃん…… もうやだよ…… こんなんもうやだ…………」

    その時、糞山が動いた。

    「な、なみ……?」

    「おねえちゃんっ!?」

    「ななみ…… どうして、ここ、に……」

    「おねえちゃん! おねえちゃんっ!!」

    「ななみ…… ないているの……? だいじょうぶ……?」

    「うわあああああああん!! おねえちゃあああああああああん!!!!」

    七海は姉を抱き締めながら大声で泣いた。強くて賢くて優しい七海はもういなかった。陽葵があんなことになって、おねえちゃんがこんなことになって。姉の姿に陽葵が重なる。陽葵も、玲香も今日子も、いつかはここで……。もうどうしたらいいかわからない。ただ姉に縋り付いて泣き喚くことしかできなかった。

    しばらく泣いて、気が済んだのか疲れたのか、七海は泣き止むと、飯森の方を振り返った。昨年に戻ったかのような弱々しい顔だった。

    「ご主人様。おねえちゃんをここから出してあげてください」

    「無理だ」

    「お願いしますっ!」

    「規則だ」

    「そんなぁっ! お願いします! お願いしますっ!!」

    飯森は七海を興味深く観察していた。本当に昨年、木下家で調教していた頃に戻ってしまったようだ。賢さなど微塵も感じられない。ただ姉に取り縋って泣き、「お願いします」を繰り返すだけ。

    結局、あの強くて賢くて優しい理想の七海は、本当の七海ではなかったということだろうか。最も傷つかない方法はあれしかないと思って、無理をして、努力して、全神経を常に研ぎ澄ませて、理想の奴隷を演じ続けてきたのだろうか。だが、それでも傷ついた。それも自分ではなく、最愛の姉と最愛の恋人が。 ……かくして砂上の楼閣は虚しく崩れ去り、元の七海に、弱々しく人見知りで優しいだけの七海に戻ってしまった。そういうことだろうか。

    昨日、陽葵が手足を失うシーンを会議室のモニターで見る前の飯森だったら、この状況を深く嘆いただろう。理想の七海が消えてしまったと。この1年が無駄になってしまったと。だが、飯森は内心ほくそ笑んでいた。そうだ。これはリセットだ。これからまた、理想の七海を新たに作っていけばいいのだ!

    ……さっそく飯森は話し始めた。

    「ならば条件がある」

    「……え?」

    「ここで最期を迎えるというJSPFのルールは、脱走罪ほど厳格なものではない。外に連れ出すことは可能なのだ」

    「!!」

    「ペロはもはや死を免れないが、それまでの間、清潔な部屋と清潔なベッド、糞尿とは無縁の環境を用意することは可能だ。男たちも近寄らせない。点滴も充分投与してやろう」

    「!!!!」

    「ここまですれば、ペロの寿命はもう少しだけ延びるだろうな」

    「ありがとうございます! ありがとうございます、ご主人様っ!」

    「まぁ待て。条件があると言っただろう?」

    「……はい」

    飯森は、ただでさえ醜悪な顔をこれまでにないほど醜く歪ませると、これまでにないほど残忍な笑みを浮かべた。

    「ダルマになれ」

    「……だる、ま?」

    「ペロと同じ、手足の全くない身体になるのだ」

    「!!!!!!!!」

    「そして773号室でオナホールとして生きていく。自分では動けず、3つの穴を俺や客たちに使われるだけのオナニーの道具になるんだ」

    「!!!!!!!!」

    「それを受け入れるなら、姉をここから出してやる。手足を斬る際は麻酔を使うこと、全身の永久脱毛は行わないことも約束しよう」

    「…………………」

    七海は呆然とした。頭も身体も完全に凍り付いた。何も考えられない。あまりに予想外で、あまりに意味不明で、あまりに残酷な話だった。オナニーの道具って…… オナホールって…… そんなのメス犬よりも酷い…… ありえないよ…………!

    「だめ……! ななみ……! そんなの、ぜったい、だめっ……!!」

    同じくダルマ状態の光希は、七海の目を見て必死に訴えた。もう大きな声が出ない。それでもなんとか声を振り絞る。そんなの絶対だめっ!!

    「わたしは、どうせ、しぬの…… だったら、どこにいても、おなじ…… ななみのてあし、むだになっちゃう……! そんなの、だめ! ぜったいに、だめっ!!」

    七海は、光希の必死の説得を、涙を流しながら聞いていた。そう。おねえちゃんならこう言ってくれる。絶対言ってくれる。 ……私はどうしたらいいんだろう。考えなきゃ。考えなきゃ。 ……だめ、考えられない。集中できない。なんで? なんで??

    その時、飯森が七海の耳元で囁いた。

    「ふふふ…… もうマトモに考えることもできないか? どれ、お前に代わって考えてやろう……」

    そう言って、飯森は「理想の七海」ならどのように考えるかをシミュレートし始めた。

    「ご主人様がこんな話をしだしたということは、ご主人様は私の手足を奪う決断をしたということなんじゃないだろうか。だとしたら、今回拒絶したところで、今後もことあるごとに選択肢を提示してくるに違いない。しかも次回の選択肢からは、麻酔ありという項目が抜けてしまうかもしれない……」

    「…………」

    「私はご主人様の個人奴隷だから、死にそうになってもここへ落とされることはないだろうが、ご主人様は私より30以上も年上だ。順番から言えばご主人様が先に死ぬ。そうなったら私は自動的にJSPFの専属奴隷だ。そしてその時点で多分オバサン。需要なんてない。酷使された挙げ句にここに落とされる。結局はダルマになる。しかも麻酔は打ってもらえない」

    「……!!」

    「やめて! ななみは、そんなこと、かんがえないっ!!」

    「ふふふ…… どうかな?」

    「…………」

    「ご主人様に逆らったからお姉ちゃんの片目は潰された。だからご主人様に絶対服従を誓った。それなのに陽葵はメス犬になり、お姉ちゃんはダルマになった。逆らっても従っても結局は同じこと。お姉ちゃんがさっき言ったとおりだ。どこにいても、おなじ。どうあっても最後はダルマ。だったら…… 痛くないほうがいいんじゃないかな?」

    「!!!!」

    「やめろぉっ!!」

    七海は呆然としながら悪魔の囁きを聞いていた。自分はこんなこと、考えるだろうか。わからない。わからないけど、確かに、今ダルマになっておけば麻酔は打ってもらえる。手足を切断される痛みなんて想像できないし、したくもないが、きっとものすごく痛いに違いない。出産よりも遥かに。そんなのイヤだ。絶対イヤだ!

    囁きはまだ終わらない。

    「唯一の懸念は美海だ」

    「美海っ!」

    「30年後ならともかく、美海は未だ生後3ヶ月だ。育児は不可欠だが、ダルマになってしまえば育児はできない」

    「!!!!」

    「でも、現状でも美海の世話は玲香さんに任せっ放しだ。他の3人よりも調教が激しいせいで、育児をする時間や体力はいつも残らない。玲香さんが忙しい時は今日子さんが代わりを務めるし、たまには陽葵が代わる。私はごくたまに哺乳瓶で授乳するくらい。そんなの子育てとは言えない。どうせ子育てできないのならダルマになっても同じことかも?」

    「……!!」

    「いいかげんに、しろ!!」

    「だったらいっそのこと自分もダルマになって、母娘で玲香さんのお世話になるというのはどうだろう? 玲香さんの負担が増えないよう、玲香さんが受けていた分の調教も全部私が引き受ければ、なんとかなるんじゃないかな……?」

    「!!!!」

    「そんなこと、ななみが、かんがえるわけ…… ないでしょ!!」

    「…………それに、ご主人様はダルマが欲しいんだ。私が拒否したら、ご主人様は美海の手足を切り落とすかも……」

    「「!!!!!!!!」」

    トドメの一撃だった。七海だけでなく光希も言葉を失った。七海は絶望し、光希は激怒した。なんてことを。七海の立場で考えるなんて言っておきながら、七海の心を揺さぶって巧みに誘導し、最後は娘を人質にして他の選択肢を潰すだなんて。なんて、なんて……

    「なんて、ひれつなの? どこまで、ひきょうなの!? あなた、アクマよ……!!」

    光希は涙を流しながら飯森を罵った。さっきまでよりもさらに覇気が落ちている。最後の一言、あれを言われてしまったら七海に選択肢はない。ただでさえ絶望に次ぐ絶望で思考力が落ちているというのに。次に七海が言うであろう言葉を、光希はもう否定できない。自分の手足と娘の手足を天秤に掛けられて、自分の手足を失う決断する母親を、責めることなんてできない。できるわけがない。

    「……………………わかりました。私、ダルマになります」

    「ああぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ…………!!」

    長い沈黙の後、七海は小さな声で言った。光希は慟哭した。絶望に塗り潰された真っ黒な声が、便槽の中を弱々しく満たしていった。

    「でも、あの、ひとつだけ確認させてください」

    「なんだ?」

    「ウソ…… ついてませんよね? おねえちゃんをこのままにしたり、しませんよね?」

    「ああ、約束しよう。手足の切断手術をするより先に、光希を他の部屋に移してやる。お前にも見届けさせてやろう」

    「わかりました」

    「じゃあ出るぞ。そこにシャワー室がある。お前と光希の汚れを落とせ」

    「……はい」

    七海は飯森の言葉を信用できなかったが、もう他に何も考えられなかった。七海は、悲しいほどに軽い姉の身体をそっと抱きかかえて、便槽の入口横に設けられたシャワー室に入った。奴隷の成れの果てを陵辱した後、男が汚れを落とすための場所で、七海は自らと姉の身体に付いた糞便をシャワーで落としていった。

    顕(アラワ)になる骨と皮だけの身体。それに対して不釣り合いなほどに膨らんだ巨乳。普通、これだけ痩せてしまえば、いかな巨乳と言えども萎んで垂れ下がってしまうものなのに、違法薬物の過剰摂取によって膨らんだそれは、未だパンパンに膨らんだまま、まるでメロンのようだった。姉の身体から栄養を、体重を、ありとあらゆるものを吸い取って膨らみ続ける呪われた肉塊…… 七海はそんなことを思いながら乳房の汚れを落としていく。

    ここまでは見慣れている七海も、永久脱毛されて髪の毛も眉毛も睫毛も、何もかも失くなってしまった姉の顔は、あまりに無残で、見るに耐えなかった。 ……それでも見ないわけにはいかない。恐らく今生の別れになるのだから。七海が四肢を失って切断箇所の傷が治って麻酔が切れて目覚めるまでに1ヶ月以上かかると飯森は言っていた。さすがにそれまでは保たないだろう。だから最後の最後。今度こそ、本当のお別れ。

    ……飯森が見守る中、七海は糞色の包帯を慎重に外し、抜糸も済んでいない縫合部にもぬるめのシャワーをそっと当てて汚れを落とした。続けて柔らかなスポンジにたっぷり洗剤を付けて、光希の全身をくまなく洗っていく。顔、頭、首、肩、胸、腹、背中、腰。それだけしかない。縫合部は、スポンジではなく素手でそっと洗っていく。ズタボロになった膣や肛門に手を挿れて、こびり付いた汚れを掻き出していく。もう苦痛も快楽も何も感じていないようだった。眼帯も外して目の周辺を優しく洗い、口の中の汚れも手で掻き出して歯茎や長舌を手で磨いていく。最後に全身にシャワーを浴びせて泡を落とし、ようやく全身の洗浄が終わった。

    こんなにも大変だったんだ。これを玲香さんは毎日やってくれてたんだ。そして、ダルマになった私のお世話は……。飯森の言う通り、母娘ともに玲香に世話してもらうことになるのだろう。そこまで玲香に押し付けるのか。彼女だって奴隷なのに。辛い思いをしているのに。だが、美海の手足を人質に取られてしまってはもうどうしようもない。

    光希は、七海が身体を洗ってくれている間、なんとか七海も美海もダルマにならずに済む方法を考えた。脳細胞も死に始めている中、必死に必死に考えた。唯一考えついたのは、人質役を七海でも美海でもない第三者に移すこと。でも、自分はもう既にダルマ状態で、しかも瀕死だ。人質としての価値はない。じゃあ陽葵ちゃん? 玲香さん? 今日子さん? ……そんなことできるわけないじゃない! 一瞬でも考えた自分に腹が立つ! やっぱりいない。人質を代われる人なんていない。七海がダルマになる以外の選択肢がない。1個もない……

    七海は、飯森が呼んだ裏沢からキャリーケースを受け取ると、自ら光希を中に入れてケースを閉じ、大事に大事に抱きかかえた。ケースを引きずって運ぶなど考えられなかった。七海は飯森の後に従いてシャワー室を出、階段を登ってボットン便所の前を通り、しばらく歩いて、小さな部屋に入った。真ん中にベッドが置かれただけの簡素な部屋だった。

     

    七海はケースから光希を出した。これまでならケースを開けた瞬間に辺りに糞便臭が広がったのに、それがない。それが悲しい。 ……七海は、清潔そうな真っ白なシーツが引かれたベッドの真ん中に光希を寝かせた。そして唇にそっと唇を重ねた。

    「じゃあね、おねえちゃん」

    「ななみ……」

    「これまで、ありがとう…… ひっく」

    「こっちこそ、ありがとう…… ぐすっ」

    姉妹は互いに礼を言ったが、それ以上言葉が続かなかった。そしてしばし互いを見つめ合う。痩せ衰え、歯も左目も髪も眉毛も睫毛もない姉の顔。頬が痩け、歯もなく、額に入れ墨を入れられた妹の顔。だが、脳裏にはあの頃の顔が重なっていた。

    昨年の8月4日の朝。光希が両親とスポーツ用品店に出掛ける前。一家4人で食卓を囲んで食べた朝食。姉妹はテニスの話題で盛り上がっていた。姉は太陽のように眩しい笑顔、妹も月のように穏やかな笑顔。互いに笑いながら幸せの時を過ごしていた。

    あれから1年と8日。まさか、こんなことになるなんて。見るも無残に変わり果てた互いの顔を見ながら、無言のまましばしの時間が流れた。 ……先に口を開いたのは姉だった。

    「わらお?」

    「え?」

    「さいごに、ななみの、えがお、みたい」

    「……うん。私も。おねえちゃんの笑顔、最後に見たい」

    姉妹は同時に笑った。目に大粒の涙を溜めながら、口の両端を上げて、歯茎を見せないよう口は閉じたまま、互いを見つめ合って。薄く、優しく、静かに笑った。

    そして同時に言った。

    「「……さよなら」」

    七海はベッドから降りると飯森に睡眠薬を渡され、その場で飲んだ。急速に眠気に襲われ、七海は崩れ落ちながら意識を失った。その寸前、声が聞こえた、気がした。

    「七海っ!」

    声のした方を振り向くと、真っ黒に日焼けして、真っ白な歯を見せて、ポニーテールの髪を風にたなびかせながら、太陽のように眩しい笑顔で妹を呼ぶ姉が、そこにいた、気がした。

    飯森は、床の上で眠りこけている七海を自らストレッチャーに乗せると、部屋から出て行く。その際、光希に一言だけ声を掛けた。

    「じゃあな、ペロ」

    「…………」

    裏沢は、飯森がいなくなると、光希を再びキャリーケースに押し込んだ。戸惑う光希を完全に無視してケースの蓋を閉める裏沢。次にケースの蓋が開いた時、光希は猛烈な糞便臭に襲われた。

    裏沢は光希をもといた場所に乱雑に置くと、何も言わずに出て行った。便槽のドアを閉める直前に光希が弱々しく叫んだが、すぐに分厚いドアに阻まれて聞こえなくなった。

    「うそつきいぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」

    JSPF専属奴隷の最期の場所はあくまで便槽。死ぬ前に「一時的に」外に連れ出すことはできるが、その鉄則は誰にも変えられないのである。

    尚、この時、光希の4つ隣の糞山の下に佐渡がいた。ダルマにされて身体は動かず、声帯を潰されて声を上げることもできなかった。大量の糞を詰め込まれて口も食道も胃も腸も炎症を起こし、酷い食中毒症状が出ていた。身体中の傷口から雑菌が侵入して全身が化膿し、一部では壊死し始めていた。男たちも気持ち悪がって近づかなかった。身体の中も外も灼熱の激痛に絶えず襲われているのに、身体を動かすことすらできない。姉妹や飯森の声を聞きながら、佐渡はひたすら後悔していた。心の中でごめんなさいを繰り返し唱え続けた。だが3人が佐渡に気づくことはついになかった。

    ……数時間後、飯森はJSPF内の手術室において、自ら七海の手足を切断した。切断された手足は血を抜いて防腐処理が施され、773号室のリビングに飾られた。

     

    V:新たな地獄(1)

     

    それから2週間の間、玲香と今日子は奴隷奉仕免除となり、療養室にベビーベッドその他を持ち込んで、美海の世話をしつつ、付きっきりで陽葵の側にいた。たまにやって来る女医の話では、陽葵の術後経過は良好とのことだった。

    だが、問題はもう1つあった。七海まで行方不明になってしまったのだ。女医に聞いても知らないの一点張り。飯森も堀田も療養室には一切顔を見せない。2人は療養室に監禁状態で、773号室に戻ることもできず、七海と陽葵のことが気になって夜もあまり眠れなかった。特に今日子は不眠の度合いが激しく、ストレスから急速に白髪が増えていった。

    2週間後の朝、キャリーケースを持った裏沢が療養室に入ってきた。陽葵をケースに入れると、今日子に同行を命じ、玲香には美海とベビーベッドを持って773号室へ行くよう命じた。

    調教区画を過ぎて階段を降り、メス犬区画へ。今日子は、娘の入ったケースがゴロゴロと引きずられる様が我慢できず、自分がケースを抱きかかえて運ぶからと裏沢に頼み込んだが、「慣れろ」と短くあしらわれた。

    光希がかつて使っていた9号室の前で裏沢は止まり、虹彩認証をパスしてドアを開けた。脱臭剤のおかげで、部屋中に染み付いていた糞便臭は消え去っていたが、淀んだ空気と薄暗い照明は以前のままだった。

    部屋の真ん中で裏沢がケースを開けると、陽葵は既に目を覚ましていた。

    麻酔が切れていた陽葵は、運搬時の振動で目を覚ました。そして真っ暗なケースの中で、ひとり絶望していた。手足がない。見えないけどわかる。ケースの中で身体を激しく揺すられながら、手足で踏ん張ることができない。ホントにメス犬になったんだ! 手足なくなっちゃったんだ!! 夢じゃ、なかったんだ!!! 陽葵はケースの中で泣き喚こうとし、もう1つの異変に気づいた。そしてさらなる絶望の中に叩き込まれた。

    「うああああっ!! あぅ!! んあああっ!!」

    ケースから出た陽葵は、短くなった四肢をばたつかせながら辺りを見回し、母親の姿を見つけると声を張り上げた。

    「あういあ! んあっ! おあぁあん!!」

    ああ、やっぱりだ。言葉が…… 言葉がしゃべれない! なんで!? 声は出るのに、あいうえおしか言えない! なんで!? 光希お姉さんもポチも普通にしゃべれてたのに!! なんでっ!!?

    「あぅああ!! いあぁ!! おいあうああうあっ!!」

    今日子も異変に気づいた。短い四肢をばたつかせる姿があまりに悲しくて、見ていられなくて、今日子は思わず目を逸らしたのだが、声を上げ始めた陽葵がいつまで経っても母音しか発しないことに気づいた。始めは、麻酔が残っているからだと思った。だが様子がおかしい。今日子は娘の口元を凝視した。普通だ。歯も舌もある。口にも喉にもどこにも外傷はない。なのに、なぜ喋れないの? なぜ!? なぜっ!!?

    ……陽葵は、この施設の秘密を、便槽と竪穴の秘密を知ってしまった。だが、ここには隔離状態だった773号室と違って、ポチを始め多くのメス犬たちがいる。それに今日子も玲香も未だその秘密を知らない。故に、陽葵をそのままにしてはおけないのだ。陽葵はレーザー装置によって四肢を断たれた後、声を失うことなく言葉のみ発することができなくなるよう、追加手術を受けさせられていたのである。

    何らの説明もないまま、絶望の底で陽葵と今日子は抱き合い号泣した。と、その時、9号室に大勢の男たちと、メス犬のポチが入ってきた。さらに堀田が入ってきて、母娘に向かって言った。

    「さあ、今日の調教を始めるぞ。これからは午前の調教はここで行う。用意はいいか? ヒナ、今日子!」

     

    ……その頃、玲香は773号室に移動していた。そして虹彩認証をパスして中に入り、寝室兼育児室に入った途端、絶句した。身体も思考も呼吸も脈も心臓も、何もかも一瞬停止した。

    七海が、いた。手足が、なかった。この2週間ずっと一緒にいた陽葵とも、半年以上世話してきた光希とも違う。手も足も、付け根から全部失くなっていた。丸っこい胴体と、その上に首。たったそれだけ!

    「やあ、玲香」

    後ろで声がした。ようやく玲香の時が動き出した。飯森だった。

    「七海はご覧の通り「ダルマ」になった。玲香には引き続き七海の専属世話係になってもらう。七海と美海の世話。それがお前の仕事だ。いいな?」

    「ダルマ……」

    時は動き出しても、思考が追いつかない。何を言ってるの? この男は……

    「七海が起きるのは約2週間後だ。それまでは美海の世話を中心に、1日1回七海の身体を拭いてやってくれ」

    「…………」

    「それから、仁科母娘は基本的にはもうここには来ない。陽葵、じゃなかった、ヒナはメス犬区画9号室で生活し、今日子は雑用係となってカプセルベッドで寝起きしながらヒナとポチの世話をする。以前のお前のようにな」

    「…………」

    「七海が起きたら、午前中の調教だけは堀田氏と合同でこの773号室で行う。その時だけは仁科母娘もここへ通うことになる」

    「…………」

    「因みに、773号室は、この七海の寝室と隣のリビング、奴隷用のシャワーとトイレ、あとお前の部屋…… それ以外は全面リニューアル中だ。今は入れないからな?」

    「…………」

    「七海が起きるまでは、ここにやってくる客の相手は全てお前がしろ。場所はリビングとトイレのみ。大変だろうが、美海と七海の世話を忘れるなよ?」

    「…………」

    「以上だ」

    玲香は何も言えなかった。無視とかではなく、本当に言葉が出てこなかったのだ。この男は、七海のことを愛しているんじゃないの? なんでこんな酷いこと、平気でやれるの? 信じられない…… 信じられない……!

    言いたいことだけ言ったら、すぐ部屋から出ていこうとする飯森に対し、玲香はようやく一言だけ絞り出すことができた。

    「…………狂ってる」

    「結構。最高の賛辞だ」

    「…………」

    玲香はそれ以上何も言えなかった。飯森と入れ替わるようにして、男たちが入ってきた。奴隷たちの休息は終わったのだ。

     

    ……同じ頃、光希はついに息絶えた。男がペニスを光希の膣に挿入したら、中が冷たくなっていたのだ。男はスマホで光希の死亡を報告すると、死姦を開始した。しばらくして、光希の死を知った男たちが続々と便槽に入ってきて、光希の冷たい穴にペニスを突っ込み、射精していく。記念と称して右目をくり抜いていく者もいる。やがて糞まみれの死体の表面が白濁液で覆われると、男たちは、重さ10kgにも満たない光希の死体を皆で担ぎ上げ、隣の縦坑まで運んで穴の中に勢いよく投げ捨てた。あまりに深く、底の見えないその穴。落下音は聞こえなかった。

    光希は数百人分の人骨の上に落下した。重い頭部が下になって落ちていったため、光希は骨の海に真っ逆さまに墜落し、鋭利な骨の破片が頭蓋骨に突き刺さって脳味噌が周囲に飛び散る。この状態のまま光希は朽ちていく。

    周囲には、真っ黒に腐った挙げ句、細菌に分解されてバラバラになった「何か」の成れの果てが散らばっていた。

     

    VI:新たな地獄(2)

     

    9月12日。七海が四肢を失ってちょうど1ヶ月後、七海は目覚めた。

    「ああい?(七海?)」

    目の前に陽葵がいた。よかった…… 陽葵がいる。なんだ、全部夢だったのか……

    だがすぐに異変に気づく。陽葵の手足がない。自分のもない。身体が動かない。全く動かない。首しか動かない!

    「あぁぁ…………」

    ああ、ホントになってしまったんだ。ダルマに。オナホールに!

    「ああい…… おあっあ…… いいええおあっあおぉ……(七海…… よかった…… 生きててよかったよぉ……)」

    目の前ではメス犬になった陽葵が泣いている。よかった。お互い酷い身体になっちゃったけど、取り敢えず生きててくれた。無事みたいでよかった……んだけど、なんか変。なんだろ。なんで陽葵、あーうーしか言わないの? 猿ぐつわとかされてないのに。 ……え? ちょっと! なんで!? なんで言葉、しゃべれないの!? なんで私の名前、呼んでくれないの!!? 陽葵っ!!!?

    違和感は急速に膨れ上がって不安となり、衝撃、動揺を経て絶望となった。陽葵が…… 陽葵がっ!!

    そしてようやく辺りを見回す。手と足がない。玲香さんもいない。おねえちゃんも、ご主人様も。 ……あれ? なんで今日子さん、あんなに髪の毛白いの? 染めた……わけじゃないよね? 白髪? まだ若いのに…… ちょっと前まで真っ黒だったのに!

    何がどうなっているんだろう。色々陽葵に聞きたいが、言葉にならない。だって陽葵、言葉が……!!

    半ばパニックになりかけているところに、飯森と玲香が入ってきた。玲香は大きな姿見を持っていた。

    「おはよう、七海。気分はどうだ?」

    「……ご、主人さま」

    「今日からお前は俺のオナホールだ。末永く使ってやるからな」

    「…………」

    飯森の横に置かれた鏡。首だけ動かして鏡を見ると、そこにはオナホールとなったダルマの自分が映っていた。よく見たら下腹部にいつの間にか「妹ダルマ」という焼印が捺してある。それだけではない。言葉を失ったメス犬のヒナ、若白髪が増えた今日子、涙を流して俯いている玲香、邪悪な顔で笑う飯森。4人の姿も映っている。 ……そして光希の姿はない。

    あの夏の日。自宅を警察官が訪ねてきたあの時から1年と39日目。新たな地獄が始まったのだ。七海は堪らず絶叫した。

    「もういやああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!」

     

    VII:永遠

     

    ……あれから29年の月日が流れた。

     

    既に多くの者がこの世の地獄から解放されて天国へと旅立っていった。そして今、78歳になった飯森則夫が真の地獄に落ちようとしていた。末期の癌。癌細胞は既に全身に転移しており、余命1週間と宣告されてから9日目。抗癌剤の影響で白髪は全て抜け落ち、小太りだった身体は見る影もない。七海に絶望と快楽を与え続けた剛棒も、今は萎びた生ゴミのようだ。そんな枯れ枝のような身体で病室のベッドに横たわり、管まみれになって全身の疼痛にひたすら耐えていた。

    傍らに七海がいた。46歳になった七海は、一男四女を産んで骨などはかなり脆くなり、昔と同じ色に染められている髪も、染料の下は既に総白髪となっていたが、世話してくれる者たちの日々の手入れと、飯森が行わせた整形・美肌・老化防止など様々な手術のおかげもあって、表面的には信じられないくらいの若さと美貌を保っていた。手も足もないダルマ姿でベッド横の椅子に座り、飯森の方を静かに見つめていた。

    ……飯森が沈黙を破った。喋ったのは2日ぶりだ。

    「七海…… どうやらこれまでのようだ…… これまでありがとう…… すまなかったな……」

    「…………」(いまさら…………)

    「最期に…… 声を…… 聞かせてくれないか……」

    「ご主人様。最後に1つ、お願いがあります」

    「……なんだ? 癌に殺される前に自分で殺したいか? 儂を……」

    「……違います。逆です。死ぬ前に私を殺してください」

    「…………」

    「癌で死のうが私が殺そうが、ご主人様が死んだら私は自動的にJSPFの所有物になります。ご主人様以外の人に抱かれ続けて、使われ続けて、いつかは便槽に落ちる運命です」

    「…………」

    「こんな身体では自殺もできません。歯がないから舌も噛み切れません。ですから…… お願いです。私を殺してください。一緒に死んでください。 ……もう、これ以上、私に酷いこと、しないでください。お願い、します……」

    「七海……」

    「そこの花、花瓶、ガラスですよね。落として割って、ガラスの破片で私の首を切ってください」

    「ふふっ…… 最後に主人に命令するか…… だが手が届かん」

    「立って取りに行ったらいいじゃないですか」

    「そんな力、残っとらんわ…… それに立ったら管が外れる」

    「だから今まで言わなかったんです。もうすぐ死ぬんですよね? だったら立っても同じことじゃないですか」

    「ふ…… ふはは…… お前は本当に賢いな…… わかった。やってみよう」

    「ありがとうございます、ご主人様」

    飯森はベッドを起こすと最後の力を振り絞って立ち上がった。管が次々に抜けていく。なんとか花瓶の前までやって来ると、花瓶を掴み上げようとしたが、手はもうマトモには動かなかった。仕方がないので手全体を横に動かして花瓶を床の上に落とす。ガシャンと大きな音がして花瓶は砕け、ナイフのように鋭いガラス片が飯森の足元に転がってきた。飯森は、どうにかそれを拾い上げると、足を引きずるようにして七海の方へ歩いていった。管が抜けたからか、血圧が乱高下して激しい目眩に襲われる。だが、それでも歩みは止めず、どうにかこうにか七海の前に辿り着いた。震える両手でガラス片を握ると、七海の首元、頸動脈の辺りに持っていく。その時、七海が小さな声で言った。

    「ありがとうございました、ご主人様。さようなら……」

    そして小さく笑った。飯森を魅了したあの蠱惑的な笑みでも、陽葵に見せた満面の笑みでも、姉と別れた時に見せた優しい笑みでもない。透き通るような微かな笑み。30年、命を燃やしながら主人に奉仕してきた末の、灰のように白く温かく穏やかな表情。少女のような可憐さと年相応の深みが重なって…… ああ、なんて美しいんだ。愛しの七海。最期の最期にとっておきの笑顔を見せてくれてありがとう。最期の力を振り絞った甲斐があった。これでもう思い残すことはない。

    「ありがとう、七海…… ありが…………っ!」

    駄目だ。意識が保たない。手に力が入らない。最期に。あと1秒でいい。最期に、力を…………

    視界が暗転する刹那、飯森は赤い鮮血を見た。見た気がした。次の瞬間、飯森の魂は肉体から離れて地獄へと落ちていった。

    七海の視界も赤一色に染まっていた。燃えるように鋭い痛みがほんの一瞬だけチカッと走り、すぐに視界が黒ずんでいく。完全なる闇に閉ざされる直前、立ったまま絶命した飯森の身体が病室の床の上に崩折れていくのが見えた気がした。

    意識が遠のいていく。痛みはない。何もない。こんな安らかな最期が迎えられるなんて。私の大切な人たちは、みんなあの便槽で苦しみながら非業の死を遂げ、縦坑の底で骨になったというのに。七海は罪悪感を覚えつつも飯森に感謝した。生まれて初めてこの男に感謝した。

    だが、どうもスッキリしない。もうすぐ死んじゃうのに最期の最期でこの男に感謝することになるなんて。憎いままで終わればよかったのに。 ……最低。最期まで最低なやつ。でも、まぁいっか。もうすぐ終わるんだし。ああ…… 終わるんだ…… やっと、終わるんだ…………

    視界は既に真っ黒。何も見えないし何も聞こえない。何も臭わない。苦痛も快楽もない。ああ、いつかの夢の続きだろうか。でもいつかの悪夢はものすごい圧迫感があった。今はそれがない。自分の肉体の存在すら感じない。何もない空間に、ただ1人。

     

    ……ふと、何かが見えた気がした。飯森の死体じゃない。そんな汚物じゃない。あれは…………

    陽葵だ。陽葵がいる! 懐かしい。たった1人の私の恋人。あの頃の姿のまま、満面の笑みを浮かべて手を振ってくれている。手がある。足もちゃんとある。よかった、元気そうで。よかった、また会えて。会いたかったよ…… 何年、何十年経っても大好きだよ。ずっと愛してるよ、陽葵……!

    傍らには今日子さんがいて、さらにその隣に美海がいる。美佳美奈美久がいて、見覚えのない男の子もいる。もしかして、出産直後に別れた子だろうか。その横には玲香さんと見知らぬ子供たち。それに、ポチがいる。手足があって、満面の笑みで…… あんなに可愛らしい子だったんだ。本当の名前、知らないままでごめんね…… そしてその隣には……

    ああ、おねえちゃん。おねえちゃんだ! 会いたかった…… よかった、ちゃんと手足がある。健康そうに日焼けして、真っ白な歯を見せながら、眩しすぎる笑顔で…… 何か言ってる。腕を大きく振って何か言ってる。声は聞こえないけど、こっちにおいでって言ってる気がする……

    その横にいるのは…… あぁぁ…… お父さん…… お母さん…… 会いたかったよ…… ずっと…… ずっと…… おかあさん…… おかあさん…………

    いまいくね…… わたしもそっちいくね…… みんな…… みんな、いっしょ…………――――――――――

     

    +++++++++++++++++++++++

     

    佐渡 彩音(享年33):16歳、清隷女学園高等部1年の時に堀田荘司に調教され、17歳でJSPF専属奴隷。18歳の時にS役専門となり22歳で堀田に身請けされる。25歳の時に私立清隷女学園教師に就任。国語担当。33歳の時に仁科陽葵を唆した罪により全身に重傷を負い、さらに四肢切断。便槽にて細菌性胃腸炎(食中毒)・破傷風に罹り、全身が壊死して敗血症により死亡。

    木下 光希(享年18):木下七海の姉。17歳、清隷女学園高等部3年の時にJSPFの専属奴隷となるが49日後に逃亡。それまでに反抗・奉仕拒否ほか微罪多数。これにより四肢切断・全抜歯・T-ZL3投与の刑となり、メス犬「ペロ」に改名。妹の七海がJSPFのゲスト奴隷となった82日後、姉妹揃って飯森に叛逆するが失敗して左目失明。その後はT-ZL3の過剰摂取により急速に衰弱。18歳にて多臓器不全のため処分。

    北條 千秋(享年19):木下七海・仁科陽葵と同齢。12歳、清隷女学園中等部1年の時に堀田荘司に調教され、13歳でJSPF専属奴隷。14歳の時に逃亡し、メス犬「ポチ」となる。15歳の時ペロと、後に陽葵とペアで調教されるようになる。19歳にて衰弱のため処分。

    仁科 今日子(享年44):仁科陽葵の母。商社勤務。39歳の時に娘の陽葵とともに堀田荘司に調教されて、JSPF専属奴隷となる。陽葵らとともに通称「773号室」にて過ごし、優秀な奴隷に育っていた最中、陽葵がメス犬、木下七海がダルマとなる。この頃から老化が進み、出産ショーでは女児を死産。一時精神を病むものの、この頃鬱状態だった七海を懸命に励まし続ける娘を見て立ち直る。しかし43歳頃からさらに老化が加速。44歳にて衰弱のため処分。

    仁科 陽葵(享年26):仁科今日子の一人娘。木下七海・北條千秋と同齢。七海とは清隷女学園高等部1年A組の同級生。16歳の時に母の今日子とともに堀田荘司に調教され、JSPF専属奴隷となる。直後に七海と再会して友人に、後に恋仲となって773号室で過ごす。しかし佐渡彩音に脅迫されて逃亡。メス犬「ヒナ」になると同時に言葉も失う。ほぼ同時期に七海もダルマとなったが、当初鬱状態だった七海をヒナが筆談とセックスで励まし続け、2ヶ月後に七海は回復した。その後、身体が徐々に壊れていく中においても七海と恋人関係を続け、長女を出産。21歳の時に今日子が処分され、直後に自身も男児を死産すると徐々に衰弱。七海の懸命の励ましもあって、その後さらに5年間メス犬として活躍し、さらに一男一女を設けるものの、26歳にて衰弱のため処分。

    澤田 玲香(享年37):19歳の時に友人のトラブルに巻き込まれて破滅し、20歳の時にJSPF専属奴隷となる。22歳で雑用係となり、23歳の時にペロの担当となる。木下七海が773号室に移ってからは彼女の専属世話係となり、特に七海がダルマとなって以降、七海の世話と七海の子供たちの育児を一手に引き受ける。三男三女を出産。37歳にて衰弱のため処分。七海の世話係は七海の長女の木下美海が引き継いだ。

    堀田 荘司(享年85):JSPF理事、清隷学園理事長。24歳の時にJSPFに入会し、49歳の時にJSPF副理事並びに清隷学園理事長に就任。以降、学園の生徒を調教して定期的にJSPFに提供。54歳にてJSPF理事就任。62歳の時に773号室を新設。70歳で引退。85歳にて老衰のため死亡。

    木下 美海(享年27):木下七海の長女で飯森則夫の個人奴隷。奴隷養育施設ではなく773号室にて育つ。父の遺伝子をほぼ受け継がず、母以上の絶世の美少女となる。13歳の時に長女の美樹を出産し(父は飯森)、以降三男四女を設ける。14歳の時、澤田玲香の処分に伴い母の世話係に就任。27歳にて衰弱のため処分。ほか、次女の美佳は調教中に事故死(享年16)、三女の美奈は長女を設けるも21歳にて衰弱のため処分、四女の美久は出産直後に死亡、長男のは少年奴隷として別施設で人気を博するも、22歳にて衰弱のため処分。七海死亡時の世話係は孫の美樹(16)。美樹には長女の美緒(2)がいる(七海の曾孫)。七海の死後、存命の者は全員JSPFの専属奴隷となり、幼年の者は奴隷養育施設へと送られた。

    飯森 則夫(享年78):投資家。36歳の時にJSPFに入会。47歳の時に木下七海を調教し個人奴隷とする。48歳の時、JSPF内に居を移し、以降七海はJSPFのゲスト奴隷となる。七海の長女出産に伴い773号室を設計。3ヶ月後に七海はダルマとなる。その後も七海や七海の娘・孫たちとの間に多くの子供を設ける。78歳にて七海と心中。

    木下 七海(享年46):木下光希の妹。仁科陽葵・北條千秋と同齢。陽葵とは清隷女学園高等部1年A組の同級生。15歳の時に飯森則夫に調教されて個人奴隷となり、その後JSPFのゲスト奴隷となる。姉妹揃って飯森に叛逆するが失敗し、絶対服従を誓う。その後陽葵と再会。長女出産後は773号室に移り、「理想の奴隷」として人気を博す。陽葵とは恋仲となる。陽葵がメス犬「ヒナ」になった直後にダルマとなり、しばらくは鬱状態になるが、ヒナの懸命な励ましによって徐々に回復し、2ヶ月後には「理想の七海」に戻った。その後も「理想のオナホール」として高い人気を維持し続け、一男四女を設けたが、いずれも母より早世。46歳の時、JSPF内の病室にて飯森と心中。

     

    (死亡順)

     

    ……JSPFは木下七海の死後も変わらず存続し続けている。たとえ日本国が滅びようと、この施設が滅びることはないだろう。今日も施設内の至るところで奴隷たちの嬌声が、七海の子孫たちの悲鳴が上がり、縦坑の底で人知れず骨が増えていく。死んだ奴隷たちの骨の海の上で、生きている奴隷たちの生き血を吸いながら、JSPFは生き続ける。

     

    ……永遠に。

     

  • ハードSM小説『奴隷姉妹』 第9章 – 奴隷200日目

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    I:奴隷200日目 – 朝

     

    5人が語り明かした日から1ヶ月少し経った7月6日。七海はいつものように午前6時ちょうどに飛び起きた。爆音ブザーは鳴らなかった。爆音を鳴らすと美海が泣き出してしまうため、七海に埋め込まれたマイクロチップが午前6時に電流を流して七海を叩き起こすという方式になったのである。

    七海は、チップが埋め込まれている右の手首の辺りをさすりながら、寝室を出た。そしてリビングから世話係用の部屋へと向かう。扉を開けると美海と玲香がいた。玲香は、七海と同じように6時に叩き起こされた後、ベビーベッドの中ですやすやと眠る美海の様子を見に来ていたところだった。2人は美海を起こさないよう小声で挨拶を交わす。

    「おはようございます、玲香さん」

    「おはよう、七海」

    「昨晩もありがとうございました」

    「いえいえ、どういたしまして」

    七海の専属世話係となった玲香は、この小さな部屋を与えられ、夜はここで美海の世話をしていた。七海は毎日朝から晩まで犯されっぱなしの虐待されっぱなしで、それでも僅かな合間を縫って寝室兼育児室で授乳などを行うのだが、夜は毎日気絶したように眠ってしまう。だが、美海の方はそんな事情はお構いなしに深夜でも泣き出してしまうため、夜は玲香の部屋に美海を預けることになったのだ。玲香自身も七海ほどではないにせよ毎日過酷な目に遭っており、深夜に美海の面倒を見るのは大変だったが、それでもなんとか踏ん張っていた。

    踏ん張れるのは、同居人のおかげでもあった。5人で語らったあの日の翌日から、陽葵と今日子もこの部屋で寝起きすることになったのだ。深夜の美海の世話は、その日3人の中で体力に最も余裕がある者が行うことになり、玲香の負担は少しだけ減った。だが、玲香にとっては話し相手ができたことの方が嬉しかったし、それは仁科母娘にとっても同様だった。

    しかし今朝、玲香のベッドの隣にある二段ベッドに母娘の姿はない。玲香は七海とともに暗い顔で奴隷用のトイレへと向かった。773号室には奴隷用トイレと会員客用トイレがあり、両者は壁を隔てて隣り合っていた。会員客用のトイレは施錠されていて奴隷たちは通常入れない。

    「ぁぇ……」

    「かひゅ……」

    母娘はトイレの中にいた。壁から上半身が生えていた。壁の向こうは客用トイレである。客用トイレは、会員客が寝起きする宿泊区画の一角にある男性用トイレと扉1枚で繋がっており、773号室の玄関を通らずに行き来できるようになっていた。母娘は、腰の部分が壁に埋め込まれ、下半身を客用トイレに晒したまま、一晩を過ごしたのだ。

    母娘の目の前には大きなモニターが設置されており、壁の向こう側の惨状がリアルタイムで映し出されていた。 ……まるで小便器のように壁から生えた下半身は、鞭打ちで真っ赤に腫れ上がった上に大量の精液と尿で汚れきっており、肛門の真下の床の上には、それら汚液と糞便が大量に積もっていた。

    これは罰だった。前日の午前中、陽葵は堀田の鞭を受けながら飯森のペニスを口で奉仕していた。しばらくして飯森がイラマチオを始めると同時に堀田の鞭が陽葵の大陰唇を直撃し、陽葵は堪らず飯森のペニスを噛んでしまったのだ。JSPFの奴隷である陽葵は、抜歯に向けてのカウントが1つ進んでしまったわけだが、これを取り消すよう今日子は飯森に懇願した。そして娘と同じ仕打ちに耐えられればカウントを取り消すと言われ、今日子は必死に飯森のイラマチオに耐えたのだが、堀田の鞭がクリトリスを強打した瞬間、今日子もまた歯を当ててしまい、結局母娘はどちらもカウントが進む結果となってしまった(陽葵はあと1回、今日子はあと2回で1本抜歯)。しかも、抜歯はあくまでJSPFの規則であって、ペニスを噛んだことへの罰は別に用意すると飯森はニタニタ笑いながら言い、母娘を壁に埋め込んだまま一晩放置したのである。

    なお、壁の部分には目立たないようにクッションが置いてあり、妊娠7ヶ月目の今日子の腹に負担がないよう、一応の配慮がなされていた。

    深夜だというのに、宿泊客たちはひっきりなしに「小便器」を使った。下半身の感覚は次第になくなり、母娘はいつの間にか気絶。6時になって強制的に起こされたものの、意識は朦朧としたままだった。

    「2人とも大丈夫っ!?」

    七海が駆け寄る。その時、母娘の身体が前後に揺れた。

    「ぅあ…… ひぅっ……」

    「らめぇ…… はひ……」

    宿泊客が朝イチの小便を母娘の肛門=小便器の中に注ぎ始めたのだ。母娘の肛門は一瞬たりとも尿を留めおくことができず、ペニスが抜かれると同時に糞便カスと混じって茶色くなった汚液が噴き出して、床に散らばっている汚物の上に降りかかっていく。

    モニターに映し出される、あまりに不潔極まりない、異常な光景。外の世界の女性が見たら間違いなく嘔吐してしまうだろう。だが七海も玲香も動じない。七海も玲香も既に何度か体験しているからだ。ただただ、母娘が心配でならなかった。

    そのうち、母娘の身体が大きく揺さぶられ始めた。モニターを確認するまでもない。肛門に排尿した男たちが膣を犯し始めたのだ。

    「んんっ…… ひゅっ……」

    「あひぇ…… うあぅ……」

    母娘の反応は微弱だが、それでも先程に比べると色艶が感じられる。こんな状況でも快感を得てしまうほど、母娘の身体は開発が進んでいるのだ。

    「もうやめたげてよ……」

    七海が小さな声で呟く。だがどうしようもない。母娘は壁に固定されていて、助け出すには飯森が持っている鍵が必要だが、飯森は8時にならないと来ない。男たちを止めようにも、客用トイレは施錠されていて入れない。どうしようもないのだ。それどころか、母娘にはさらなる地獄が待っていた。

    ……朝食である。

    七海と玲香、後に合流した仁科母娘の計4人は、773号室で生活するようになってからは他の奴隷たちとは完全に別行動を取るようになったのだが、食事は相変わらず流動食であった。新たな部屋にはキッチンも設けられているものの、置いてあるのは菓子やつまみ、コーヒー・紅茶・酒類などで、これは会員客の軽食用であり、奴隷の4人が飲食することは固く禁じられていた。

    玲香は、トイレの床の上に犬用のエサ入れを2つ置いてそれぞれに1回の流動食を流し入れると、エサ入れの上でしゃがみ込み、今日子の流動食の上で半分だけ糞便を排泄し、次いで陽葵の流動食の上で残りをぶち撒けた。 ……前日にお仕置きを受けた者は、罰として翌日の朝食が糞便入り。その規則は今も変わらないのである。

    玲香は続いて、壁際に置かれた棚の中から薬品の入った小瓶を1つ取り出して蓋を開け、スポイトで少しだけ中の液体を吸い取ると、再びしゃがんでエサの上に数滴ずつ垂らした。そして、母娘の顔の前に可動式の台を持って行くと、出来上がった朝食を母娘の口元に置いて静かに言った。

    「陽葵、今日子、エサよ。いただきなさい」

    「「…………いただきます」」

    朦朧とした意識と微かな快感の中、母娘は躊躇うことなく汚物の中に顔をうずめた。手は壁の中に埋まっており、母娘は口だけを使って汚物を咀嚼し飲み込んでいく。食糞のペースは、以前茶碗6杯分の汚物を僅か9分で平らげた七海とは比ぶべくもなかったが、それでも母娘は拒否したり吐き出したりすることなく、ゆっくりゆっくり朝食を食べていった。

    その間も男たちは休むことなく母娘の膣を犯し続けた。立ちバックの状態で固定され、下半身を好き勝手犯されながら糞便入りの流動食を食べる。カプセルベッドで生活していた頃の夕食と、状況はほぼ同じだ。違うのは疲労の度合いである。カプセルベッドでの夕食は1時間強で、その前に午前4時間・午後4時間の計8時間の調教があった。対して、母娘は昨日の23時から7時間ぶっ通しで犯され続け(その間断続的に失神)。昨日も1日じゅう奉仕していたのだから、母娘ともに昨日の朝8時からほぼ丸1日犯され続けていたことになる。もう体力の限界だった。

    「「んあぃあああっ!!?」」

    だが、汚物と格闘しているうちに母娘の疲労と眠気は急速に消え去っていった。玲香が混ぜた液体は、カフェインその他の成分が合わさったJSPFオリジナルのアッパー系の薬物であり、依存性のない安全な代物ではあるものの、そこらの栄養ドリンクとは比較にならぬほど強力なものであったのだ。意識が晴れ渡るにつれて下半身の快感は急激に増していき、一方で嗅覚と味覚も研ぎ澄まされていく。快と不快の狭間で悶絶しながら、母娘は十数分かけて汚物を平らげたのだった。

    他方、七海と玲香は、母娘がエサを食べ始めると壁尻部屋から離れ、自分たち用の流動食をエサ入れに流し込みつつダイニングへと向かった。会員客用の立食テーブルの脇にある専用のスペースで四つん這いになり、エサ入れを床に置くと、壁に向かって朝の挨拶をする。壁には床から20cmくらいの高さの所に小型カメラが埋め込まれていた。

    「皆様おはようございます。飯森則夫様に飼われている奴隷の七海です」

    「皆様おはようございます。七海の専属世話係の玲香です」

    「これから奴隷の朝ごはんをお見せします。豚畜生よりも浅ましい下品なメス豚が、手も使わずにエサを食い散らかす様をご笑覧ください」

    「「…………いただきます」」

    七海は、わざと口を開けて、歯のない口内をカメラに晒してから、流動食の海に口を突っ込み、グチャグチャ音を立てながらエサを歯茎ですり潰していった。 ……なんて下品で不快で屈辱的な音なんだろう。

    飯森は所謂クチャラーだった。七海は、幼い頃から伯父が食事の際に発するこの音が堪らなく嫌いだった。それ故七海は常に口を閉じて静かに咀嚼してきたし、それはJSPFに連れて来られてからのカプセルベッドでの食事の時も同じだった。不味い流動食や上にかかった糞便に悪戦苦闘しながら、下半身を激しく犯されながら、それでも七海は音を立てないよう食べてきた。調教時に音を立てて糞便を食べるよう命令されることがたまにあり、せめて朝夕の食事の時くらいはあの不快な音を発したくなかったのだ……。

    なのに、新部屋に移って以来、七海はクチャラーになることを強制された。食事の前に屈辱的なことを言わされた挙げ句に、クチャクチャグチャグチャと不快な音を立てながら、豚のようにエサを食い散らかさねばならない。隣の玲香の咀嚼音も不快だ。今日は玲香1人だが、仁科母娘も加わって4人の咀嚼音が奏でる不協和音のおぞましさといったら……!

    しかもその様子を常時撮影されるのだ。映像は宿泊客の部屋のテレビにリアルタイムで流れている。この施設には宿泊用の部屋がいくつあって、何人が泊まっていて、そのうち何人がテレビを見ていて、何人が七海と玲香の朝食風景にチャンネルを合わせているんだろう。全くわからない。みんな寝てたらいいのに。でも見てる。絶対見てる。ご主人様も堀田様もみんな見てる! 口に嘲笑を浮かべながら見てる! さすが豚は食べ方も下品だとか勝手なことを言いながら、瞬きもせずに見てる……!!

    ……無人のダイニングには下品な咀嚼音だけが響き渡っている。その音を、その姿を、大勢に聴かれ、見られている。そう思うと七海の目から悔し涙が溢れた。人前で裸を晒すことも、豚マネ芸や脱糞さえも平気になった筈なのに。なのに、この音を聴かれるのがものすごく恥ずかしい。悔しい。自分がいよいよ卑しい豚に成り果ててしまったような気がして、恥ずかしくて悔しくて、悲しくて堪らない!

    これなら男たちの前でやった方がマシだ。男たちの前でやれば、マゾの血が騒いで、羞恥心や屈辱が興奮や快感へと勝手に変換されるに違いない。だが相手が無機質なカメラだからか、いつまで経っても興奮や快楽はやって来ない。カメラの向こうに男の視線があるとわかっているのに。 ……下品な音を立てている自分が悔しい。下品な音を聴かれていることが恥ずかしい!

    その思いは玲香も全く同じだった。2人は羞恥と屈辱に耐えながら激マズ流動食(糞便なし)を速攻で片付け、床の上に飛び散ったカスを舌で全て舐め取ると、エサを与えてくれたことに対する謝意をカメラに向かって述べ、最低の朝食を終えたのだった。

    壁尻部屋に戻ると、母娘はまだ糞便入り流動食と格闘していたので、七海と玲香は、美海の世話と身体の洗浄を2人交互に行った。その後三度壁尻部屋に行くと、母娘は大声で喘いでいた。

    「ああん♥ おちんぽ! もっと! 陽葵のうんちの穴、もっと突いてぇっ! んひゃああっ♥」

    「いいっ♥ ケツまんこっ! ああっ♥ もっとくださいっ♥ もっと汚してぇ! ああああっ♥」

    空になったエサ入れには未だ糞便のカケラが残っており、母娘の鼻のすぐ下で尚も強烈な悪臭を発していたが、薬物で覚醒した母娘はもはや気にも留めず、狂ったように快楽を貪り続けた。七海はエサ入れを洗いながら、親友とその母親の狂声を、悲しさ半分、羨ましさ半分で聞いていた。彼女の股間は、綺麗に洗った直後にも関わらず、ぐしょぐしょに湿っていた……。

     

    II:奴隷200日目 – 午前

     

    午前8時。玄関が開いて、飯森、堀田とキャリーケースを持った裏沢が入ってきた。リビングでケースを開ける裏沢。途端に強烈な糞便臭が辺りに充満する。

    光希はこの1ヶ月でさらに痩せ細った。肋骨だけでなく骨盤や肩甲骨、背骨までがくっきりと浮き出ており、肌は白を通り越して土気色。抜歯によって痩けていた頬はさらに落ち窪んで、老婆というより瀕死の病人といった様相だ。今や入ってくるより出ていく方が圧倒的に多く、日に2回の点滴でどうにか栄養分を補っている状態であった。

    「おはよう七海、玲香さん」

    「おねえちゃん、おはよう」

    「おはよう、光希」

    それでも光希は七海と玲香を心配させまいと気丈に振る舞い、2人もなんとか涙を堪えて光希に優しく語りかけた。

    一方、飯森と堀田は壁尻部屋に向かった。母娘は相変わらず嬌声を上げていた。

    「反省したか? 2人とも」

    「はいっ♥ 反省しましたっ♥ もう二度とおちんぽ噛みませんっ♥ 許してくらはいっ♥ ああんっ♥」

    「私もっ♥ 粗相をしてしまって申し訳ござ……ひうっ♥ 申し訳ございませんでしたっ♥ ひゃうっ♥」

    「あまり反省しているように見えんが…… まあいい。今からお前たちの口を使ってやるから、反省を態度で示せ」

    「あいっ♥ おちんぽ♥ おちんぽなめましゅ♥ しゃぶりましゅ♥ ひゃあああっ♥」

    「今度は絶対噛みませんので…… 私の喉まんこ、お使いくださいませ♥ あああっ♥」

    そうして、再びイラマチオが始まった。壁の向こうでは男たちが猛烈な勢いで膣を責めている。肛門にもバイブがねじ込まれている。壁のこちらでは飯森と堀田が、陽葵と今日子の頭を両手で掴んで猛烈な勢いで喉穴を突いている。先程食べた糞便入り流動食が全てリバースしてしまいそうな勢いでの激しい抽送。それでも2人は、凄まじい苦痛と吐き気、そして快感に耐えながら、舌と唇と喉を使って猛然とペニスに奉仕していく。 ……歯を当てないよう神経を研ぎ澄ませながら。

    薬物のおかげであろう。先程までの朦朧状態のままだったら、集中力が続かずに再び噛んでしまって、陽葵はカウントが5回に達していたに違いない。苦痛と快楽に翻弄されながら一心不乱にペニスに奉仕する2人の姿はまさにマゾ奴隷そのもの、そこにイジメっ子やキャリアウーマンの面影は、微塵もなかった。

    「「ぶもおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」」

    やがて飯森と堀田はほぼ同時に喉奥で射精し、母娘は罪を許されたのだった。

    母娘はようやく壁から解放され、風呂場で身体を洗うことを許可された。その間、七海と玲香は解錠された扉の向こう、客用トイレで這いつくばり、それぞれ陽葵と今日子の下半身があった場所の床の上に積もった汚物を口で処理させられた。冷えた糞便と尿と精液と愛液の混合物は、身の毛もよだつ臭いと味、見た目であったが、2人は無言のまま食べ進めていった。 ……下品な音を立てながら。膣穴を飯森と堀田に犯されながら。

    「「ひうぅうううううっ!!!!」」

    七海と玲香が床の上の汚物を食べ切った直後、飯森と堀田も限界に達した。2人は射精直前に膣穴からペニスを抜くと、汚物があった場所に大量の白濁液を発射した。

    「汚物はほぼ平らげたようだが、まだカスが残ってるぞ。ザーメンと一緒に全部舌で舐めとれ。ちり紙ども」

    「……はい、ご主人様」

    「かしこまりました」

    七海と玲香は、四つん這いのまま再び床に舌を這わせ、飛び散った白と茶色の汚物を処理していく。 ……冷めた糞尿に比べれば温かい精液の方がまだマシだと七海は思った。いや、むしろ美味しい……かも? 七海は一瞬そう思ったが、直後、精液を美味しいと感じるようになってしまったことが無性に悲しくなった。悲しくて泣き叫びたい。こんなことしたくない。私はちり紙じゃない! ……七海はそれらの想いを全て封印して、ただひたすら薄汚い便所の床を舐め清める。トイレットペーパーに、ちり紙になりきる。身体の奥が熱い。感じてる。こんなことで私、感じてる。 ……最低だ、私。

     

    しばらくして身だしなみを整えた仁科母娘が客用トイレに入ってきた。母娘は、自分たちが出した汚物を七海と玲香が「掃除」してくれたことを知って驚愕し、そして謝罪した。自分たちが出した汚物は誰かが掃除しなければならない。当たり前のことなのに。完全に失念していた。昨日の朝から24時間汚され続けた身体を洗うことしか頭になかった。シャワーを浴びて、湯をがぶ飲みして、全身を洗って、膣や肛門の中も綺麗にして、髪を乾かして、整えて、歯を磨いて、爪を切って…… そんなことを悠長にやっている場合ではなかったのだ。

    七海と玲香は気にしてないと言ってくれたが、飯森は、七海と玲香に片付けを押し付けて自分たちだけ綺麗になるとは何事だ、と母娘を責めた。陽葵はさすがにカチンと来て、「あんたが洗ってこいって言ったんじゃない」と言い返しかけた。が、ここで反論してもさらなるお仕置きが待っているだけだ。陽葵は目を固く瞑り、飯森に対する怒りと七海に対する罪悪感で全身を震わせながら、喉まで出かけた反論の言葉をなんとか飲み込んだ。

    陽葵と今日子は、七海と玲香の口にそれぞれ指を突っ込んで強制嘔吐させ、直後に口づけして汚物を口移しで飲むよう命令された。自分たちの汚物なんだから、人に頼らず自分たちで処理しろというわけだ。七海と友達になる前の陽葵だったら全力で拒否していただろう。あれから3ヶ月近くが経ち、陽葵も今日子もこのような異常な行為に慣れつつあった。だがいくら慣れても、そんな気持ち悪いモノを美味しいなどと思えるはずがない。せっかく湯をがぶ飲みしたのに、またすぐこうなるのか。もうイヤ。こんな毎日、ホントもうイヤ……!!

    「七海、ごめんね。汚いモノ食べさせちゃって…… アタシが食べるから出して……」

    「うん…… あぁぁぁぁぁぁ……」

    膝立ちの状態で目を閉じ、口を大きく開ける七海。陽葵は指をそっと3本突っ込んで、喉の方をゆっくり掻き回した。七海がすぐにえずき出したので、陽葵はすぐに指を引き抜いて自分も膝立ちになると、七海にキスをした。友達になって以来何度も七海とレズプレイをしてきた。キスも何度もして、互いに舌をまさぐり合って唾液を飲み合ってきた。でも嘔吐物を口移しで飲むだなんて。最低…… サイッテー! 何考えてんのよ、このキモハゲオヤジ!! ……でも。でもやらなきゃ。命令なんだから。奴隷なんだから。それに、自分で出したモノの後始末を七海にやらせるのは、やっぱり良くないと思う。いやだけどやらなきゃ。いやだけど。いや…… いや…… いやああああっ!!

    「「げぶえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」」

    「「うぶうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!」」

    七海と玲香はほぼ同時にリバースし、陽葵と今日子はそれを飲んでいく。口から口へ流れていくので臭いをあまり感じないのは幸いだが、味の方は…… 筆舌に尽くしがたいおぞましさだった。それでも飲んだ。飲み続けた。吐き返しそうになるのをひたすら耐えた。ここで吐いたらもっと酷いことされるに決まってる。やだ! そんなんやだっ!!

    胃の中身を半分くらい残した辺りで七海は嘔吐を止めた。飯森の命令は、七海が食べた汚物を陽葵に移すこと。朝食の流動食まで陽葵に食べさせたら命令違反になるかもしれない。もちろん汚物と流動食は胃の中で既に混じり合ってしまっているから、汚物だけを吐き出すのはもはや不可能だ。それでもせめて分量だけでもということで、七海は半分吐いたところで嘔吐を止めたのだった。横で吐いていた玲香も、七海に合わせて嘔吐を止めた。そして4人は最悪の後味を忘れたいかのように、舌を絡めてディープキスをし始め、飯森はニヤニヤしながらその一部始終を眺めていた。

    キスがさらに激しさを増した時、トイレの中に大勢の男たちが入ってきた。8時を大幅に過ぎてしまったが、飯森と堀田による午前の合同調教が始まったのだ。合同調教は、七海が773号室に移ってすぐの頃は2対5で行われていたが、調教は次第に過激化し、ペニスが2本では足りないことからエキストラとして宿泊中の男性客にも参加してもらうことが多くなっていた。今朝もそうで、飯森は32人の男性客に事前に声を掛けていたのだ。

    4人は、壁に並んだ4つの小便器に1人ずつ座るよう命じられた。左から玲香、七海、陽葵、今日子の順である。4人は小便器の奥に尻を押し込み、肩をすぼめて上半身を小便器の中に嵌め込んだ。その状態で手と足が固定され、4人は身動きを封じられて4基の「便器」となる。32人の男たちがさっそく「便器」の前に列を作った。

    男たちは何も言わずに「便器」に向かって小便を放っていく。「便器」は口を大きく開けて待機しているのだが、男たちは構わず身体中のあらゆる場所に小便を引っ掛け、最後に思い出したように未だ放尿中のペニスを口の中に押し込んで最後の1滴まで搾り出していく。放尿が終わったら、「便器」はペニスを舌で舐め清めながら言うのだ。「小便器をご利用いただきありがとうございました」と。4人ともこのような扱いには慣れているが、それでも新参の母娘の顔には嫌悪と絶望が色濃い。

    8人が放尿を終えると、1人目の男に戻ってフェラ奉仕となる。身体を覆う尿素がアンモニアに分解されて、どんどん臭いがキツくなる。だから嫌なのに。全部飲んでしまった方が楽なのに。排出されたての尿はまだそれほど臭くないが、放置するとどんどん臭くなるということを奴隷たちは経験上知っている。だからこそすぐに飲んでしまいたいのに。男たちの方もそれを心得ているから、わざと口を外したのだ。奴隷たちは、ペニスで口を塞がれて鼻で息をせねばならない状況の中、悪臭を我慢しながら狭い小便器内で首を激しく振って、ひたすらペニスに奉仕していく。

    「むぷうううううう!」

    最も早く男を射精に導いたのは七海だった。七海の歯茎奉仕は既に熟練の域に達しており、歯茎と舌、唇や喉まで全て連動させながら、高速ピストンでペニスを責め立てる。百戦錬磨の男たちもこれには敵わず、あっという間に限界に達するのだった。

    続いて玲香、やや遅れて今日子、かなり遅れて陽葵が精液を搾り取った。陽葵が未だ飲尿・浴尿が苦手であると知っている男たちは、昨晩から水分摂取を控えた上で、濃縮されたオレンジ色の小便を身体中に引っ掛けていった。それが時間とともに強烈なアンモニア臭へと変わり、陽葵の集中力を奪ったのだ。 ……今日は朝からこんなんばっかりだ。もうやだよ、こんなん。普通にセックスしてよ。普通にフェラさせてよ!

    小便器の下には、直径10cmを優に超える特大肛門プラグを嵌めた光希が蠢いていた。床の上に飛び散った小便を舐め取るのが役割であり、「7本足」で這い回りながら長い舌で汚れを舐め取っていく。光希は、時間が経ってアンモニア臭のキツくなった小便すら美味しいと感じるまでになっており、心の中で陽葵に頑張ってと呟きながら、陽葵の周りに飛び散るオレンジ色の汚液を美味しそうに啜っていった。

    ……七海が8本のペニスに奉仕を終えた時、玲香は7本目を終えたところ、今日子は7本目をしゃぶり始めたところ、陽葵は6本目に奉仕中だった。飯森は、奉仕が終わった奴隷は休んでいるように言ったが、手足も動かせない中、強烈なアンモニア臭に耐えながら休むくらいなら、フェラ奉仕を続けて気を紛らせた方がマシだ。もっとゆっくり奉仕すればよかった。そんな想いで七海は主人の方を見たが、飯森は七海の視線の意味を正確に読み取りつつも、敢えて無視してニヤニヤしながら七海の顔を観察し続けたのだった。

    やがて陽葵が8本目の性欲処理を終え、4人はようやく拘束を解かれて小便器から抜け出した。陽葵以外の3人は褒美としてセックスが許され、ビリだった陽葵は罰として3人の身体に付着した小便を全て舐め取るよう言われた。

    3人は腕を掴まれて立ちバックの体位で膣や肛門を突かれ、陽葵はまず近くにいる母と玲香の身体に舌を這わせていく。小便に汗が加わってにがしょっぱい。まずい。くさい。気持ち悪い! 母と玲香は長髪なので、身体の汚れを舐め取っても、たっぷり小便を吸い取った髪から常に汚液が滲み出てくる。仕方なく、両手で髪を雑巾のように絞り、出てきた汚液を口に含んでいく。たまらなくまずい。ありえないほどくさい。もういや。こんなのいや! でもやらなかったらもっとヒドいことさせられる…! やだ! それもイヤ! もうイヤっ! いやああぁっ!!

    「もうやだあぁぁっ! うわああああん!! ぺろっ… ひくっ!」

    陽葵はついに大声で泣き出してしまったが、嗚咽しながらも舌は動かし続けた。小便が染み込んだ自分の髪のように、陽葵には奴隷根性が既に心の奥底まで染み付いていた。歯向かったら酷いことをされるという恐怖だけでなく、命令どおりにしなくてはという奴隷的思考が陽葵を無意識のうちに突き動かしていた。

    「陽葵…… ひまりぃ…… ああんっ」

    娘に身体を舐められながら、今日子はそれを察していた。そして自分もまた、同じように命令に従って腰を振りながら肛門を犯されていた。自分も娘も、もうすっかり奴隷に成り果ててしまったことが悲しくて、自分の身体が臭くて、ケツまんこが気持ち良くて、あまりに気持ち良くて、今日子は大粒の涙を流しながら嬌声を上げた。

    光希も小便を舐め続けた。床を這いずり回りながら長い舌で器用に床を舐め磨いていく。3人の身体は陽葵が舐め清めなければならない。それを勝手に手伝ったら陽葵が罰せられる。だから手伝わない。そのかわり、髪から絞り取った時などに床に落ちた小便を舐め取っていく。どうせ後で床を綺麗にするよう誰かに命令が行くのだ。その前に舐め取ってしまおう。 ……どれだけ痩せ衰えようと、光希は光希だった。愛する妹と、もう1人の姉と、妹のたった1人の親友と、そのお母さん。この4人を守るためなら何でもする。調教の邪魔をして、かえって4人に害が及ぶことがないよう気を配りながら。光希は残り少ない体力と思考力の全てをそこに注ぎ込んでいた。

    七海は陽葵のことを心配していた。今日子と玲香の次は自分の番。でも、できれば陽葵の負担を減らしたい。だって陽葵は飲尿が苦手なんだから。それ以上に、陽葵は七海にとって、とても大切な存在なんだから。そのためにはどうしたらいいか、七海は下半身から来る猛烈な快楽に耐えながら必死に考えた。そして陽葵が今日子と玲香の身体を舐め清め終わるのを待ってから飯森に話しかけた。既に膣と肛門に1発ずつ中出しされる程度の時間が過ぎていた。

    「ご主人様、陽葵の身体は私が綺麗にしてもいいでしょうか。その…… 臭いですし。自分では背中は舐められないですし。次の調教までに誰かがやんなきゃならないなら、私にやらせていただきたいんです。 ……ダメ……ですか?」

    飯森は感心した。

    七海は、泣きながら汚液を舐め続ける友人を心配し、自分の身体を綺麗にしてくれる礼も兼ねて、自分で陽葵の身体を舐め清めたいのだ。だが直接それを言っても許可は下りない。放っておくと臭いから、自分では背中は舐められないから、次の調教に支障が出るから。男たちや陽葵の身になって物事を考え、もっともな理由を見つけてくる。

    しかも、七海は陽葵の隣の小便器に固定されていたのに、小便器から解放されるといつの間にか陽葵から離れた位置に移動して、陽葵が最後に七海を舐めるように仕組んだ。七海は陽葵とレズプレイをしながら互いの汚れを舐め取り合いたいようだ。そうして自分の身体に付いている汚れもちゃっかり自分で舐め取って、陽葵の負担を減らそうという魂胆だろう。実に賢い。

    だが七海には裏がない。楽をしようとか、貸しを作ろうとか、そういう汚い思惑が微塵もない。今回の発言の底にあるのは友情、ただそれだけだ。だが、奴隷が主人の命令以外のことをやるというのは、お仕置きのリスクがあり、勇気が要る行為だ。七海は奴隷である自分でも許されることを必死に考え抜いた上で、勇気を振り絞って主人の許可を求めているのだ。期待と憂いが混ざった、あの独特な表情でこちらを見つめながら、控えめに、だが誠実に。ああ、これはもう、許可せざるをえないではないか……!

    「ああ、いいぞ」

    「ありがとうございます、ご主人様」

    七海は深々と頭を下げると、陽葵のところへ向かい、彼女を抱き締めた。そして消え入るような小さな声で言った。

    「次は私の身体、キレイにしてくれるんだよね? ごめんね? でも、ありがとう、陽葵。あなたの身体は私がキレイにするね?」

    「ななみぃ…… ぐすっ」

    「じゅぞぞぞぞぞっ! ずずずーっ! ごくんっ!」

    「七海…… ななみ…… れろっ…… じゅずずずっ!」

    「ひまりぃ…… じゅるっ! ちゅぱっ! ずぞぞぞっ!」

    七海と陽葵はシックスナインの体勢になって小便を吸い取っていく。七海は何も言わずに自分が上になると、腰をひねりながら自分の身体に付いた小便を陽葵の身体の上に振り落とし、元々陽葵の身体に付着していた分と合わせて猛然と舐め取り始めた。ショートカットの自分の髪から小便を絞り取り、次いで長髪の陽葵の髪も絞っていく。陽葵の臍の中に溜まった小便も口を付けて吸い上げ、顔、首、胸、脇、腹、股間、肩、背中、腰、尻、その他ありとあらゆる部位を、下品な水音を立てながら素早く、だが入念に掃除していく。

    陽葵は呆気に取られていた。自分が母や玲香に対して行った掃除とは全く違った。下品な音を立てて男たちを喜ばせながら、陽葵の身体に付いたぶんだけでなく、七海自身の身体に付いたぶんまで器用に掃除していく。そのあまりの手際の良さ! 飲尿に対する躊躇の無さ!

    そして、2人の足元では光希が床を舐めていた。七海が激しく動くことで、七海の身体に付いていた小便が、陽葵の身体にだけでなく周囲の床に飛び散っていたのだが、光希は床に飛散したもののみを舌で掃除していく。姉妹は事前に相談することなく自然に役割分担しながら、陽葵がこれ以上つらい思いをしなくて済むようにしてくれているのだ。

    陽葵は、目頭が熱くなるのを感じていた。友情と感謝と罪悪感と、それ以上の何かと。様々な感情がごちゃごちゃになって、そして溢れた。もう止まらなかった。

    「七海っ! 光希お姉さんっ!」

    陽葵は堪らず2人に抱きついた。名前以外の言葉が出てこず、ただ強く抱き締めた。3人の身体にはまだ小便が残っており、光希の身体には糞便すら付着していたが、そんなことは全く気にならなかった。陽葵は七海にキスし、次いで光希にキスをした。口内は小便の味と臭いしかしない。だがそれでもいい。無二の親友に、友情以上のよくわからない感情を伝えるために。余命幾許もない病身に鞭打って陰ながら助けてくれた親友の姉に心からの感謝を伝えるために。陽葵は泣きながら2人の口に舌を入れ、夢中で掻き回した。そしてそのまま感極まってしまい、陽葵はキスだけで軽く絶頂を迎えた。姉妹は細かく震える陽葵をそっと抱き締め、震えが止まるまでそのままでいた。

    玲香と今日子も、3人の抱擁に胸が熱くなっていたが、飯森と堀田と32人の男たちも別の意味で高ぶりを感じていた。この3人を、いや5人を、15個の穴を、滅茶苦茶に嬲り回したい。犯し抜きたい。小便ではなく精液で身体を白く染め上げたい!

     

    34人の男たちは、ホースの水を5人にぶち撒けて小便を流し去ると、それからの2時間、トイレの中でひたすら5人を輪姦し続けた。トイレの床で、小便器の中で、大便器の上で、洗面器の鏡の前で。絶えることなく3つの穴を犯され続け、光希を除く4人は頻繁に絶頂し、特に敏感な七海は途中から絶頂しっ放しになった。

    光希の肛門からは栓が抜かれ、役立たずの膣と肛門にシリコン製の大きなオナホールが突っ込まれた。そして男たちはオナホールの中にペニスを挿入していく。あまりに屈辱的で非人間的な行為。だが、これを屈辱と感じるような人間的な心を光希は既に失っていた。ペニスのピストンに合わせてオナホールがモゾモゾと動くのが気持ち良く、絶頂に達するほどではなかったものの、光希は歯茎でペニスをしごきながら、久々の快楽を味わった。

    2時間後、ようやく午前の調教が終わった頃には、凄まじい量の精液で5人とも全身真っ白になっていた。仁科母娘は互いに強く抱き合ってキスをしながら精液と唾液を交換中。光希は倒立のような体勢になって洋式大便器に頭を突っ込んだまま気絶している。途中何度か美海の世話のために抜け出した玲香は一番精液量が少なかったが、それでもトイレの床にうつ伏せに倒れてゼェゼェと荒い息を吐いていた。

    最も多くの白濁液を受けたのはやはり七海で、トイレの床の上で尻だけを突き出して四つん這いのまま失神しかけていたが、飯森が近づいてきたのを見ると、気合でなんとか立ち上がり、フラフラになりながら頭を下げて言うのだった。

    「調教ありがとうございました、ご主人様」

    七海は気を失っている光希を起こすと、玲香や仁科母娘とともに奴隷用トイレへと戻り、その横にある風呂でシャワーを浴びて汚れを落とした。そして5人一緒にダイニングで昼食を摂る。もちろん流動食である。朝と違ってダイニングには男たちが何人もいて、人間用の軽食を食べながら談笑している。その脇で、奴隷たちは四つん這いになってクチャクチャ下品な音を立てながら流動食を貪り食うのだ。

    男たちは気まぐれで奴隷たちの膣や肛門を犯しては、流動食の上に精液や小便をぶっかけていく。なんて最低の食事だろう。特に仁科母娘は屈辱と羞恥のあまり涙を流している。七海も、こういう扱いは木下家で調教されていた頃から受けていたとは言え、やはり悲しかった。しかし、ペニスのもたらす快楽が、奴隷たちの中にあるマゾのスイッチを強制的に点灯させていく。身体の奥底が熱くなっていく。男たちに犯されながら、四つん這いで手も使わず、精液や小便のかかった激マズの流動食をクチャクチャと食い散らかす。なんて哀れで惨めで下品な生き物なんだろう。そうやって自己を嫌悪することにすら快感を覚えてしまう。やがて七海、陽葵、玲香、今日子の順で絶頂に達し、彼女たちは無様なイき顔をカメラに晒すのだった。

    光希は食欲が一切なかった。が、4人に心配させないよう無理やり流動食を食べた。

     

    III:奴隷200日目 – 午後(1)

     

    午後は集団調教である。以前は中央ホールで行われていたのだが、七海の出産以降は773号室で行われることになった。もっとも、午前の合同調教では今朝のようにエキストラが呼ばれることが多くなったし、光希は午後も9号室には戻らずに引き続き一緒に調教を受けることになったため、午前と午後の差は殆ど無くなりつつあった。

    今日の集団調教の場所は、教室だった。

    773号室は、元は200畳以上の広大な空き部屋をパーティションで細かく区切ってできており、寝室やリビング、風呂にトイレといった居住空間を除くと、あとは全て調教部屋であった。当初、調教部屋は6つしかなかったのだが、会員客の要望に応える形で順次追加されていき、今やその数は20を超えていた。今も新規増設工事中の部屋が3つ、リフォーム中の部屋が5つある。中身も、JSPFの標準的な調教用個室と同じものから、教室、和室、病室、酒場、拷問部屋など実に多彩だ。

    中でも昨日完成したばかりの教室は、堀田理事長による設計・監修のもと、七海が在籍していた1年A組の教室が忠実に再現されていた。窓の部分には全面に大型モニターが嵌め込まれて、実際と同じ風景を映すなど、細部に至るまで凝りに凝っていて、椅子と机は、なんと七海と陽葵が使っていたものをそのまま運んできていた。

    七海と陽葵は呆気に取られた。午後1時になったので、一昨日までは存在していなかった引き戸を言われるままに開けてみたら、いきなり教室に出たのだ。懐かしい場所。懐かしい空気。そう、匂いまで一緒だ。もう二度と戻ることはないと思っていたあの教室に、七海は戻ってきたのだ。

    もちろん異なる部分もある。七海と陽葵以外の席には学生服を着た男たちが座っている。中年男や老人までもが学生服に身を包んでいる状況は異様で、ある種滑稽にも思えたが、七海も陽葵も笑うどころではなく、あまりに想定外の状況に言葉を失い、呆然と立ち尽くしていた。

    すると、スーツ姿の飯森が現れた。

    「驚いたか? お前たち、これを着て自分の席に座れ。場所は覚えてるな?」

    「「…………」」

    覚えているも何も、空いている席は2席しかないのだが、2人は何と言って良いかわからず、無言のまま制服一式を受け取った。それは2人が昨年着ていた本物の制服だった。制服だけではない。一緒に渡されたブラジャーやショーツ、靴下に上履きまで、全部。陽葵の上履きは踵の部分が潰れており、似たデザインのものを新調したのではなく、全て当時のままの本物であるのは、2人の目にも一目瞭然だった。

    七海も陽葵も(今日子も玲香も光希も)、全財産は全て処分されて私物は一切残っていないと聞かされていた。奴隷は基本裸で生活し、身に着けることを許されているのは首輪とピアスだけである。これまでにも、特に夜の少人数調教の際に、様々なコスチュームを着て奉仕することはあったし、制服を着たことも何度かあったが、それらの衣装は全てJSPFのものであり、デザインも七海の母校のものとは違っていた。まさか自分たちの制服が残っていたなんて。

    だが、2人に喜びの感情は一切なかった。これから何をさせられるのかと思うと七海には不安しかなかった。陽葵は…… 見覚えのあるショーツを見ながらガタガタと震え出した。 ……クロッチにシミが少し残ってる。本物なんだ…… これ、あのショーツ、あの日履いてたショーツだ……!!

    昨年の11月下旬のあの雨の日、悪臭を撒き散らす七海にブチギレた日に陽葵が履いていたショーツ。その前の週末に買ったばかりの、可愛らしいデザインのお気に入りのショーツ。あの日の午後、急に生理が始まってショーツを汚してしまい、1時間目の七海早退事件と酷い生理痛が相まって、ものすごく腹が立った。何度洗濯してもシミは完全には消えず、それを見るたびに退学した七海への憎悪が掻き立てられた。逆恨みだとわかっていても止められなかった。そうこうしているうちに陽葵は母ともども堀田理事長の魔の手にかかり、以降ショーツのことはすっかり忘れてしまっていたのだ……。

    あの日履いていたショーツ、あの日着ていた制服、あの日と同じ教室。いったい何をさせられるんだろう。いやだ。七海にしてきたことは心から反省しているし、七海はたった1人の大事な友達、もはや無二の親友だ。過去をほじくり返されたくない。七海が怒って絶交だって言ったらどうしよう。そんなのやだ…… 絶対やだっ!!

    「どうした2人とも。とっとと着替えろ。ここで…… 皆が見てる前でな」

    「「…………」」

    ……最低。七海は心の中で毒づきながら、横で震えている陽葵のことを気にしつつ、服を着始めた。何故か恥ずかしい。これだけの男たちが見ていたら、普通は服を脱ぐ方が恥ずかしくなるのだろうが、裸でいることに慣れてしまった七海にとっては、服を着ることの方がなんだか恥ずかしかった。衆人環視の中で奴隷から女子高生に戻ることで、羞恥心が蘇ってしまったのだろうか。

    だが、それだけではない。肥大化した乳首とクリトリスが邪魔をして、ブラもショーツも上手く着けられない。自室の鏡の前で泣きながら着替えた昨年の10月よりも、クラスメイトに責められて学校を早退した昨年の11月よりも、格段に大きく膨れてしまった乳首とクリトリス。もはや肥大化前の下着では隠しようがない。七海は涙をうっすら溜めながら試行錯誤を重ねたが、結局クリトリスは無理やりショーツで押さえつけることにし、ブラは諦めてノーブラのまま制服の上着を被った。ピアスの穿たれた敏感なクリトリスがショーツの中で圧迫されて鋭い痛みと鈍い快感を放ってくる。上着の布が巨大乳首に引っ張られて、腹と臍が露出してしまっている。飯森や周囲の男たちは、そんな無様な七海を見てニヤニヤと笑い、股間を固くしている。七海は久々に強い羞恥を感じながら再び心の中で毒づいた。 ……最低。

    その横では顔を真っ青にしながら、陽葵が制服を着ていた。何を…… 今から何をするんだろう。何をさせられるんだろう。恐怖と不安で手が震えて、ブラのホックがなかなかかけられない。片足を上げて靴下を履くことすら難儀してしまう。男たちの視線を感じる。でもそれ以上に七海の視線が怖い。怖い……!!

    2人がどうにか制服を着終わると、飯森は七海にあるものを手渡した。その瞬間、七海は主人の意図を理解した。そして、あまりの悪趣味ぶりに心の底から呆れ果てた。今更こんなことをして何になるというのだろう。自分は、この施設に来てからというもの、こんなのとは比較にならないくらい酷い目に遭い続けてきた。今朝の調教だって、木下家時代には考えも付かなかったほど過激で過酷だ。なのに今更、何故? ……と思ってふと横にいる友達の方を見た。

    今にも倒れそうなほど顔面を蒼白にして、涙を流しながら震えていた。飯森様が七海に手渡したもの。肛門栓だ。あれを七海が着けるってことは、あの日の…… あの日の再現をこれからやるってこと? そんなの…… そんなの絶対いやああああああああああああっ!!!!

    そうか、と七海は思った。これは自分ではなく、陽葵を貶めるための調教なのだ。あの日と同じ状況を再現して、陽葵の黒歴史を白日の下に晒そうというのだ。なんて…… なんておぞましいことを考えるのよ!! 私はとっくに陽葵を許してるし、私のうんちの臭いで陽葵に迷惑を掛けちゃったことも陽葵はとっくに許してくれてる! そのことはご主人様も堀田様も知ってるはずなのに! なんでいまさら蒸し返すの!? なんで私の大切な友達を傷つけるの!!?

    七海は、腹が立って仕方がなかった。できることなら伯父を張り倒してやりたかった。でもダメ。ご主人様に絶対服従を誓ったんだから。どれだけ憎くても憤ろしくても、逆らっちゃ絶対にダメ。それに陽葵だってとばっちりを受けるかもしれない。あの日を、叛逆が失敗に終わったあの日を思い出せ。激昂するな。冷静になれ。陽葵がこれ以上傷つかないようにするにはどうすればいいか、考えるんだ……!

    2人が自分の席に着いたところで教室の扉が開いた。前から服を着た玲香、後ろから堀田をはじめ十数人の男たちと数名のサディスティン、服を着た今日子、檻に入れられた光希を持った裏沢が入ってきた。同時に、飯森も教室の後ろに移動した。

     

    「では、授業参観を始めます」

    玲香が無機質な声で言う。玲香と今日子は、午後の集団調教が始まる直前、堀田に呼び出された。玲香には女教師、今日子には授業参観に訪れた母親役が与えられ、それぞれ服を着終わったところで調教の内容が告げられた。あまりに悪辣な内容に2人は愕然とし、特に今日子は、娘が受けるであろう精神的ショックを考えるといても立ってもいられず、堀田に調教の中止を懇願したが、受け入れられるはずもなかった。そして、堀田の合図とともに2人は前後の扉から教室内に入ってきたのである。

    七海は小刻みに震えていた。あまりに外道極まる展開に怒り心頭、飯森の所に駆け出しそうになるのを必死に抑えていた。 ……何が授業参観よ! あの日は参観日じゃなかったじゃない! 佐渡先生って確か30歳くらいだし! おねえちゃんの入った檻なんてなかったし! こんなん再現でも何でもない! 寄ってたかって陽葵をイジメたいだけじゃない!! 最っ低!!!

    ……七海の肛門には、あの日と全く同じ円筒状の肛門栓が刺さっていた。5人のうち七海と玲香は今朝から脱糞しておらず、直腸の中には糞便が溜まっている。午前中から昼休みにかけて肛門内に出された大量の精液は、糞便と混じって液状化し、七海はずっと便意を感じていたが、もはや精液浣腸にも慣れっこになっているため、なんとか我慢してきたのだ。拡張の進んだ七海の肛門と栓の間には昨秋以上に隙間が開いており、程なくして下痢便は栓を伝って漏れ出てきた。

    ……臭い。もうとっくに嗅ぎ慣れているのに。今朝もイヤというほど嗅いで、食べて、酷い目に遭ったのに。あの日と同じ教室で、同じ制服で、同じ状況。あの日の悪臭が蘇る。記憶が蘇る。周囲に自分の糞便の臭いを嗅がれる羞恥と、不快な思いをさせることへの罪悪感。隣の仁科さんにまたイジメられるという不安。様々な想いが交錯して、消え入りたくなるほど辛かった、あの日の記憶。

    あれから半年以上、地獄のような毎日を過ごしてきた七海にとって、あの程度の羞恥プレイはもはやたいしたことではない。だがそれは今だから言えることであって、当時はトラウマになるほど辛かった。あの時の絶望が、羞恥が、悪臭が、再び七海を襲う。七海は机の上に突っ伏し、目を固く瞑ってフラッシュバックに耐えた。と同時に、あの日とは違った意味で隣の様子が気になって仕方がなかった。

    臭いは陽葵にも達した。この臭いだ。何も知らなかった当時の自分。臭くて臭くて、息もマトモにできないくらい臭くて。もう我慢の限界だった。1回や2回じゃない。数日おきに何度も何度も。なのに、隣のこのコミュ障ウンコ女はなんで学校休まないわけ? なに恥ずかしそうに顔真っ赤にしてんのよ! ウンチしたいんならトイレ行けば!? 具合が悪いんなら保健室か病院行けよ! なんで教室でするわけ!? それも何度も!! アタシたちがいるのに!! わけわかんない!! ああ、もう限界っ!!!

    あの時の自分の怒りは正当なものだったと、陽葵は今でも思っている。七海がどんな酷い目に遭わされていたとしても、陽葵が悪臭に悩まされていた事実は変わりないのだから。七海はそのことについては謝ってくれたし、自分ももう怒っていない。

    一方で、その正当な怒りを発散させるために陽葵がやった行動には、正当さの欠片もなかった。机の中に悪口雑言を連ねたメモを毎日のように入れ、七海の教科書に油性ペンで「ウンコ女」と落書きした。グループL○NEでは思い付く限りの罵声を書き殴り、起きたことは誇張して、起きていないことも捏造して、ひたすら七海を陥れた。陽葵の属していた不良グループの主要メンバーは、隣のクラスの女子に対してかなり陰湿なイジメを行っていて、陽葵は正直ドン引きしていたのだが、そのやり方をできる限り真似た。災害事故で家族を失った可哀想な生徒ということで、表立ったイジメはこれまでしてこなかったが、このまま悪臭騒ぎが続けば、いつか不良グループにチクって七海を集団リンチにしてやろうと半ば本気で考えていた。そして11月のあの日、あまりの悪臭に陽葵は我慢ができなくなり、リンチのことも忘れてブチギレてしまったのであった。

    悪いことをしてしまった。教室の中で繰り返しウンチを漏らすなんて、普通に考えたらあり得ないことだ。何か理由があるはず。本人に、どうしたの?って聞けばよかった。ママや担任の佐渡先生に相談すればよかった。なのにそんなことは一切しなかった。まさか七海が実の伯父に奴隷調教されて肛門拡張中だったなんて、そんなこと思いもしなかったし、七海は聞いても本当のことは絶対言わなかっただろうけど、それにしても、なんでアタシ周りに相談しなかったんだろう……。

    その後は陽葵も七海と同じ境遇になり、同じように肛門拡張されてウンチの臭いをイヤというほど嗅がされてきた。そしてJSPFで七海と再会し、真実を知った時の衝撃を、陽葵は今でも忘れることができない。

    でも七海は許してくれた。のみならず、こんなアタシと友達になってくれた。この狂った施設の中で数少ない味方。心置きなく話せる同学年の友人。命令されればレズプレイもやってしまう奴隷仲間。お姉さんに代わっていつまでもずっと一緒にいると誓い合った無二の親友。それ以上の……何か。陽葵の中で七海の存在はどんどん大きなものになっていた。

    今朝もそうだ。命令されてのこととは言え、七海は陽葵が床の上にぶち撒けた汚物を口で片付けてくれた。 ……命令されなくても、オシッコまみれの身体を舐め清めるのをそっと手伝ってくれた。自分も辛くて仕方ないはずなのに、そんな顔など微塵も見せず、七海は淡々と助けてくれる。いつぞや檻に入れられた陽葵を糞便電流地獄から救い出してくれた時もそうだった。学校で酷いことをし続けた陽葵を助けて、助け続けて、それで恩着せがましくするわけでもなく、微かな、月のように淡い笑顔を向けてくれる七海。学校でのことを謝ると、気にしてないよといつも言ってくれる七海。ペニスバンドを着けて膣を突くと、甲高い喘ぎ声を弱々しく発しながら、切なすぎる表情でこっちを見上げてくる七海。地獄のような日々の中で、いつも一緒にいてくれる七海……!

    ……そっか、アタシ、七海のこと……

     

    その時、外の風景を映していた窓が一斉に他の映像に切り替わった。場所は教室。冬服を着た生徒。1時間目の授業中。顔を真っ赤にして身を縮めている七海と、その隣でイラついている陽葵。あの日の1年A組だった。しかも前後左右や真上など、様々なアングルから撮られている。飯森が依頼し、堀田が隠し撮りしていた映像である。

    それだけではない。モニタの一部には陽葵がグループL○NEに書いた文章が全て映し出されていた。見るに堪えない罵声の嵐。誤字や誤用も目立ち、書いた者の知性が窺い知れる。七海は当時グループLINEを敢えて見ないようにしていたので、見るのは初めてだった。

    「やめてええええええええええっ!! 映しちゃだめえええええええええええっ!!!!」

    陽葵が突如金切り声を上げた。そして窓に向かって突進し、ガラス面を拳で何度も叩く。だが、強化ガラスはびくともしない。直後、映像の中の陽葵が立ち上がって叫んだ。

    『ああっ! もう耐えらんないっ! クサいのよウンコ女! いい加減にしてよっ!!』

    「いやああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」

    陽葵はその場に崩折れ、両耳を手で塞ぎ、両目を固く閉ざして号泣した。映像の音声が聞こえなくなるよう、ひたすら大声で絶叫した。

    玲香は動けなかった。なんて残酷なことをするんだろう。学校にいた頃の陽葵は確かに不良だったかもしれない。七海のことをイジメていたのかもしれない。でもとっくに改心したじゃないか。奴隷として頑張ってるじゃないか。無二の親友の前で、過去をほじくり返すようなことをして、何が楽しいんだろう。何が面白いんだろう。女教師役の玲香は教壇の上におり、男たちの顔が見えている。皆一様にニヤニヤとし、中にはペニスを扱いている者までいる始末。最低だ。玲香は男たちを心底軽蔑した。そして同時に陽葵のことを思い、彼女の所に駆け出そうとして、できなかった。勝手な行動を取ってしまったら、後が怖い。お仕置きが怖い。何をされるかわからない。だから動けない。 ……自分はなんて薄情な人間なんだろう。玲香は男たち以上に自分自身を軽蔑し、涙を流しながらその場に留まった。

    今日子も動けなかった。今日子はシングルマザーだった。5年前に交通事故で夫を亡くし、以来女手一つで陽葵を育ててきた。だが、昇進して管理職になってからは、仕事が忙しくて家庭を顧みる余裕が無くなってしまった。高校に入った娘が不良グループに入ったことも、同級生をイジメていたことも全く知らなかった。罵詈雑言だらけのL○NEの文章。これを全て娘が書いたというのか。最愛の一人娘は、知らぬ間に人を平気で傷つける人間になっていたのだ。そのこと以上に、母親の自分がその事実を当時全く知らなかったことが何よりショックだった。なんて最悪な母親なんだろう。あまりにショックすぎて、今日子はその場にへたり込んでしまった。今すぐ娘と七海の所に駆け付けたい。七海に謝って、それ以上に娘に謝りたかった。なのに足が動かない。立てない。こんな時まで動けなくなるなんて、なんて不甲斐ない母親なんだろう、私は。今日子は自分自身に絶望し、涙を流しながらその場に留まった。

    光希も動けなかった。檻に入れられている上に、ただでさえ少ない体力を午前中の輪姦で使い果たしてしまっていたからだ。だが光希は怒りに震えていた。陽葵は大切な妹の、たった1人の大切な大切な友達だ。自分のもう1人の妹とさえ思っている。そんな彼女に何故こんな惨いことをするのか。陽葵は過去を反省しているんだし、今更こんなことをしていったい何になるというのか。人には誰だって知られたくない過去がある。自分にもある。人犬ペロの浅ましい交尾映像を七海に見られた時は死ぬほど恥ずかしかった。過去を後悔し、自分を嫌悪した。でも、それで七海との関係が壊れることはなかった。七海はそんなことで姉を嫌いになるような人間ではないし、陽葵に対しても同じだろう。そのことを伝えたい。絶望の中でもがく陽葵の所に駆け付けて助言したい。大丈夫だよと。それができない自分自身に光希は怒り、涙を流しながらその場に留まった。

    七海は動いた。ただ1人、動いた。迷いは一切なかった。その場を動くなとの命令は受けていない。そのことを冷静に、瞬時に判断した上で七海は、窓の下で座り込んで号泣する陽葵の元に駆け寄ると、自らもしゃがみ込んで正面から力いっぱい陽葵を抱き締めた。

    「陽葵っ!」

    「うああああああああんっ!! 七海ぃっ!! ごめんっ!! アタシのこと、嫌いにならないで!! うわああああああんっ!!!!」

    「大丈夫だよ。私、全然気にしてないから」

    「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさいっ!!」

    「私こそごめんね? こんなに怒って、こんなに苦しんでたんだね。知らなかった。私の臭いのせいで苦しめちゃってごめんなさい」

    「そっ そんなん七海のせいじゃないじゃん!!」

    「うん。でも私が退学したのも陽葵のせいじゃないよ」

    「アタシのせいじゃん!! アタシが不良グループとツルんでるの、クラスのみんな、知ってたし! そのアタシがL○NEで七海のことボロッカスに書いてたのも、みんな知ってたし! だからみんな巻き込まれたくなくて黙ってたんだよ! アタシがバカなマネしなかったら、クラスの誰かが佐渡先生に相談して、そしたら七海が伯父さんにヒドいことされてるってこともバレて、七海は解放されて、そしたらきっと私もママも奴隷になることはなくって…… 全部、全部、アタシのせいじゃんか!!!」

    「なるほどー。そんなこと考えたことなかったよ、私。陽葵、頭いいね」

    「ふざけないで!!」

    「ふざけてないよ。でも、こんなに沢山のカメラで隠し撮りされてたんだよ? 堀田理事長1人じゃ多分無理だよ…… きっとあの学園には他にもこの施設の関係者がいたんだと思う。 ……佐渡先生とか」

    「なっ!!?」

    「ありえない話じゃないよ。私は高1の夏休みにご主人様の奴隷になったの。多分準備はそれよりうんと前からしてたんだろうし、理事長とも相談してたんだと思う。だとしたら理事長はきっと「そういう人」を1-Aのクラス担任にするんじゃないないかな。私のことを見張るために……」

    「…………」

    「推測だけどね。でも、だとしたら、クラスメイトの誰かが佐渡先生に相談しても、ウヤムヤにされちゃってたと思う。それどころか、そのクラスメイトだってどうなってたか……」

    「…………」

    「だからね? 全然陽葵のせいじゃないよ。ね?」

    「七海ぃ……」

    「大丈夫。陽葵はたった1人のお友達だもん。こんなことで嫌いになんかなったりしないよ。だから泣かないで?」

    「七海ぃっ!!」

    「ええっ!!? ちょっ!! うぷっ!!」

    「ちゅっ!! ちゅぷ!! 七海!! 七海!!」

    「く、苦しいよぉ! 陽葵ぃ!」

    「七海、好き! 大好き! 愛してるっ!!」

    「えええっ!!?」

     

    IV:奴隷200日目 – 午後(2)

     

    ……飯森はほくそ笑んでいた。またしても計画通りに行った。光希に代わる七海の人質役は娘の美海としていたのだが、人質役は多いに越したことはない。美海は片言も喋れぬ乳飲み子だし、姉を失って傷心の七海を言葉で慰める存在がいた方が良い。玲香でも良いが、同年代の方が尚良いだろう。そこで七海と陽葵の仲をより強固なものにするために、堀田と相談の上で一計を案じたのだが、どうやら上手くいったようだ。

    それにしても、七海はどこまで賢いのだろう。佐渡は確かにJSPFの関係者だ。彼女は清隷女学園の教師を務めながら、堀田の下で様々な雑務を行っていた。七海の推測通り、飯森の相談を受けた堀田は、佐渡を1-Aの担任に任じて、特に2学期以降、七海を常に監視させていたのである。

    七海はどこまで見抜いているのだろう。実は佐渡は、アイマスクとウィッグで変装した上で、保護者役に扮して自分と堀田の間に立っている。それは七海もよく知っている顔のはずだ。なにせ、奴隷9日目に初めて七海を指名して以降、度々指名してはボロボロになるまで七海を痛めつけ、公開出産ショーの際には助産婦として七海の妊婦腹に鞭を打ち込んだ、あのサディスティンなのだから。

    あのサディスティンが担任の佐渡先生であると、七海は気づいているのだろうか。見た目と口調は別人、同じなのは声と体格だけであるが……。それはわからないが、憶測だけでここまでの真実に迫る七海には飯森も脱帽だ。 ……飯森が佐渡の方を見やると、佐渡も飯森の方を見、堀田もそれに気づいて皆でニヤリと笑った。

     

    「ちょ…… 陽葵! 待ってっ!」

    「七海…… ちゅ…… 七海ぃ…… 大好きぃ♥」

    陽葵は感極まってしまって周りが見えていないのか、七海とのキスを続けながら臍出し状態の制服の中に手を入れ、七海の乳房を揉み始めた。

    「待ってってばっ! 大勢に見られてるんだよ? それに許可を…… ご主人様の許可を取らないと」

    「いいぞ、好きにしろ。ただし衆人環視の中で、だ。撮影もするからな?」

    飯森がそういうと、窓の映像が再び一斉に切り替わった。七海と陽葵のドアップだ。複数のモニターを繋ぎ合わせて実物の10倍の拡大映像をリアルタイムで映し出しているらしい。

    「うわっ! 何これっ!?」

    「最新の16K超高精細カメラと大型モニターだ。 ……これだけで数千万だぞ」

    「いや、そういうことじゃなくって!」

    「ふふっ…… 愛のあるセックスは初めてだろう? たっぷり楽しめ、七海」

    「ううっ…… ご主人様ぁ……」

    「場所は、そうだなぁ。教壇の辺りがいいだろう。玲香、頼む」

    「……はい」

    玲香は教壇を教室の隅に引きずっていくと、教室中央前寄りに座っていた男たちに立ってもらって、空いた机を3×3の長方形に隙間なく並べ、簡易ステージを作っていった。飯森の指示に従って作業を進めながら、玲香の心境は複雑だった。

    玲香がお仕置きを恐れて動けない中、七海は躊躇なく陽葵の元に駆け寄った。今にも壊れてしまいそうだった陽葵を抱き締め、説き伏せ、立ち直らせて、最後には愛の告白までさせてしまった。近頃の2人の関係は友達以上なような気がしていたから、告白については正直驚かなかったが、主人の命令に逆らわない範囲で自由に動き、あっという間に友人を窮地から救ってしまった七海の勇気と機転と行動力にはただただ驚嘆するばかりだ。なんて…… なんてすごい娘なんだろう。そして思った。全力で守らなくちゃ、この若いカップルを。

    光希は自分を恥じていた。先程は動けない自分に腹を立てたが、それは心の底では妹を信じていなかったということの表れではないか。妹はひ弱で人見知りで頼りないから自分が陽葵を説得したいのに、それができない自分が情けなくて腹が立った…… そんな想いが心の片隅にあったのではないか。妹は、もう以前の妹じゃない。ただ優しいだけの弱々しい少女じゃない。それでいて姉みたいに無鉄砲でもない。まるで亡き父のような強さと亡き母のような賢さを持っている。でもその根底には以前のままの優しい七海がいる。いつの間にこんな素敵な女性になっていたんだろう。光希は涙を流した。嬉しさ半分、そんな七海ともうすぐ永遠に別れなければならない悲しさ半分……。

    今日子はひたすら七海に感謝していた。今日子が動けない中、猛然と駆け出して娘を絶望の渦から救い上げてくれた。本当に、感謝してもしきれない。七海の説得を今日子も聞いていた。もし自分の足が動いて娘の元に駆け付け、抱き締めることができていたとしても、あんなことはとても言えなかっただろう。最愛の娘の強く賢く優しい友達、否、恋人。今日子は元々LGBTQには全く興味がなく、それどころか嫌悪さえしていたのだが、娘にこんなにも素敵な恋人ができたことが嬉しくて仕方なかった。そして思った。2人が過去を克服したのだから、自分もいつまでも過去を引きずっていては駄目だ。それではいつまで経っても母親失格のままだ。今からでも理想の母親を目指さなくては。奴隷の娘に相応しい母親を。

    ステージの用意が整うと、2人はほぼ同時にステージに上り、そして制服を着たまま再びキスを始めた。

    「七海…… 好きだよ…… んちゅ♥」

    「陽葵…… ちゅぷ」

    陽葵と再会した日の夜に友達になった時は、単なる「友達」だった。だが、過酷な調教を一緒に受けたり、レズプレイを命じられたりするうちに、肉体だけでなく心の親密度はどんどん増していった。そしてあの日。姉の寿命を聞かされてパニックになった七海を慰め、ずっと一緒にいるよと言ってくれた時、その感情は初めて明確に七海の中に宿った。恋愛経験のない七海にはそれがどういうものかよくわからなかったが、その感情は日に日に大きくなっていった。今日の午前中も、今さっきも、陽葵を助けたのは正義感からじゃない。そんなんじゃない。そんなんじゃなくって…… 好きだから。大好きだから! 愛してるから!!

    「うん…… 私も好きだよ…… 陽葵……」

    目を潤ませながら顔を真っ赤に赤らめ、微かな笑みを浮かべて小さな声で愛を囁いた。その瞬間、感情が膨らみ、弾け、溢れた。愛する人を力いっぱい抱き締め、今度は大きな声で言った。

    「陽葵っ! 大好きっ!!」

    「七海ぃっ!!」

    陽葵は天にも昇る思いだった。感激のあまり涙が溢れて視界がぼやけ、七海の顔が歪んでしまう。でも止まらない。今朝から苦しみと絶望の涙を流し続けてきたというのに、歓喜の涙は涸れることなく溢れ続ける。嬉しすぎて、奴隷とか、衆人環視とか、そんなことどうでもよくなる。七海! 七海!! 七海っ!!!

    熱烈なキスが始まった。唇を合わせて舌を重ね、唾液を交換する。奴隷になってから何百回も何千回もやらされてきた行為。なのに相手が愛する人だとこんなにも幸せな気持ちになれるのか。2人は夢中になってキスを貪り、幸福のあまり軽く絶頂してしまった。

    そのまま両手で互いの身体を弄り合っていく。最初は制服の上から。次に手を制服の中に入れて。でも服は脱がない。脱ぎたくない。裸は奴隷の正装だ。だから、せめて服を着せてもらっている今だけでも自分から裸になりたくない。裸になってしまえば奴隷同士の単なるレズセックス、服を着ていれば人間的な愛の営み。そんな気がする。

    2人は制服の上着をたくし上げて互いの胸を愛撫し、次いで口で舐め始めた。陽葵は、肥大化した七海の乳首を口に含んで思いっきり母乳を吸いたかったが、七海の母乳を飲んでいいのは美海と男たちだけと決まっているのでさすがに自重し、乳房、肋骨、腹、臍と徐々に下半身へと舐め進めた。

    そしてスカートをたくし上げた瞬間、陽葵はあの臭いを嗅いだ。否、これまでも常に臭っていたのだが、感激と興奮のあまり気づかなかったのだ。そしてスカートの中の濃厚な臭気を嗅いで、ようやく気づいたというわけである。スカートの中、ショーツは既に大量の下痢便で茶色く染まっていた。

    「いやぁ…… 恥ずかしいからめくらないで…… 陽葵ぃ……」

    「…………だぁめ♥」

    「うぅぅ……」

    「大丈夫。アタシが綺麗にしてあげるね?」

    そう言うと、陽葵は一気にショーツをずり下ろした。肛門周辺から下半身全体に広がる汚らしい光景。圧倒的な悪臭。あの日も、七海のスカートの中はこんなことになってたんだと思うと、堪らなかった。そりゃ臭かったわけだ。でも不思議と嫌悪を感じない。微塵も感じない。 ……綺麗にしてあげたい。あの日の贖罪というわけじゃない。ただ綺麗にしてあげたいだけ。愛しい人の汚れた股間を舐めて綺麗にしてあげたいだけ。それが愛ゆえの欲求なのか、奴隷的奉仕精神の表れなのかは陽葵にもわからない。 ……陽葵は大きく深呼吸すると、七海の下半身に顔を埋めた。

    「ちゅっ…… じゅるる…… れろっ…… ごくんっ」

    陽葵はいきなり汚れの中心、肛門に唇を重ねてキスをすると、舌を動かして周辺の糞便を舐め取り、飲み込んでいく。

    「げほっ! げほっ! げほっ!」

    激しく咳き込む陽葵。

    「陽葵っ! 大丈夫っ!?」

    「けほっ! ずちゅううっ! うげっ! ぢゅるるっ! うぷ!」

    陽葵はまだまだ食糞が苦手だ。味も臭いも食感も喉越しも何もかも苦手。愛する人の汚物なら美味しく感じるんじゃないかと淡い期待を抱いていたのだが、そんなわけもない。堀田や飯森と全く同じ、不快極まる最低最悪の味。1口ごとに激しく噎せ返り、吐き戻しそうになるが、それでも陽葵は汚物を食べ続けた。意識せずとも口を開け、クチャクチャと汚らしい咀嚼音をわざと発しながら、夢中で貪り続けた。

    やがて七海の身体に付着した汚物を全て舐め尽くすと、陽葵は七海の肛門に刺さっている円筒形の栓を抜いた。元の色も形状もわからないほど大量の糞便がこびりついていたが、陽葵は意を決して肛門栓を口に含むと、歯で汚物をこそげ落として飲み込んでいった。肛門周辺にこびりついていたモノよりも新鮮な分、味も臭いもさらに強烈だったが、陽葵は泣きながら栓を掃除していった。

    「もういいよ、陽葵。あとは私がやるから……」

    「ううん。アタシにやらせて? ね? お願い…… 七海のウンチ、全部アタシにちょーだい……」

    「えっ…… 全部って……」

    「うん。お腹ん中に溜め込んでるのも全部」

    「いいよ、そんなの。だってすごい量だよ?」

    「うん、わかってる。アタシの口に全部出して? 口便器に、して?」

    「うぅぅ…… そんなぁ……」

    「七海のウンチ、食べたいの。不味くてもいいから」

    「だって…… ザーメン混じりの下痢便だよ? めちゃくちゃマズいよ?」

    「いいの、なんでも。お願い、七海!」

    「ああ、もう…… わかったから……」

    「ありがと。あぁぁぁぁぁっ…………」

    陽葵は仰向けのまま目を閉じ、口を大きく開けて待機している。ここに出して欲しいということだろう。

    一本糞のような硬い便であれば口の中に狙いを定めることもできるが、下痢便の場合は広範囲に撒き散らしてしまう。七海は陽葵の口の真上でしゃがみ込むと、制服をなるべく汚さないよう、陽葵の唇に自身の肛門を密着させて括約筋を緩めた。

    「いくよっ!」

    「うんっ!」

    ブビビビビビビビビビビビ!!!!

    下痢便が勢いよく陽葵の口の中に入っていく。その量は、陽葵の口内の容積よりも遥かに多く、溢れた下痢便が陽葵の口元から顔全体へと広がり、鼻の穴を覆っていく。

    「うぶうううううううううっ!!!!!!!!」

    ちょ…… くっさ! まっず! なにこの量! こんな多いの!? 口ん中パンパン…… こんなんどうやって飲み込んだらいいの? ダメ! 口ふさがってるから鼻でしか息できない! 鼻ん中にもウンチ入ってきてる! くさい! くさすぎ! こんなん無理! 無理ぃっ!!

    「陽葵っ! ごめんっ!」

    こんなに沢山出るとは思っていなかった。七海は急いで体勢を変えると、下痢便で覆われた陽葵の鼻に迷うことなく口を付けた。鼻の穴周辺の下痢便を舌で全て掬い取ると、鼻の穴に舌を入れて、鼻クソごと汚物を掻き出して全部飲み込む。次に首の方に流れた分を全て舌で掃除していく。なんとか制服は汚れずに済んだようだ。さらに顔に広がった分を全て処理する。

    続いて、唇を尖らせて陽葵の口の中に入れ、並々と溜まった下痢便を、下品な音を立ててバキュームしていく。しばらくして、ようやく口を閉じることができる程度に下痢便が減ってくると、陽葵は口を閉じた。全部七海にやらせるわけにはいかない。アタシが食べるって言ったんだから。めっちゃニガくてマズいけど。やらなきゃ! ……陽葵は目を固く瞑り、強烈な吐き気と戦いながら、なんとか少しずつ下痢便を飲み下していった。

    数分かけて全ての下痢便を胃袋に送り終えると、陽葵はゆっくりと目を開け、咳込みながら七海に向かって言った。

    「げほっ! うげぇ…… こほっ! ……きっつ」

    「ごめん。思ったよりたくさん溜まってたみたい……」

    「うん。ビックリした」

    「あぅぅぅ…… ごめん……」

    「謝んなくていいよ。それより、手伝ってくれてありがと」

    「うん」

    「でも、アタシ頑張るよ。そのうち全部飲み込んであげる」

    「陽葵……」

    「そのかわりさ…… 今度アタシのも、飲んでね?」

    「いいよ」

    「即答!? さっすが!」

    「……バカ」

    「ははっ♬ それよりさ。身体もキレイになったし、今度は気持ちよくならない?」

    「うん」

    2人はシックスナインで互いの膣を愛撫し合うと、続いて双頭ディルドーを互いの膣に挿入し合って貝合わせの体勢で優しく腰を振り合った。

    「ああん♥ 七海っ♥ んあっ♥ 気持ちい? 七海ぃ♥」

    「ああっ♥ 気持ちいぃよ♥ 陽葵っ♥ あひぃっ♥」

    なんて優しい快感なんだろう。暴力的なレイプも確かに気持ちいいけど、なんだろう、この満たされた感じ。愛のあるセックスってこんなにも素敵なものだったんだ。おねえちゃんや玲香さんと交わった時にも、陽葵とこれまでに交わった時も、こんな気持ちになったことはなかった。ディルドーの先端が膣壁とこすれあって気持ちがいいとか、そんな次元ではなく、2人の身体が溶け合ってしまったような、ふわふわとした優しい幸福感。なんて…… なんて気持ちいいんだろう。なんてしあわせなんだろう。

    陽葵は涙が出るほど嬉しかった。先程から七海が、これまでに見たこともないほど幸せそうな表情を浮かべていた。あの儚げで切なげで蠱惑的な表情ではなく、恋人と溶け合って幸せの絶頂にいるといった感じの、なんとも満ち足りた表情。七海がこんな素敵な表情を見せてくれたことが、陽葵のことを奴隷仲間でなく恋人だと思ってくれていることの証のような気がして、陽葵もまた幸せの表情になり、2人はそのまま優しく穏やかな絶頂に包まれた。

    モニターに10倍ズームで映された七海と陽葵の幸せに満ちた表情を見て、光希も玲香も今日子も涙を流していた。この地獄の中で、2人がこんなにも素敵な顔を見せてくれたことが、心の底から嬉しかった。

    一方、飯森は虫酸が走っていた。七海が飯森に対してこんな顔を見せたら、飯森は七海を即刻JSPFに売り飛ばすだろう。主人と奴隷の関係とは、あくまで主従であって恋愛ではない。七海が光希の死を乗り越えるために、陽葵との絆をより強固なものにする。そのためには当人同士が恋人になるのがてっとり早いので、例によって堀田と協議の上で、陽葵イジメを兼ねたこのようなショーを企画したわけだが、それにしても反吐が出る。2人の仲が深まりすぎて奴隷であることを忘れてしまっては本末転倒であるし、ここはしっかりと釘を刺しておくべきだろう。飯森は全裸になると、堀田とともにステージに上がって幸せの絶頂にいる奴隷どもに話しかけた。

     

    「七海」

    「…………」

    夢のように幸せな時間を過ごしていた七海は、薄汚い声で現実に引き戻された。そうだよね。今は調教中なんだし、こんな幸せなこと、いつまでも続くわけないよね。わかってはいるけど…… 何も今、このタイミングで出てくることないじゃない。 ……最低。

    「はい」

    「随分とご満悦のようだが、今がどういう時間か忘れてはいないだろうな?」

    「はい」

    「他の奴隷とどういう関係になろうと構わんが、お前はどういう存在なんだ? 改めて言ってみろ」

    「…………」(はぁぁぁぁ…………)

    そんなのわかってる。心の中で深い溜息をつくと、七海は速やかに奴隷に戻った。奴隷の正装は裸に首輪のみ。七海は衆人環視の下、命令されずとも制服を脱いでいく。全く恥ずかしくない。服を着るのが恥ずかしくて、脱ぐのが恥ずかしくないなんて、自分が最低の存在に、心の底から奴隷になってしまった気がして悲しかった。制服を脱いでしまえば、ブラは着けていないし、糞便まみれのショーツは床に転がっているから、いつもどおりの全裸だ。ただただ残念だった。もう少しだけ人間でいたかった。恋する少女でいたかった。はぁぁ…… 最低。

    七海は心の中で短く毒づくと、飯森の足元に土下座した。陽葵も、後ろ髪を引かれる思いで制服を脱ぎ、堀田の前にひれ伏す。そう、私たちは恋人である前に奴隷。ご主人様に、お客様に奉仕するのが最優先。ご主人様を怒らせちゃダメ。陽葵と別れさせられちゃうかもしれない。そんなのイヤ。絶対にイヤ!

    「私はご主人様の、飯森則夫様の奴隷です。所有物です。ご主人様にご奉仕し、皆様にご奉仕するためだけの存在です」

    「うむ。忘れるなよ? 忘れずにいる限り、陽葵との関係は許してやろう」

    「あ…… ありがとうございます、ご主人様っ!」

    「七海。陽葵も。ちょっと来い。向かい合って鼻と鼻を密着させろ」

    「……はい」

    「??」

    七海と陽葵は、これから何をさせられるのかと不安になりつつ、言われるままに向かい合った。顔と顔を近づけ、鼻同士を触れ合わせる。 ……もう一度キスしたいな。七海はぼんやりと思った。

    飯森は2人の鼻に穿たれた鼻輪同士を小さな金属のリングで繋いだ。鼻と鼻の距離は3cm程度。ちょっとでも動くと鼻輪が引っ張られて痛い。

    「さあ準備できたぞ? 今日はお前たち2人で我々に奉仕しろ。その状態でな」

    「……わかりました」

    「マ、マジ……?」

    七海と陽葵は、互いの鼻が繋がったまま、身をかがめて尻を突き出すと、互いの手をしっかりと握り締めた。互いの顔が間近にある。2人とも頬が紅潮し、目が潤んでいる。これから行われる調教に対する不安と期待で、マゾの血が騒いでいるのだ。七海は例の妖艶な顔、陽葵も興奮しきって歪んだ顔を、それぞれ愛する者に晒しながら、飯森と堀田に向かって口上を行った。

    「どうぞ犯してください、ご主人様。私たちで事前に濡らしておきましたので…… もう準備万端です。グチョグチョのおまんこにご主人様のおちんぽを突っ込んで、メチャクチャに掻き回して、ザーメン、たっぷり出してください。2人目の赤ちゃん、孕ませてください……」

    「アタシにも堀田様のおちんぽください。おまんこで精いっぱいご奉仕しますので。お願いします……」

    そこにいるのはもはや恋する乙女でなく、2匹の卑しいメス奴隷だった。

    「ああっ! いつっ! ああんっ! 痛いっ!」

    「うぐっ! あんっ! いたっ! んああっ!」

    奉仕が始まった。鼻を繋がれながら猛烈なピストンで膣を犯される2人。窓にはあらゆる角度からのライブ映像が映され、教室内のボルテージは急速に上がっていく。ピストンのたびに鼻が引っ張られて痛い。すごく痛い。飯森と堀田は、鼻同士が不規則に引っ張られるように、わざとピストンのタイミングをずらして責めていく。

    強い刺激故か、2人の鼻粘膜からは大量の鼻水が分泌され、鼻周辺はドロドロ。口にまで大量の鼻水が流れ込んでいく。鼻の痛みと、鼻中隔(=2つの鼻の穴の間にある仕切り壁)が千切れてしまうのではないかという不安にゾクゾクし、鼻水と涙を撒き散らして快楽を貪るマゾの2人。

    興奮した男の1人がステージに上がって、鼻の下のドロドロにペニスをこすり付けると、2人に舐め取るよう命じた。2人は不規則な動きに翻弄されながらも、ペニスに付いた鼻水を下品な音を立てながら舐め啜っていく。しょっぱい。涙と同じ液体だとわかっていても、鼻水には汚いというイメージがどうしてもある。だが、愛する者の汚物を舐めるという行為が、先程の食糞を思い起こさせ、レズプレイの興奮が蘇ってくる。

    「陽葵…… じゅぞぞ! べちゃべちゃっ! 陽葵っ!」

    「ぶちゃっ! 七海っ! ずずずずずずっ! 七海っ!」

    熱の籠もった声で互いの名を呼び、鼻水を啜りながら膣穴の快楽に酔いしれる七海と陽葵。気持ちいい。メチャクチャ気持ちいい! 2人はあっという間に快楽の階段を登り詰めていく。

    「イくっ! もうダメ! イっちゃううううっ!!」

    「ひぐううううううううううううううっ!!!!」

    2人はほぼ同時に達したが、その間も飯森と堀田はピストンを止めないし、2人も口奉仕を止めない。奉仕を休んで絶頂の快楽に浸るなんてことがあれば奴隷失格、厳しいお仕置きが待っている。その辺りは七海も陽葵も心得ていて、絶頂の激しい快楽に包まれながらも膣を強く締め、ペニスをさらに激しく舐め回すのだった。

    やがて飯森たちも限界に達し、5人は同時に絶頂した。足がガクガクと震える。飯森たちが離れた後、2人は膝を折ってその場に倒れ込みそうになったが、倒れた際に鼻が強く引っ張られて千切れてしまうのが怖くて、なんとか堪えた。そして、逆に鼻と鼻を0cmまで近づけ、鼻水と涎と精液でグチャグチャになっている互いの口を合わせると、下品な音を立てて熱いディープキスを開始。すぐに次の男たちがステージに上って、2人の肛門に剛棒をねじ込んだ。

     

    40分後、鼻輪同士を結ぶリングがようやく外された。既に膣にも肛門にも無数の精子が放たれ、2人も10回以上絶頂を迎えていたが、奉仕はまだ始まったばかりである。

    自由度が増した2人を男たちが取り囲んでいく。膣、肛門、口、胸、手、腋、足、その他身体のありとあらゆる部位を弄ばれる2人。もうわけのわからない状況で、レズプレイの時の優しく穏やかな幸福感とは真逆の、嵐のように暴力的な快楽が2人を襲っていたが、2人は快楽に身を任せることなく舌を動かし、手を動かし、膣と肛門を締め、疲れた身体に鞭打って男たちに奉仕していった。そう。何でもやらなきゃ。私たちは奴隷なんだから。愛する人とずっと一緒にいるために、何だってやらなきゃ!

    あまりにも大人数がステージという名の机の上に殺到したため、玲香は安全のためにステージを解体し、今日子とともに教室内の机を全て後ろに移動させた。床の上で引き続きもみくちゃにされる七海と陽葵。だが2人で相手にできる人数には限りがあるため、順番待ちしている男たちは、手近な9個のオナホールで性欲処理をし始めた。特に光希は既に体力の限界だったが、七海と陽葵の負担を少しでも軽くするために、最後の力を振り絞って己に開いた3つの穴でペニスに奉仕するのだった。

    男たち全員が七海と陽葵の穴を使い終えると、2人はレズプレイを強制された。男たちは、2人をシックスナインの体勢にして、互いのドロドロの膣穴やクリトリス(クリペニス)を舌で舐めさせながら、2人の肛門にペニスをぶち込んで激しく犯しまくった。ある者はそのまま肛門内で射精し、奴隷たちに互いの肛門に舌を突っ込ませて茶色く濁った精液を掻き出すよう命令し、ある者は射精直前にペニスをもう片方の口に中にぶち込んで喉奥で射精し、糞カスにまみれたちんぽを舌で清めるよう命令した。掃除の終わった膣穴には再びペニスが挿入されて、すぐに白濁液で満たされた。やがて性器の締まりがなくなってくると、男たちは2人の首を絞めたり、身体じゅうに鞭を打ったりして締めさせた。それでも締まらなくなってくると、拳を膣と肛門にぶち込んでWフィストが始まり、2人は狂ったように泣き叫びながら、それでも絶頂して潮を撒き散らした。

    調教終了の午後5時を迎えた時には、2人は午前中以上に真っ白に染まり、折り重なるように倒れて失神していた。光希もまた失神し、今日子も失神寸前。美海をあやしたり、ダイニングや奴隷用トイレなどを清掃したりするため、度々教室を抜け出していた玲香だけが正常な意識を保っていたが、やはり身体じゅう精液まみれだった。

    飯森は、今日はこのままここで夕食を摂るよう玲香に言い、食べ方を伝えると、玲香に流動食のパックを4つ渡した。玲香はもはや呆れ返る気力もなく、光希を除く失神中、または失神寸前の3人の所に行き、精液まみれの身体の上に流動食をぶち撒けて身体じゅうに塗りたくっていった。そして最後に自分の身体にも流動食を塗ると、3人を起こした。七海と陽葵。玲香と今日子。互いの身体に付着した流動食と精液を舌で舐め取って飲み込んでいく。もう味なんてしない。途中で舐める相手を変えながら、4人は黙々と舌を動かし続けたのだった。

    一方、光希は裏沢によって失神したままキャリーケースに放り込まれ、メス犬区画の9号室へ戻る前に医務室へと運ばれた。本来なら、夕食はこの後、9号室で雑用係が用意した流動食を食べることになるのだが、恐らくもう飲み込む体力も残っていないだろう。失神したまま栄養剤の点滴を受けた後、失神したまま9号室へと運ばれると、光希は明日の朝まで白濁まみれのまま死んだように眠り続けた。体重は朝より0.5kg減っていた。 ……光希の最期の時は、刻一刻と近づいていた。

     

    V:奴隷200日目 – 夜

     

    4人の奴隷はどうにか夕食を終えると、重い身体を引きずって教室を出、シャワーを浴びて汚れを落とした。19時からは1回50分の少人数調教である。

     

    1人目は白髪交じりの男で、七海単独でのご指名だった。場所は和室。七海は紅白の巫女服を着せられた上で、胸だけをはだけた状態で雁字搦めに縛られ、エビ反りの体勢で天井から吊るされた。さらに紅白の蝋が胸に垂らされ、鞭で全身メッタ打ちにされる。元々身体の硬い七海にとっては地獄の苦しみで、今朝から輪姦されっ放しだった七海は、一転して苦痛に泣き叫んだ。マゾの身体が苦痛の一部を快楽に変換していくが、朝からイき続けて疲労の極みにある七海にとって快楽はもはや苦行でしかなく、七海は2種類の苦しみにひたすら耐え続けた。

    その頃、玲香は教室の後始末に追われ、ペアで指名された仁科母娘は20代の巨漢の男の相手をしていた。男は母娘でのレズプレイを要求し、陽葵は七海との絡みで味わった興奮とは別種の興奮を感じながら、実の母と唇を重ね、互いの性器を舐め合った。男はさらにフィストレズをするよう命令する。娘は自分が産まれてきた穴に自らの拳を突っ込んで激しく掻き回し、母は娘の前で絶叫しながら痴態を晒し続けた末に盛大に潮を吹き、娘の腕をビショビショに濡らした。続いて、緩んだ膣を男の巨根に貫かれながら、母が娘の肛門に拳をねじ込み、娘は狂ったように喘ぎまくった末、母と同じように潮を吹いて果てた。さらに男は緩んだ娘の肛門にも巨根を突っ込み、最後は母娘の顔に精液をぶっかけると、娘の糞カスの付いた巨根を母に舐め清めさせて帰っていった。

     

    2人目は中年の男で、七海と玲香を指名した。場所は拷問室。男は2人それぞれに鞭を持たせ、立ったまま互いを打ち合えと命じた。2人とも、S役を命じられたことはこれまでに何度もあったが、互いに打ち合うなどというのは初めての経験だった。七海が鞭を振るうと玲香が硬直し、玲香が鞭を振るうと七海が硬直する。最初はそんなふうに交互に鞭を打っていたのだが、そうではない、同時にやれと男に言われ、七海は玲香をメッタ打ちにしながら玲香にメッタ打ちにされた。痛い。痛くて立っていられない。でも鞭を振るうためには足に力を入れて踏ん張らねばならない。するとその足に鞭が飛んでくる。見れば男も鞭を持っており、主に2人の足に鞭を浴びせていたのだ。2人は1箇所に留まることすらできず、無様なダンスを踊りながら互いの鞭を浴び、互いに鞭を浴びせた。ただでさえ疲労の極みにあるというのに、2人は数十分間も被虐のダンスを踊り続け、後半は足腰が立たなくなって倒れ込んだところにさらに男の鞭を受けた。男は真っ赤に腫れ上がった2人の身体の上に精液をぶっかけ、ついでに小便をひっかけて帰っていった。

    陽葵と今日子はまたもペアで指名された。今度は男たちも2名である。773号室では七海がダントツの人気を誇るが、親子丼もかなりの人気らしい。陽葵はノーブラノーパンの上に例の制服、今日子まで何故か同じ清隷女学園の制服を着るよう命じられた。そして、後ろ手に縛られた状態で1つの三角木馬に互いに向かい合うような格好で跨がされ、足にはそれぞれ重さ10kgの鉄球の付いた足枷が嵌められた。さらに、制服をたくし上げて胸を露出させ、互いの乳首ピアス同士を小さなリングで結ぶと、男たちはその状態で蝋燭と鞭を母娘の身体に浴びせた。母娘は泣き叫びながら身体を激しく動かし、そのたびに股間と胸を激痛が襲った。マゾの母娘はこんな状態でも苦痛を快楽に変換し、互いに身を乗り出して母娘でキスしながら絶頂した。面白がった男たちは、母娘をM字開脚の状態で抱き合わせて、互いにキスした状態で上半身を縛り上げて天井から吊るし、再び乳首をリングで連結した。そして膣穴同士を双頭ティルドーで繋ぐと、母娘の肛門を猛然と犯し始めた。痛くて気持ち良くてもうわけがわからなかった。母娘は涎と涙と鼻水で顔じゅうドロドロになりながら、互いの口内を夢中になって貪り、互いに「ママ」「陽葵」と呼び合いながら何度も何度も果てた。最後は、母の糞カスの付いたペニスを娘が、娘の糞カスの付いたペニスを母が、それぞれフェラ掃除して終わった。

     

    3人目も中年の男で、七海を単独指名した。場所は客用トイレの中にある和式個室だった。七海は鍵の開いた状態のドアを通って客用トイレに入り、指定された個室のドアを開けた。飯森よりもさらに薄汚い中年太りの冴えない小男がしゃがみ込んでいて、七海に背を向けたまま和式便器に向かって脱糞しているところだった。七海は咄嗟に場所を間違えたと思い、男に謝りながら慌ててドアを閉めようとしたが、男に「入れ、七海」と言われて、悪臭漂う狭い個室内に入った。男は半立ちの体勢になると、肛門を綺麗にするよう七海に言って尻を突き出し、七海は跪いて、黒ずんだ毛むくじゃらの肛門を舐め、舌で肛門をほじくって糞便の残りカスを掻き出した。次いで大便器の中も綺麗にするよう男が命じる。七海は「はい」と感情のない声で短く答えると、床に這いつくばって和式便器の中に顔を埋め、30cm近い巨大な一本糞を食べていった。もういいや。輪姦や鞭打ちに比べればラクだし。次はどうせ便器の底に溜まってるオレンジ色のオシッコを全部飲めって言うんでしょ? ……最低。七海は男に言われるままに小便を飲み干し、和式便器をピカピカになるまで舌で磨いた。男は汚れた七海の顔をベロベロに舐め、鼻の穴にまで舌を突っ込んで悪臭漂う唾液まみれにすると、これまた悪臭漂う包茎ペニスを七海の口に突っ込んでイラマチオを始めた。巨根ではないので息苦しさはないが、皮の中に溜まっていた大量のチンカスが、皮がめくれるとともに口の中いっぱいに溢れ、得も言われぬ不快な味と臭いを撒き散らしていく。七海は全身鳥肌になりながらもチンカスを飲み込み、激しいピストンに合わせて唇から喉までを全て使ってペニスに奉仕していく。やがて射精に至ると、男は再び七海を四つん這いにさせて頭を便器の中にぶち込み、便器の水を流しながら肛門を犯しまくった。中出しした後、男は七海にペニスを掃除させようとしたが、便器の中でもがく七海の口に入れても掃除どころか逆効果であると気付き、ペニスに付いた汚れをトイレットペーパーで拭き取ると、七海の口に押し込んで帰っていった。

    玲香は、ぐずりだした美海をあやしつつ、和室と拷問室の清掃を行ったが、清掃中に男2人にレイプされた。男たちは射精直前にペニスを引き抜くと、玲香が持っていた掃除用の雑巾…… 拷問室の床の上に飛び散っていた精液や尿をたっぷりと吸ったそれの上に精液を撒き散らし、雑巾を綺麗にするよう命令した。玲香は雑巾を床の上で絞ると、床の上にこぼれた汚液を這いつくばって舐め取っていった。

    陽葵と今日子はそれぞれ複数人に単独指名され、内容は陽葵が針責め+3P、今日子が水責め+4Pであった。母娘ともに朝に摂取した薬物の効果が切れかけており、前日からほぼ不眠不休であるため、疲労と眠気でもうフラフラの状態だったのだが、それでもなんとかお仕置きされることなく50分を耐え切った。

     

    そして、4人目。相手は七海と陽葵をご指名だった。2人は22時少し前に指定された扉を開いた。中はJSPFの一般的な調教室と同じ間取りで、赤いボンデージに身を包んでアイマスクを着けた例のサディスティンが足を組んでベッドの端に座っていた。

    「ひっ……!」

    陽葵は小さく悲鳴を上げた。陽葵はこのサディスティンに指名されたことは未だなかったが、他のサディスティンの指名は何度か受けていたため、サディスティンの多くが男たち以上に苛烈な虐待を加えてくることを知っている。もう身体は限界なのに、これからさらに酷い目に遭うのかと思うと、陽葵は軽い目眩に襲われ、その場に倒れそうになった。

    「…………」

    七海は全く別のことを考えていた。やっぱり……そうだったんだ。

    「佐渡先生…… ですよね?」

    「…………へぇ。よくわかったわね」

    サディスティン、否、佐渡はアイマスクとウィッグを外した。見慣れた顔がそこにあった。

    「…………え? えええっ!? マジぃっ!!?」

    陽葵は一瞬ポカンとし、それから驚愕の声を上げた。眠気が一気に消し飛んだ。

    「いつ気づいたの?」

    「さっき、教室で、です。教室の後ろにいましたよね」

    「そうね」

    「私、さっき陽葵と、佐渡先生はグルなんじゃないかって話をしてた時に、あなたがご主人様と堀田様の間にいることに気づいたんです。そして、よく考えたら佐渡先生に声も体格もそっくりだった……!」

    「…………」

    「そしたら、あなたがご主人様と堀田様と目を交わして、ニヤッと笑って…… それで私、確信したんです」

    「ふふっ…… あなた本当に賢いのね。テストの成績は可もなく不可もなくって感じだったのに」

    「グルだったんですね」

    「ええ、そうよ? 因みにペロの調教映像を飯森様に渡していたのも私。1-Aの教室にカメラを仕掛けて盗撮した映像を理事長に渡したのも、あなたが変な行動を取らないか見張っていたのも、理事長の指示に従ってあなたの退学手続きを処理したのも、拉致に向けて陽葵と今日子の身辺を調査したのも、みんな私」

    「…………」

    ……最低。ほんと最っ低! 優しくて美人で……素敵な先生だと思ってた。先生の教える国語の授業はとても面白くて大好きだった。助けて欲しいと、実の伯父に酷い目に遭わされていると、何度先生に相談しようと思ったことだろう。 ……まさかこんな最低の人間だったなんて!

    七海は沈黙したまま目に涙を浮かべて佐渡を睨みつけた。本当なら口汚く罵って、頬を思いっきり引っ叩いてやりたかった。でも、できない。奴隷がお客様にそんなことしちゃ、ダメ。でも…… でもっ!

    陽葵も驚愕していた。授業なんてテキトーに聞き流していたし、1学期末の国語のテストも確か14点だったけれど、担任の佐渡先生のことは嫌いじゃなかった。まさかアタシとママのことを調べてただなんて! 教室を盗撮したり七海を監視したり、そんな酷いことをする人だったなんて!!

    「なんで……こんなことするんですか?」

    「そりゃ、仕事だからでしょ」

    「学園の生徒を監禁して堀田理事長の調教を手伝ったり、ここに連れてきて奴隷にしたり…… 私たち以外にもそういう酷いこと、してきたんですか」

    「その通りよ」

    「なんで……」

    「それを聞いてどうするわけ?」

    「…………あ」

    「……ん?」

    「そうか。あなたも堀田理事長の奴隷……なんじゃないですか?」

    「…………」

    「だから理事長の命令通りに動いてるんだ……。違いますか?」

    「いや〜、まいったなぁ。ほんとに賢いね、七海……」

    「そうなんですね。だったらなんで…… なんで私たちに酷いことするんですか! おんなじ奴隷じゃないですか! 私たちの気持ち、わかりますよね!? なんで………… ひっ!」

    七海は言葉を詰まらせた。獲物を見つけた肉食獣のような恐ろしい形相でこちらを睨んでいる……!

    「ふふっ…… いいわ。特別に教えてあげる。私もね、高1の時にご主人様の…… 堀田理事長の調教を受けたの。陽葵と同じってわけ。ご主人様に目を付けられて学園内に監禁されて調教されて、ここに売り飛ばされた。もう15年も前の話よ。それからの1年間は地獄だったわ…… 私の前歯、半分くらい入れ歯だしね」

    「…………」

    「でもね、ある日気づいちゃったのよ。とあるお客様に鞭を渡されて、他の奴隷を打つよう命令された。あの時の快感は今でも覚えてるわ。柔肌を鞭で打ちのめす感覚、赤く腫れ上がった肌、乾いた鞭音と奴隷の甲高い悲鳴……! その時に私、サドに目覚めたの」

    「…………」

    「それから色々あってご主人様に、堀田様に身請けされて個人奴隷となり、学園の教師となって理事長の影の補佐役になった。以来学園の生徒を何人もここに送り込んできたわ…… 初等部、中等部、高等部、大学…… 何人も何人も。陽葵、沙弥香さやか、梢、真弓まゆみ一夏いちか妙子たえこ、 ……ポチ」

    「ポチ!!?」

    「そ。確か中等部の入学式の日にご主人様が見初めたのよ。で、私が色々調べて、ご主人様があの子を監禁して調教してここに売り飛ばしたの。しばらくは大人しく奴隷やってたんだけど、ある時逃げ出しちゃってね……。まあ、ペロみたいにずっと反抗的な態度を取り続けて、ちんぽ噛みまくってたわけじゃないから、危険な薬物は打たれなかったけど。でもあの娘、イラマが苦手だったから歯はもう1本も残ってないし、乳首もクリも舌も伸ばされまくって、ケツの穴もぶっ壊れてて…… ふふっ、見た目はペロとあんまり変わらないわね」

    「…………」(何が可笑しいのよ……! なんで笑えるの!? 同じ奴隷なのに!!)

    「…………」(ポチ…… あの子もアタシとおんなじだったんだ…… アタシも逃げたらあの子みたいになるんだ……)

    「さて…… 昔話はおしまい。そろそろ調教に入ろうかしら」

    「「…………」」

    「ふふっ、最初の命令よ。調教が終わるまで私のことは「先生」と呼びなさい」

    (……最低)

    「ほら、とっとと土下座なさい。そして靴を舐めて挨拶するのよ、木下さん、仁科さん」

    「くっ!」

    七海は腹立たしかった。この女に最初に指名された時も、同性に調教される屈辱に涙したが、あの時とは比較にならないほどの激しい怒りが七海を支配していた。顔が真っ赤に紅潮し、身体が細かく震え出す。好きだった先生に裏切られたことへの憤怒。ポチを含め何人もの生徒を長年陥れてきたことに対する義憤。サディスティンならともかく、同じ奴隷の女に跪かねばならい屈辱。様々な怒りの感情が七海の中で燃え盛り、今にも爆発してしまいそうだった。

    でもダメ。怒っちゃダメ! それじゃああの日と同じだ。主人である飯森に直接叛逆するのに比べれば、罪は軽いかもしれないけど、お客様に逆らったらご主人様の顔に泥を塗ることになっちゃう。そしたらこの女だけでなくご主人様にもお仕置きされる。この最低な女のせいでご主人様にお仕置きされるなんて、そんなの絶対…… 絶っ対イヤっ!! でも! でもっ!! なんでこんな最低なヤツに土下座しなきゃなんないの!? 靴を舐めて、調教してくれって、酷いことしてくださいって…… ふ…… ふ……

    「ざけんなぁっ!!!!」

    キレたのは七海ではなく、隣にいた陽葵だった。七海以上に顔を真っ赤にし、全身をワナワナと震わせながら、疲労も眠気も全て忘れて絶叫した。

    「あんた、奴隷なんでしょ!? アタシやママとおんなじ! 学校でもここでも、アタシが毎日どんな気持ちで過ごしてるか、わかるでしょっ!? なのになんでっ!? なんでっ!!? なんでアタシを…… ママを…… こんな……っ!!」

    涙が溢れ、それと同時にあらゆる負の感情が溢れ出る。過呼吸になって言葉がうまく出てこない。 ……奴隷にとってご主人様の命令は絶対。それはわかる。堀田理事長の命令に従って自分と母を陥れた。教師の立場を利用して。百歩譲って、ご主人様に逆らえないから嫌々やったっていうのなら、まだ許せる。でもなに!? コイツの顔! 笑ってる! 楽しんでやってる! 奴隷のくせに!! アタシとおんなじ奴隷のくせに……!!!

    「…………」

    七海もまた言葉が出てこなかった。佐渡に逆らったら陽葵は酷いお仕置きを受ける。堀田からも罰を受けるだろう。恋人がそんな目に遭うのを黙って見てるなんてできない。止めなきゃ! 今すぐ止めなきゃ!! ……でも。陽葵の怒りは七海の怒りだ。七海が言えなかったことを陽葵は代弁してくれている。なら、陽葵と一緒に佐渡に立ち向かうのが、人間として正しい在り方なんじゃないだろうか。陽葵を止めるっていうことは、私も佐渡の側に立つっていうことなんじゃあ……。愛する人を裏切って最低な女の味方をするの? そんな最低な人間なの!? 私っ!!!

    (…………そうか)

    七海はあの日を思い出していた。眠っている間に全ての歯を抜き取られて、飯森への怒りが爆発したあの日。陽葵はあの日の自分なんだ。そして、私はあの日のおねえちゃん……。きっとおねえちゃんも今の私と同じことを考えてたに違いない。ご主人様に逆らっちゃダメって。でも言えなくて。私に同調してくれて。一緒に闘ってくれて。結果、おねえちゃんは左目を失い、私はおねえちゃんに焼き鏝を捺してご主人様に絶対服従を誓った。

    このままじゃダメ。同じことになる。陽葵のためなら正直片目を失ったって構わないけれど、そんなことになったら陽葵が悲しむ。陽葵が傷つく。それだけは絶対ダメ。人間としての正しい在り方なんてここでは意味ない。だって私はもう人間じゃないんだから。奴隷なんだから。でも奴隷にだってできることはある。守る。陽葵を、愛する人を守るんだ! 今度こそ間違えるな、私っ!!

    「陽葵っ!!」

    「えっ!? なな……うぷっ!!?」

    七海はいきなり陽葵を抱き締めた。そして唇に唇を重ねて有無を言わさず言葉を奪う。

    「ううん! ぶぷっ! むぅん!!」

    陽葵はしばらくもがいていたが、七海の突然の行動に、怒りの感情が驚きで上書きされたのか、次第に大人しくなっていった。七海はさらに数十秒間口付けを続けた後、そっと陽葵から離れた。そして彼女の両手を握りしめ、目を見ながら話し始めた。

    「ダメ。怒っちゃダメ、陽葵」

    「七海……」

    不服そうな顔の陽葵。

    「ごめんね。こんなの裏切りだよね。先生と変わらないよね。私も一緒に怒りたい。できるなら今すぐこの女の首を絞めて、殺してやりたいよ……」

    「ふふっ……」(どうなるか、見ものね……)

    「でもね? そんなことしたら大変なことになる。陽葵も私も……」

    七海は叛逆事件の顛末をかいつまんで話した。 ……陽葵は絶句した。陽葵も光希の左目のことは気になっていたが、本人や七海には聞きづらかった。光希が逃亡した時に目にも重傷を負ったのだと思っていた。まさか七海と再会する少し前に、そんな恐ろしいことが起きていたなんて……!!

    「そんなことが……」

    「うん。だからね? 絶対逆らっちゃダメ」

    「…………」

    「土下座してお客様の足を舐めながら挨拶するなんて、いつもやってることでしょ?」

    「だって……」

    「相手が先生だろうと変わらないよ」

    「…………」

    「陽葵、昨日から寝てないんでしょ? このままだと今夜も壁の中に埋められちゃうよ…… そんなんヤでしょ?」

    「……うん」

    「大丈夫。私も一緒だから。一緒に佐渡先生にイジメられよ? ね?」

    「……………………わかった」

    「ありがと、陽葵 ……ちゅっ」

    七海は陽葵の頬に軽く口を付けた。そして小さく笑った。 ……その笑顔に、陽葵は思わず見とれてしまった。あの蠱惑的な表情でも、幸せの絶頂にある表情でもない。誠実で真摯で優しげで…… なんて素敵な笑顔なんだろう。

    陽葵は、学校での木下七海を根暗なコミュ障だと思っていた。実際には友人も数人いて、七海は根暗でもコミュ障でもなかったのだが、人見知りする性格だったのは事実であるし、不良グループに属していた隣席の陽葵とどう接していいのかわからず、言葉少なになっていたのを陽葵が勝手にコミュ障だと決め付けていたのである。

    それがどうだ。先程の教室でも、今も。七海は飯森や佐渡の不興を買うのを承知で、恐怖や憎悪の袋小路に迷い込んでいた陽葵を正しい方向に導いてくれた。相手の目を見て、誠実な言葉で、最高の笑顔で。これじゃ、先生の前で何も言えなくなっちゃったアタシの方がよっぽどコミュ障じゃん。

    そう。佐渡先生が何者だろうと、そんなこと関係ないんだ。アタシは奴隷で、お客様に奉仕するのが全て。大好きな恋人の七海と一緒にお客様に奉仕する。先生に奉仕する。それだけ。怒るようなことじゃなかったんだ。 ……ありがと、七海。なんか吹っ切れたよ。いつも助けてもらってばかりだね。いつかお返ししなきゃね。愛してるよ。

    「ありがと、七海。ちゅっ」

    陽葵もまた七海の頬に軽く口付けすると、七海に笑顔を見せた。そして、七海よりも先に自ら床に土下座し、佐渡の足元の床に額をこすり付けた。

    「先生、ごめんなさい。アタシ、気が動転しちゃって…… 奴隷のくせに先生に酷いこと言っちゃいました。すみませんでした。何でも言うこと聞くから許してください、先生」

    七海が先に謝るんじゃダメ。七海の真似してちゃダメ。七海は悪くないんだから。悪いのはアタシなんだから。謝らなきゃ。そして……

    「ぺろっ れろっ 先生…… アタシのこと…… しつけてください…… ちゅぷ 学校で悪いことばっかしてたアタシのこと、お仕置きしてください…… ぺろっ」

    「…………」(陽葵……)

    七海は複雑な心境だった。取り敢えず陽葵が怒りを鎮めて先生に謝ってくれた。あの日の自分たちのようなことにならずに済んで心底ホッとしていた。でも……。あの時、勝手に抜歯されて怒り狂っていた時、姉が今日の七海のようなことを言い出していたら、果たして自分は素直に受け入れていただろうか。

    わかっている。あの時と今回とでは状況が違う。陽葵が説得に応じたのは、あの叛逆事件の結末を知ったからだ。あの時は叛逆したらどうなるか、自分も姉もわかっていなかった。そんな状況で姉が説得してきたら……。多分受け入れていなかった。姉の説得を裏切り行為だと罵り、姉のことを軽蔑し憎悪したかもしれない。そうしたらどうなっていたのだろう。七海1人怒り狂ったまま、主人に片目を潰されていただろうか。それとも、最後にはやはり姉が味方になってくれて、姉の方が片目を失っていただろうか。わからない。今更考えたところで姉の左目はもう二度と元には戻らない。私がすべきことは過去の選択をくよくよ思い悩むことじゃない。陽葵や自分が片目を潰されることのないよう、過去の教訓を今に活かす。それだけ……

    姉が今後も健在ならば、それで全て良しなのかもしれない。だが、姉の命の灯(トモシビ)は消えかけている。片目どころか命そのものが失われようとしているのだ。そう思うと、切なくて堪らなかった。七海は、最愛の姉が自らの左目を犠牲にして最愛の恋人を守ってくれたような気がした。命そのものを犠牲にして妹の自分を守ってくれているような気がした。泣きたくて仕方がなかった。今すぐメス犬区画9号室へ行って、瀕死の姉を抱き締めて大泣きしたかった。でも今はそんなことをしてる場合じゃない。おねえちゃんの想いを無駄にしちゃダメ。奴隷としての務めを果たさなきゃ。

    七海は陽葵の隣に額ずくと、陽葵と一緒に佐渡の足を舐めながら言うのだった。

    「先生。佐渡先生。れろっ 私…… 私たち、先生のおかげで奴隷になれました。でもまだまだ未熟です。国語よりもっと大切なこと…… たくさん教えてください。私たちの身体に刻み込んでください。先生……!」

     

    ……佐渡は感服していた。まただ。先程の教室に続いて、七海はいともたやすく陽葵を憎悪の沼から引っ張り上げてしまった。なんて子だろう。昨年の1学期は全然こんな感じじゃなかったのに。

    そして思った。15年前。サドに目覚める前。奴隷として地獄の調教を受けていたあの頃。あの頃の自分にも七海のような強く優しい親友が…… 恋人が一緒にいてくれていたら、その後の人生は変わっていたんだろうか……?

    高1の1学期のある日、佐渡はクラスのとある女子に恋愛感情を持っている自分に気づいた。ショックだった。自分がレズビアンだったなんて。同性の女の子を好きになるなんて! 中学では全然そんなことなかったのに! その気持ちは日に日に高まり、佐渡はいつしかその女子に告白したいと思うようになった。恋仲になりたかった。 ……でもできなかった。勇気が持てなかった。拒絶されたら、気持ち悪がられたらどうしよう。噂好きな子だし、クラス中に私がレズだって触れ回ったらどうしよう。悶々としたまま1学期が終わり、2学期も半ばに差し掛かったある日、目が覚めたら佐渡は堀田の調教室にいた。

    それから地獄の1年を過ごし、男と肌を合わせ、男に奉仕することにもすっかり慣れたが、他の奴隷を痛め付けるよう命令された時に全てが変わった。サドに目覚めた。というより、サドになれば奴隷の女の子たちとレズプレイできることに気づいたのだ。JSPFでもトップレベルに残忍なサディスティンの誕生であった。

    だが、自分と似た境遇の陽葵が、同じく奴隷の七海に愛の告白をし、相思相愛の強い絆で結ばれたのを先刻目の当たりにして、佐渡は複雑な思いだった。自分もあの子に告白していたら、どうなっていただろう。キスからセックスに発展して、ディルドーで処女膜を破ってしまうような関係にまでなっていたら、処女でなくなった自分に堀田は目を付けていただろうか。或いはJSPFに連れて来られて以降に、七海のような素敵な恋人ができていたら、レズセックスし放題の毎日を送っていたら、果たして自分はサディスティンになっていただろうか。

    今となってはわからない。佐渡は今の生活に満足している。奴隷の女の子をいたぶるためなら喜んで男にも奉仕するし、堀田の指示にも従う。問題は、ないはずだ。なのに、どこかモヤモヤしてしまうのは何故だろう。喉の奥に魚の小骨が刺さったような違和感が、午後からずっと続いているのは何故?

    ……そんなのわかりきってる。これは嫉妬だ。自分と同じ境遇にありながら、七海という最高のパートナーを得ることができた陽葵に嫉妬しているのだ。

    自分も何度絶望の渦に飲まれただろう。だが自分には相談できる奴隷仲間がおらず、暗闇から笑顔で救い出してくれる親友も恋人もいなかった。ただひたすらに孤独と暴虐に耐え続けた。毎日毎日心が壊れる寸前まで追い込まれ、それでもなんとか耐えて耐えて、歯も10本近く失って、1年後にはようやく一人前の奴隷になることができた。それまでのあの地獄の日々……!!

    なのに陽葵は、この小娘は、ここに来てまだ3ヶ月にも満たないというのに、1本も歯を失っていないのに、最愛の恋人ができて、母親もいて、姉みたいに慕うペロや玲香がいて…… 同じ境遇なのに、なんでこんなに違うわけ? なんでこんな幸せそうな顔ができるわけ? 自分はあんなに大変だったのに。1人で悩み抜いて耐え抜いて苦しみ抜いてきたのに。なんで? なんでっ!? 羨ましい! 妬ましい! むかつくっ!! ……教師にあるまじき黒い感情が体内にどんどん蓄積されていく。

     

    七海は佐渡の靴を舐めながら、室内の空気が変わったのを肌で感じていた。さっきまで饒舌に語っていたのに、急に黙ってしまった佐渡。足が細かく震えている。 ……どうしたんだろう? そう思って七海は佐渡の顔を見上げ、そして思わず身震いした。恐ろしい形相で陽葵を凝視していた。先程のような肉食獣のそれではない。黒い感情に支配された悪鬼のようだ。な、なんでこんな顔してるの? 陽葵、何か怒らすようなこと言った……?

    佐渡は、七海が怯えた表情でこちらを窺っているのに気づき、我に返った。取り敢えず黒い感情を胸の中にしまい込む。が、一度その存在に気づいてしまった以上、もはや忘れることはできない。佐渡は2人から顔を逸らすように顔を上げ、そして時計を見た。もう30分が経過していた。あと20分。たった20分でこの黒い感情を陽葵にぶつけ切るなど到底不可能だ。それにここには七海がいる。できれば七海はいない方がいい。どれだけ陽葵を追い詰めても、七海ならやすやすと彼女を救ってしまうだろうから。今日は適当に切り上げて、後日改めて陽葵を単独指名しよう。そして…………

    佐渡はペニスバンドを装着し、机の上に七海を寝かせて彼女の膣を正常位で犯した。と同時に、陽葵に足の下で仰向けになって待機するよう命じ、この時間のために3日間溜め込んできた糞便を思いっきりぶち撒けた。奴隷調教時代に拡張された彼女の肛門からは極太の一本糞がひり出され、陽葵の顔の上にトグロを巻いていく。陽葵は嫌々ながらも糞便を少しずつ噛み砕き、嘔吐することなく胃袋へと送っていった。が、あまりにも量が多いため20分で食べきることはできなかった。

    「うぶぇっ!!?」

    佐渡は七海をイかせ、自分も絶頂した上で机に座り、ハイヒールで糞まみれの陽葵の顔をグイグイと踏んでいく。さらに、糞便がたっぷり付いたヒール(踵)を陽葵の鼻の穴に突っ込んでグリグリと掻き回していった。

    「いっ! いたっ! くしゃいっ! 痛っ!!」

    「これっぽっちのウンコ食べるのに20分以上もかかるなんてありえないでしょ。お仕置きよお仕置き」

    「ご、ごべんなざい…… 先生…… ぐぷっ ごくんっ」

    「50分経っちゃったけど、全部食べ切るまで延長よ。そうね…… あと3分で食べ切れなかったら壁尻部屋でもう一晩過ごしてもらおうかしら」

    「しょ……しょんな…… あむっ んぐっ」

    「陽葵っ……!」

    「木下さんは手伝っちゃダメよ? これくらいの量でもたつくなんて奴隷失格。あなただって奴隷生活長いんだから、それくらいわかるでしょう?」

    「……はい」

    「靴が汚れちゃったわ。木下さん、頼める?」

    「はい、先生」

    「良い返事よ、木下さん」

    「ぴちゅ れろっ にゅぷ ずちゅ」

    佐渡は、陽葵の顔の上10cmくらいのところで、七海にハイヒールの汚れを掃除させた。七海は陽葵のすぐ横に這いつくばって、手を使わずに舌だけでハイヒールに付いた糞便を舐め取っていく。七海は1分もかからないうちに掃除を終え、陽葵は残り16秒のところで佐渡の糞便を食べ切った。

    「先生、ごちそうさまでした。げぅっ! 口便器、使ってくれてありがとうございました…… うっぷ!」

    「ふん。じゃあ、またね。仁科さん」

    そう言うと佐渡は帰っていった。

    「陽葵っ! 大丈夫っ!?」

    「うん、大丈夫。ちょっと食べるのに時間かかっちゃっただけ…… げぷっ!」

    「そっか……」

    「これくらいで済んでよかったよね……」

    「……だね」

    「んあ〜! もうダメ! 鼻ん中ウンチまみれ〜! くっさ〜!! シャワーシャワーっ!!!」

    七海は、先生の態度がどこか腑に落ちなかった。あの鬼の形相はいったい何だったんだろう。その後の責めも、いつもに比べれば大したことなかったし、先生は七海を犯している間も心ここに在らずといった感じだった。そして去り際、「またね、仁科さん」と言った。なんで私の名前は呼ばれなかったんだろ? 陽葵だけ、また指名するってことだよね? ……大丈夫かな。あんな怖い顔してたけど…………

    七海はもっと考えようとしたが、限界だった。ヨロヨロとシャワー室に向かい、陽葵と一緒に汚れをザッと落とす。陽葵は、鼻の穴を洗い湯をがぶ飲みし、糞便臭が消えたところで力尽きた。2人とも髪も乾かさずにベッドに直行する。陽葵のベッドは世話係用の部屋にあるのだが、陽葵はなんとなく七海に従いていき、七海のベッドに2人同時に倒れ込んだ。恋人同士のピロートークなどする間もなく、倒れ込んだ瞬間に意識を手放した。

     

    …………崩壊が始まろうとしていた。

     

  • ハードSM小説『奴隷姉妹』 第8章 – 運命

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    I:773号室

     

    5日後、七海は目を覚ました。寝ぼけまなこで周囲を見渡す。知らない天井、知らない壁、知らないベッド。89号室とも療養室とも異なる知らない部屋。ここ、どこ……?

    取り敢えず起き上がってみようと腹筋に力を入れた時、違和感に気づいた。お腹の方を見て思い出した。そうだ、私、出産したんだ。赤ちゃんを産んで、その後も酷いことされて…… えっと…………

    「美海っ!!!!」

    七海はガバッと飛び起きると、布団を無造作に撥ね退け、ベッドから降りて歩き出した。 ……身体が軽い。お腹に赤ちゃんがいないとこんなにも身体が軽いのか。七海は部屋の中を歩き回り、美海がいないとわかるとドアを開けて外に出た。鍵はかかっていなかった。勝手に部屋の外に出たら脱走したと見做されるかもしれないと一瞬考えたが、美海が心配で、いても立ってもいられなかった。

    ドアの外も部屋であった。ソファーや大きなモニターなどが置かれていて、どうやらリビングのようだ。リビングには沢山のドアあり、七海は片っ端から開けていく。調教部屋が複数、キッチン、ダイニング、風呂、トイレ、空の部屋、物置、拷問室……。色々な部屋がある。が、誰もいない。美海もいない。ここはいったいどこだろう。JSPFの施設内だとは思うが、未だかつてこんな所に来たこともない。男性客用の部屋だろうか。それにしても広すぎるが…… スイートルームというヤツだろうか? VIP客がここに泊まって、調教部屋や拷問室で奴隷たちをいたぶるんだろうか? それにしては内装が簡素で殺風景な感じだが…… でもなんで私がスイートルームなんかにいるんだろ??

    疑問に思いながら尚も美海を探していると、玄関らしいドアを見つけた。鍵がかかっている。見慣れた虹彩認証の端末があったので顔をかざしてみるが反応はない。このドアの向こうが、七海がこれまで生活してきたエリアだろうか。なんでこんな所にいるんだろう。美海はどこにいるんだろう…… ご主人様は私が育てていいって言ってくれたけど…… まさか養育施設に送られちゃったなんてこと、ないよね!? 会いたい。会いたい。美海に会いたいっ!

     

    ……新生児室にいた飯森のスマホが鳴った。七海の体内には各種センサーを搭載したマイクロチップが埋め込まれており、七海が起きたら鳴るように予めセットしておいたのだ。

    公開出産ショーの後、奴隷は数日間の休養に入る。出産は母体にとってかなりの負担がかかる。しかも産前産後に長時間の輪姦まで行うのだ。処置を行わずに放置すれば高確率で死亡してしまうほど、奴隷は生死の境ギリギリまで身体を消耗させられる。そこで産後数日間は睡眠薬と点滴が投与されて療養室で静養する決まりになっているのである。

    JSPFの奴隷の場合、産まれた子供は母親が寝ている間に養育施設へと送られ、母子が会うことは二度とないわけだが、七海は違う。育児は七海自身が行うことになっている。かと言って七海がこれまで寝起きしてきた89号室には育児を行うスペースはないし、周辺に育児スペースを設けたとしても、子育てを諦めた他の出産済み奴隷たちの前で七海に子育てを行わせれば、七海にとっても奴隷たちにとっても良くない結果となるのは明白だ。

    そこで飯森はJSPF幹部の堀田に頼んで七海専用の部屋を作ることにした。通称は「七海」をもじった「773号室」。奴隷居住区から遠い場所にある、使っていない大部屋をパーティションで細かく区切って、調教部屋や育児室、水回り設備等を設け、七海をそこに軟禁するのだ。大人気の七海の部屋ということで、多くの客から潤沢な寄付が集まり、趣向を凝らした調教部屋が幾つも作られた。そして産後の処置を終えた七海は寝室兼育児室で眠りに就き、先程目覚めたというわけである。

    ……玲香は飯森から連絡を受けて新生児室へと向かった。玲香はペロやポチの世話を含め雑用係を昨日で終了し、今日からは七海専属の世話係となる。773号室の一角で寝起きし、美海の育児サポートと各調教部屋の清掃をこなしながら、合間合間に客の相手もせねばならない。妹のような七海と四六時中一緒にいられるのは嬉しいが、七海の主人はあの飯森であるし、七海を気に入っている客の中には堀田を始め酷虐な客が幾人もいる。ペロやポチのことも気になる。これからの生活がどのようなものになるのか見当も付かず、玲香は不安を抱えたまま新生児室へと急いだ。

    新生児室で飯森から再度説明を受けると、玲香は美海を抱っこして、飯森とともに七海の部屋へと向かった。道中、玲香は自分の胸が張ってくるのを感じていた。息子を産んで1年半。息子は玲香が寝ている間にいなくなってしまったが、母乳はまだまだ出る時期なのだ。1年前に第2子を妊娠し、数カ月後に流産してからは母乳の出が悪くなり、最近では殆ど出ていなかったが、赤ちゃんを抱いたことで眠っていた母性本能が目覚めたらしい。

    「…………」

    玲香は切なかった。息子に、名前も知らないたった1人の自分の息子に、このお乳をあげたかった。七海のように自分で我が子を育てたかった。 ……1歳半になった息子は今頃どうしているだろう。今後どうなるのだろう。お乳がまた出るようになったところで、息子には飲ませてあげられない。会うことすらできない。これを飲んでいいのは男たちだけ。薄汚い口に黄ばんだ歯の男たちが乱暴にしゃぶりついてチューチュー吸っていくだけ。悲しい…… 会いたい…… 息子に会いたい…… お乳、飲ませてあげたいよ…… せめて美海ちゃんに…… 美海ちゃんにお乳、あげたい……

    玲香は飯森に気づかれないよう静かに涙を流しながら、ゆっくりと飯森の後に従いていった。

     

    ……七海は未だ玄関前にいた。あれからもう一度各部屋を隅々まで探し回り、悪趣味な調教部屋の数々に辟易した後、最初に寝ていた部屋に戻ったものの横になる気になれず、再び玄関前まで来て虹彩認証の端末をいじっているうちにドアが開いた。

    「おはよう、七海」

    唐突に開いたドアの向こうには、珍しく服を着た飯森が立っていた。

    「あ、ご主人様…… おはようござい……!!」

    七海は挨拶をしようとして、飯森の後ろに玲香が全裸で立っているのに気づいた。玲香に抱っこされているのは……

    「美海っ!!!!」

    もう美海しか見えなかった。七海は玲香の前に飛び出し、玲香から美海をそっと受け取った。

    「ああ、美海っ! 美海っ!!」

    七海は涙を流しながら美海を抱き締めると、優しく頬ずりした。体温が優しく温かい。ああ、やっと会えた。なんて可愛いんだろう。私の子。私の子……!

    「ぅぅぅぅぅぅふあぁああああぁああああああああああああん!!!!」

    「え、ええっと…… えっと……っ!」

    気持ちよく眠っていたのを急に起こされたからか、美海は大きな声で泣き始めた。動揺する七海。

    「ほら、中に入るぞ。うるさくてかなわん」

    飯森がそう言うと、七海は自分が廊下にいたことに気づき、慌てて部屋の中に戻った。玲香も中に入り、飯森がドアを閉める。玲香は物置からベビーベッドを持ってくると、育児室の一角に置いた。

    「そこに美海を置け」

    「…………」

    七海は渋々ベビーベッドに美海を寝かせた。しばらくすると美海は泣き止み、すぐに眠ってしまった。

    「やれやれ…… それでは七海。今後について話すからよく聞いておけ。玲香もな」

     

    II:運命

     

    「今日はお前に大事な話がある」

    ……それは773号室での生活が始まって8日目の朝のことだった。

     

    育児と調教の両立は、七海が思ったよりも遥かに大変だったが、玲香の献身的なサポートもあって、七海はどうにか日々の調教をこなしていた。臨月中は控えられていた過酷な調教が復活したため、七海の身体は再び鞭痕で覆い尽くされ、スカトロ調教なども以前よりさらに過激になっていった。

    それでも、美海を抱き上げ、あやしているうちに疲れは吹き飛んでしまう。牛の乳搾りのように自分の手で肥大化乳首を握って母乳を搾り出し、飛び散った母乳をかき集めて哺乳瓶に移し替える作業は今でも悲しくて堪らないし、飯森や男たちが横でニヤニヤ見ていると腹が立ったが、美海が美味しそうに母乳を飲んでいる姿を見ると、言いようのない喜びと幸せを感じるのだった。

    午前中は以前と同じく飯森の調教を受けたが、メス犬区画へ行くこともなく、七海は出産後ペロと未だ一度も会えていなかった。七海はそれが気がかりだったが、調教と育児で休む時のない七海に、ペロのことを考える余裕は全くなかった。

     

    今朝も玄関の前で土下座して飯森を迎え、寝室兼育児室にて、玲香が美海をあやしながら七海が朝イチの歯茎奉仕を終えたところだった。玄関でブザーが鳴り、女医が入ってきた。七海は、意外な人物の来訪にキョトンとし、美海か自分の定期検診かと思った。それ故に、飯森が次に言った言葉を、七海は当初理解できなかった。

    「ペロの身体は2ヶ月後に限界を迎える」

    「……………………??」

    「…………!!」

    玲香はすぐに理解した。昨秋、ペロとポチの世話を命じられた時に、ペロは胸や股間に危険な薬物を過剰に投与されており、寿命はそれほど長くないと聞いていたからだ。が、80歳の寿命が40歳くらいに縮まったんだと思っていた。その日1日を生き抜くことに必死で、数十年先のことなんてとてもじゃないが考える余裕などなかった。まさか…… まさかこんなに短かったなんて……!!

    玲香は、美海がベビーベッドの中で眠っているのを確認してから、七海の方を振り返った。せっかく新しい生活にも慣れ始めていたのに。初めての育児はわからないことの連続だったし、各調教部屋の掃除も大変だった。男たちに奉仕する時間は雑用係をしていた頃よりも格段に増えた。

    それでも七海との会話が増えたことは嬉しかったし、七海と一緒に試行錯誤しながら子育てをするのは充実した時間だった。七海は、自身が調教を受けている間は、玲香が美海に直接授乳してほしいと言ってくれた。直接授乳できない乳首に改造されてさぞ悲しいだろうに、息子と生き別れた玲香のことを七海は気にかけてくれるのだ。最初に美海にお乳をあげた時、あまりに嬉しくて悲しくて玲香は七海の前で大泣きしてしまった。そんな時も、七海は少し困った顔で優しく微笑んでくれた。私も頑張ろうと思った。七海の笑顔と美海を守るために。頑張っていたのだ。なのに…… なのに!

    ペロが…… 光希が限界を迎える。つまり死ぬ。半年以上ずっと世話してきた光希が。七海が誰よりも愛するたった1人の姉が! 玲香は知っている。七海が如何に深く光希を愛しているか。依存しているか。心の支えにしているか。その支えを失ってしまったら…… 七海はどうなってしまうんだろう。ダメ…… 怖くて考えられない! でも…… でもっ! 私が…… 私が七海を支えなきゃ……!!

    「ペロは脱走未遂と度重なる反抗・奉仕拒否の罪で手足と歯を失ったわけだが、その際に規則で乳首とクリトリスに違法薬物を大量に投与されてな…… お前に使ったような安全な薬ではなく劇薬だ。さらに薬物の投与は続き、クリは今や長さ30cmを超えている。知ってるだろ? ……もう限界なんだ」

    「…………」

    「市川…… 検査結果が昨日出たんだろ?」

    「はい。ペロは妊娠機能を既に喪失しています。それとここ1週間ほど下痢が続いていて、体重が落ち始めています。つまり生殖系や消化器系の臓器に多数障害が出始めています。 ……余命2ヶ月です」

    「……ということだ」

    「…………」

    七海は飯森と女医の話を黙って聞いていた。みるみる血の気が引いていく。目が限界まで見開かれ、歯茎が震え、脈拍が跳ね上がる。

    おねえちゃんが限界ってどういうこと? 余命2ヶ月ってどういうことっ!? 冗談でしょっ!!? ……でも、わかる。いつになく真剣なご主人様の目。淡々と検査結果を話すお医者さん。強張った表情の玲香さん。冗談なんかじゃない。本当なんだ。おねえちゃん、し、死んじゃうんだ……っ!!!!

    「ぁぁあぁああぁぁあああぁあぁああぁぁぁ…………」

    七海が小さな声でうめき始めた。そして次の瞬間……

    「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!! いやだあっ!! そんなんいやだああっ!! おねえちゃんっ!!! おねえちゃ

    んっ!!!! うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!」

    七海は絶叫した。「おねえちゃん」と呼ぶのを禁止されていることなど頭から完全に抜け去っていた。

    「ほぎゃああああああああああああっ!!!!」

    突然の大声に飛び起きた美海が、これまた大声で泣き出した。狭い室内に母娘の泣き声がこだまする。

    その時、玲香が動いた。鼓膜が破れそうなほどの大絶叫に怯むことなく七海の元に駆け寄り、肩を掴んだ。

    「七海っ! 七海っ!! しっかりっ!!!」

    「あああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!」

    「しっかりしなさいっ!!」

    パシンッ!!

    玲香が七海の頬を強くビンタする。

    「れいかさん……! おねえちゃんが! おねえちゃんがっ!! うあぁああぁあああ…………」

    一旦泣き止んだと思った七海が再び泣き始めそうになったので、玲香は七海を強く抱き締めた。 ……玲香の目にも涙が溢れていた。

    「しっかりして、七海。 ねっ? 落ち着いて……」

    「玲香さん…… ひくっ」

    「飯森様…… さっきの話は本当……なんですね?」

    「ああ」

    「おねえちゃ……」

    「あの…… 飯森様にお願いがあります」

    「なんだ?」

    「光希を…… ペロを…… ここに連れてきていただけませんか? あと、できれば陽葵ちゃんと今日子さんも……」

    「わかった」

    飯森はスマホを取り出すと裏沢に連絡を取った。 ……七海の反応も想定内なら、玲香の反応も期待通りだ。今日の午前中は仁科母娘の調教は、堀田と事前に打ち合わせをして中止にしてある。玲香が言い出さなければ飯森が彼女らを呼ぶ予定だったが、ここは玲香に任せた方がいいだろう。

    玲香は、一旦七海の側を離れると、泣き喚く美海をあやして寝付かせ、再び七海のもとに戻って強く抱き締めた。

    「あんまり泣いてばっかだと美海ちゃんが心配するよ? ね?」

    「あぅぅぅ…… ひっく…… 美海ぅ……」

    「しっかりしなきゃ。ね? お母さん」

    「ぐすっ……」

     

    数分後に陽葵と今日子が、その直後に裏沢が七海の部屋に現れた。キャリーケースの中から糞便臭とともにペロが姿を表す。ケースの中はこれまで以上に下痢便でまみれ、ペロは七海の出産の日に比べ明らかに痩せていた。その姿を見て、玲香も陽葵も今日子も、七海も、皆事態の深刻さを理解したようだった。

    ……ペロと仁科母娘が真実を知ったのも今朝だった。

    ペロは1週間ほど前に急に下痢になった。最初は風邪かと思ったが、下痢は止まらず、それどころかどんどん悪化し、体重は日に日に落ちていった。ポチと絡んでも以前のように体力が続かない。七海とは出産の日の朝以来会えていなかったが、体調が悪化するにつれて、早く会いたいのに、こんな弱った身体を見せて心配させたくないという、相反する気持ちを抱くようになっていた。

    そして先程、裏沢に自分の寿命が長くないことを聞いた。そういうことか、とペロはすんなりと運命を受け入れた。そしてそんな自分に少し驚いた。思えば、何度死にたいと思ったことか。ここに拉致されて処女を失った時、逃亡に失敗して手足と歯を失い両親と妹が死んだことを知らされた時、伯父の奴隷になった妹と再会した日の夜、叛逆に失敗したあの日…… その他数え上げたらきりがない。今後5年、10年、30年、50年、この暗く悪臭の籠もった地下室で惨めに生きていく地獄を思えば、余命2ヶ月の宣告は、何にも勝る最高のご褒美じゃないか。やっと…… やっと終わるんだ。今度こそこの地獄から逃げ出せる。やっと死ねるんだ、私……

    そう思いながらも嬉しいなどとは微塵も思えなかった。最愛の妹を地獄に置き去りにして、自分だけ抜け出すことへの罪悪感。未だ顔も知らぬ七海の娘・美海。可愛い姪の成長を見届けられないことへの未練。そして、もうすぐ自分が死ぬことを知ったら、七海はどうなってしまうのかという圧倒的な不安。それらが死への甘い誘惑に浮足立つペロを地獄の現世に固く縛り付けていた。 ……七海は恐らく相当ショックを受けるだろう。どんなにバケモノのような姿になっても、七海は姉を心の底から愛してくれていた。その最愛の存在がいなくなったら、七海は……

    ペロは裏沢が去った後、部屋の隅に転がりながら自分より妹のことを心配し続けた。新たな雑用係に綺麗にしてもらった肛門からは、下痢便が、栄養素が、体重がどんどん流れ出ていった。辺りには凄まじい悪臭が立ち込めたが、ペロは妹のことを心配するあまり臭いには全く気づかなかった。 ……嗅覚も衰え始めていた。

    しばらくして、裏沢がキャリーケースを持って再び現れた。七海の所へ連れて行ってもらえる。ペロは確信した。七海に会ったら何と言おう。何と言えばいいだろう。ペロはキャリーケースの中で下痢便にまみれながらずっと考えていた。

     

    陽葵は、出産以降七海が別の場所に移ってしまったのが残念でならなかった。午前中に七海やペロとの合同調教が行われることもなかった。そして今朝になって堀田からペロの話を聞かされたのだ。陽葵は激しいショックを受けた。

    ペロが調教の初期段階で逃げ出した結果メス犬になったということは、本人から聞いていた。陽葵もここから逃げたいと何度も思ったが、逃げたらどうなるかを知った時の恐怖と絶望は今でも忘れられない。だが、あんな姿になってもペロの心は普通の人と変わらなかったし、ペロはあの姿のままずっとここにいて、普通の人と同じように年を取っていくのだろうと思っていた。まさか寿命が1年もないだなんて……!

    七海と友達になる前、何度ここから逃げたいと思っただろう。一緒に逃げようと母の説得を試みたことも一度や二度ではない。それでも踏みとどまったのは、逃げたら大変なことになると堀田に脅されていたからだ。でもまさかその「大変なこと」っていうのが、手足を失うだけでなく、薬漬けにされた挙げ句に早死にしてしまうことだったなんて! ありえない! ありえないよそんなの!! やっぱ怖い…… ここ怖い…… 怖いよ…… 逃げたい…… 逃げたいのに…… 逃げたいのに……っ!!

    七海…… 七海、大丈夫かな…… お姉さんとすごく親しそうだったけど…… 会いたいよ、七海…… もし会えたら、なんて声をかければいいんだろ…… どうやって励ませばいいんだろ…… 学校ではヒドいことばっか言って傷つけちゃったけど…… ううん! だからこそ今度はちゃんと励まさなきゃ! 七海は大切な友達なんだから!!

     

    III:愛と友情

     

    そうして5人は一同に会した。七海の出産の日の朝以来だった。

    「おねえちゃんっ!!」

    七海が駆け寄り、四つん這いの体勢で下痢便まみれの光希をギュッと抱き締めた。

    光「七海……」

    七「おねえちゃん! おねえちゃん! おねえちゃんっ!!」

    光「七海ごめんね? 私、もう限界みたい……」

    七「謝らないで! おねえちゃんっ!!」

    光「でも……」

    七「おねえちゃんは悪くないっ! 悪くないよっ!!」

    光「ううん、私のせいだよ。私が逃げたからこうなったの。反抗的だったからこうなったの」

    七「そんなんちっともおねえちゃんのせいじゃ……」

    光「私が逃げずにちゃんと奴隷になってれば、今頃私も美海ちゃんのお世話、できたのにね」

    七「うぅうううう……!」

    光「泣いちゃダメだよ。七海はお母さんになったんだから。私よりも美海ちゃんのことを一番に考えなきゃ。ね?」

    七「でもぉ…… ひっく」

    光「大丈夫。七海にならできるよ」

    七「おねえちゃぁん……」

    光「玲香さん。子育てを手伝ってもらってるみたいで…… ありがとうございます」

    玲「うん…… あとは、任せて? ……ぐすっ」

    光「ありがとう…… 私の身体の世話も、長いことありがとうございました」

    玲「うんっ!」

    陽「あっ、あのっ! ペ…… お姉さんっ! アタシにも任せてくださいっ! ずっとずっと、七海と友達でいますから!」

    光「陽葵ちゃん、ありがと」

    陽「七海! 大丈夫だからね! アタシ絶対死なないし! 逃げないし! ずっとずっと一緒だから! 友達だから! ねっ!!」

    七「陽葵…… ひく…… 陽葵ぃ……」

    今「私、ご主人様に七海さんともっと一緒に調教を受けられるようお願いしてみます」

    光「今日子さんも…… ありがとうございます」

    今「大丈夫。七海さんは決して1人じゃありません。もう1人の頼れるお姉さんと、ずっと一緒にいてくれる親友と、何より、可愛い可愛い美海ちゃんがいるんだから。だから、ね? 泣いてばかりじゃだめよ、七海さん。お姉さんとの時間は残り少ないんだから。泣いてばかりいたら勿体ないわ?」

    陽「そうだよ、七海! ママの言うとおりだよ!」

    玲「うんうん!」

    七「うん…… うんっ…… みんなありがと…… ぐすっ…… ありがと…… ひっく」

    光「私からも、ありがとうございます。みんな七海を愛してくれて、本当にありがとう…… ぐすっ」

    七「ひくっ…… あの…… ご主人様……」

    飯「なんだ?」

    七「あの、2つお願いがあるんですけど……」

    飯「言ってみろ」

    七「今日から、また「おねえちゃん」って呼ばせてください。 ……その時まで。あとでお仕置きは受けますから。お願いします」

    飯「……いいだろう。あと1つは?」

    七「今日の午前中は、みんなこのままここにいさせてください。できればその…… ご主人様、抜きで」

    飯「…………」

    七「絶対逃げたりしません! 自殺したりしません! 誓います! お願いしますっ!!」

    飯「わかった。ただしモニターは続けるからな? 余計なことをしたらすぐにバレるぞ」

    七「わかりました。絶対余計なことはしません」

    飯「よし。じゃあな」

    七「ありがとうございます」

    ……こうして育児室は5人と美海だけとなった。

    結局5人は午後と夜の調教も休むことが許され、その日1日ずっと773号室にいた。すぐに光希の下痢便臭で美海がグズりだしたため、全員寝室兼育児室から風呂場(6畳程度)に移った。そこで光希は初めて姪の顔を知り、あまりの可愛さにたまらず号泣した。つられて七海が泣き出し陽葵が泣き出し、玲香も今日子も美海までもが泣き出した。光希を囲むように皆が抱き合ってただただ泣き合った。やがて泣き疲れると、少しずつ5人は会話をし始め、陽葵や玲香が茶化したりするうちに次第に明るい雰囲気になっていった。5人は1日じゅう風呂場で語り合った。

    そう。死を免れえないのなら、せめてそれまでを陽気に過ごそうじゃないか。そしてその日になったらもう一度皆で泣いて、そして陽気に見送ろう。 ……そうしよう。

    ……モニターを眺めながら飯森は安堵していた。どうやら上手くいきそうだ。あの場に美海しかいなかったら、七海は恐らく壊れてしまっていただろう。飯森は玲香・陽葵・今日子の3人に感謝しつつ、彼女らを使ったさらなる調教計画を練るべく、スマホで堀田に電話を掛けた。