『くノ一物語』淫虐修行の巻 五、究極の羞恥責め

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 その日真由は、また拷問部屋に連れていかれ、海老責めに掛けられた。
 筵の上で後ろ手に縛られて、あぐらを組んだ足首を、括り合わされた。
 足首の縄は、肩を越えて背中の縄に通され、再び前に戻って足首に止められる。
 そしてその縄をぐいぐい絞れば、真由の体は二つ折りになる。
 アゴが足首につきそうなくらい曲げられたが、体の柔らかい真由にとっては、それ程の苦痛ではない。
「この責めは、足の裏同志を合わせるという方法もあるが、まあ同じようなものじゃ」
 真由の体がいかに柔らかいといっても、不自然に屈折させられた姿勢はやはり苦しい。だいいち、腹部が圧迫されて、息苦しい。
 真由は顔を上げてあえいでいる。
 頭は下げた方が楽なのだが、それには、自分の股間がいやでも眼に入る。
 パックリと展げられた股ぐらを、覗き込むのを避けているのであろう。
 責めを受ける女の辛さは、その「責め」そのものだけではないのである。
 そのことは、少し哀しげな真由の表情が物語っている。
 その真由の額に、幻舟斎の指が押し当てられた。そして次第に力が加わる。
 真由を仰向けに、ひっくり返そうというのか。
 真由も察知したのか、全身に力が入り、ふんばろうとしている。
 このままひっくり返った自分の姿を想像すると、真由は気が狂いそうだった。
 今、真由は尻の一点だけで、体を支えている。あと一押しで、コロリと仰向けになる。
「あっ、あっ、そんなこと、お許し下さい!」
 つい哀願の声が出る。幻舟斎の指は緩められ、ホッとする真由。
「よいか真由、女子は辱めも与えられることを、忘れるでないぞ」
 そのまま真由は放置された。
 時の経過と共に、圧迫された腹部は、息をするのも苦しくなる。
 全身の力が抜けていくような、虚脱感が襲ってきた。(これが昨日までなら・・・)
 まちがいなく真由は、惨めな姿を晒すことになっていたであろう。
 紅潮していた体から、紅みが消えようとしてきた時、真由は解放された。
 牢に戻された真由は、節々の痛みと、全身から生気を吸い取られてしまったような虚脱感に、ぐったりと横たわっているのがやっとだった。
 また一日置いて、真由は拷問部屋に引き出された。
 高手小手に縛られ、背中の縄尻で天井に吊るされたのは、前回の吊り責めと同じであった。
 ただ前回と違うのは、つま先が幻舟斎の頭の位置になるくらい、天井高く吊るされたことである。
 真由の目には見えないが、後ろの壁際で、何か準備をしている音が聞こえる。
 真由の目に入った物は、架台のような型をした物であった。
 片側を台車に乗せ、もう一方を幻舟斎が持ち上げて浮かし、運んできたのである。
 その架台は台車を外し、真由の足下へ一直線に据えられた。真由が眼を凝らすと、架台の頂点は楔(くさび)のように尖っている。(・・?、ま、まさか・・・)
 真由はそんな想像はしたくなかった。しかし、それが現実であることを、幻舟斎に告げられた。
「真由、今度の責めは女にとって、辛い思いをすることになるからな」
 真由は逃れる術もなく、顔をそむけている。
 幻舟斎が吊り縄を緩めれば、真由の体は降りてくる。真由は両脚をピタリと閉じ合わせて、無意識のうちに、跨がることを拒絶している。
 これも乙女の本能の成せるわざであろうか。
「真由、脚を開きなさい。これも、くノ一の宿命じゃ」
 幻舟斎の言葉に、我に返った真由は諦めたのか、両脚の力を緩めた。
 力なく垂れ下がった両脚は、ほんの少し開いている。そのわずかな足首の隙間に、三角木馬の峰が割り込んできた。真由の体が下に降ろされているのである。(この時代には、まだ「三角木馬」という呼び名はありません)
 割られた両足首は、三角木の側壁をすべって降りていく。
 三角木の裾野をくるぶしが越え、ふくらはぎがすべり降りると、ヒザが当たる。
 そしてついに、三角木馬の尖った頂点が、真由の微妙な所に当たった。
「あっ、あっ、いや・・・」
 真由は、これ以上体を沈ませないようにと、自然に腿を締めつけていた。
 それでも、幻舟斎が吊り縄を緩めきると、全体重を一点で支えることになる。
 真由の体は一瞬硬直し、少しでも楽な姿勢を求めてもがく。上体を前に倒せば、恥骨に当たって痛い。後ろに反り返れば、今度は尾てい骨に響く。
 真由は前後、均等に当たる位置に姿勢をきめた。恥骨と尾てい骨の間、それは結局、真由の一番羞恥ずかしい割れ目全体で、体を支えることになった。
 真由は羞ずかしさをこらえ、眼を閉じて、腿を締めつけているしかない。
 顔が仰向けになっているのは、少し前傾した上体を支えるように、重心をとっているのだろうか。
 真由がふと眼を開くと、幻舟斎が真正面からジッと見つめていた。
 真由は、羞ずかしい努力を覚られたくないからか、つい腿の力を抜いてしまった。
「あっ、い、痛い!」
 とたんに白目を剥くような激痛が、割れ目に走り、脳天を突き抜けていった。
 もう、羞ずかしいなどと言ってはおられない。腿の力が緩んだのは一瞬で、すぐにまた、けいれんする程の力で、腿を締つける。
「よく締めつけておるのう。だが腿で挟みつける力は長くは続かぬ。ふふふ」
 幻舟斎はよく知っているのだ。羞ずかしい努力をしなければ、耐えられないことを。確かに腿の力はすぐに緩む。その度に、真由は呻きをあげながら、また腿を締めつけるしかなかった。
「本当の木馬責めは、こんなものではないぞ。まず、足首に重石を吊るす、体を揺さぶる、笞を打つ、それだけではない。前後にすべらせたり、吊り落としたりもする。それに、こんな責め方もある」
 幻舟斎は三角木馬の前方を、少し持ち上げた。そして手を離す。
 木馬の前脚はドスンと着地して、馬上の真由に衝撃を伝える。
「あーっ、うう・・」
 真由は絶叫するような悲鳴をあげたが、そのまま息を呑みこんだ。常人なら耐えられる痛みではないのだが、真由は全身を硬直させて耐え忍んでいる。
 真由は、さらに三角木馬との格闘を続けなければならなかった。
 幻舟斎は木馬の回りを廻って、真由の姿を観察している。
 力が入っているのは、腿だけではない。幻舟斎が真後ろから見ると、真由の尻の肉がひくついていた。
 後ろ手に括り合わされた手首は、指を開いたり、閉じたりしながら、捩るようにしている。無意識のうちに縄を外そうとしているらしい。
 どれ位時間が経ったであろうか。いつしか真由の体から力が抜けていた。
 もう腿にも力が入らないのだろう、両脚はだらりと垂れたままである。
 後ろ手に縛られた指先も力なく開いている。上体は吊り縄にゆだね、ガックリと首を垂れていた。
「真由、大丈夫か?」
 幻舟斎は真由のアゴに手を掛けて、顔を持ち上げてみた。
 真由はうっすらと眼を開いた。
「お、お師匠さま、もう、お許しを・・・」
 意識がもうろうとしている中でも、真由は、恨みがましい表情を見せることなく、幻舟斎に許しを乞う姿がいじらしい。
「すぐに降ろしてやるからな」
 吊り縄を緩めると、真由はころげ落ちるかも知れない。幻舟斎は吊り縄の鉤を真由の縄目から外した。そして真由を抱き降ろしてやる。
 やっと木馬責めから解放された真由は、ぐったりと虚脱状態であった。
「真由、よく辛抱したな。よく頑張ったぞ」
 幻舟斎からそう声を掛けられて、真由の唇の端に笑みが浮かんだ。
 この真由の笑みは何であろうか?
 初めて幻舟斎に褒められた嬉しさだろうか? それとも、くノ一としての拷問に、耐え抜くことができた悦こびか?
 おそらく、真由自身にも解らないだろう。

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