和田の方は、葉月を見て不思議に思った。
授業を始めるというのに、葉月の様子が普段通りではない。
よそ見しているその視線の先には、亜矢子がいた。
そして亜矢子と目が合った和田は、亜矢子から目で合図を送られた。
和田は、昼食が終わってすぐに亜矢子から言われてる事があった。
「先生前に、八代さんから恥をかかされましたよね。今回の合宿で、矢代さんに恥をかかせてみたらどうですか。そのための仕掛けを用意しておきますから」
それは以前に、和田の授業であったこと。
葉月は、和田の間違いを整然と指摘したのだ。
もちろん葉月の指摘は正しかったが、しかし、それで和田は恥をかかされたと思っていた。
どうやら、葉月はすでに亜矢子から何かしらされていて、そんな状態なのだろうと考えた。
そして和田は授業を始めた。
授業が始まってからも、葉月は亜矢子の方をチラチラと見ては、口でスカートを返してという様なことを口に出さずに何度か行っていた。
亜矢子はそれを無視していたが、しばらくして間にいる生徒を使って、亜矢子からノートの切れ端が葉月の元に届けられた。
そこに書かれていたのは、葉月への命令だ。
もし先生にスカートを履いてないことがバレても、自分で脱いだと答えないとダメだというようなことが書いてあった。
しかも、その後にはさらに信じられないようなことが書いてあった。
それを読んだ葉月が抗議の目を向けると、亜矢子がまた携帯電話を手に持って葉月に示した。
葉月は今は黙って頷くしかない。
そんな葉月だから、授業の内容などちっとも頭に入らないでいた。
そこで不意に和田から指されたため、葉月は戸惑って、
「すいません。聴いていませんでした」と答えた。
「八代さん。夏期講習は普段の授業と同じなんだから、気を抜いてダメよ」と注意される。
葉月は謝ってとにかく、この場は許してもらうしかないと思った。
しかしそれで見逃してもらえるはずもなかった。
和田は、わざわざ質問の内容を説明して改めて葉月に答えを求めた。
質問そのものは答えられないような内容ではない。
座ったままで良ければ。
だが和田は、葉月に立ち上がるよう命じた。
「八代さん。とにかくまず立ちなさい」
亜矢子から、そう言われていたのもあるし、謝るのに座ったままというのは許せなかった。
葉月は、すがるような目で亜矢子を見た。
すると亜矢子は、顎を和田の方に振って、その指示に従うようにと促した。
そうこうしてるうちに、和田の語気が強くなる。
「八代さん、聞こえないの? 早く立ちなさい!」
とうとう観念して、葉月はゆっくりと立ち上がった。
さすがに事態を予想していなかった和田は、驚きの声をあげた。
葉月の下半身に、あるべきスカートが無い。
「八代さんなん! なんてカッコしてるの!?」
クラスメイト達も、一斉に葉月に目を向けて一様に驚いた。
亜矢子と、仲間らしい一部の生徒だけはほくそえんで。
それこそ葉月の隣の席で、亜矢子との手紙のやりとりを手伝っていた女子は、さっきから笑いをこらえるのに必死だったが、これでやっと皆と一緒に騒ぐことができると、ホッとしたような表情だ。
「八代さん、スカートをどうしたの?」と和田が問い詰めるが、葉月は正直に答える事ができない。
どう答えるべきか、先ほど亜矢子からあった指示の通り言うしかないのだ。
「………暑かったので……、スカートを脱ぎました……」
「いくら暑いからって、スカートを脱ぐなんておかしいでしょ」と和田。
そんなに暑いなら、上も脱げば良かったのにという男子の声もする。
「八代さん、頭がおかしくなったんじゃない?」なんて言う女子も。
和田は内心、さらにどう辱めてやろうかと思いながら、「八代さん、それでスカートはどうしたの?」と一応は理由を訊いてみる。
実際、これ以上のことは亜矢子からは聞いておらず、亜矢子の方をチラッと見た。
すると、亜矢子が葉月から奪ったスカートを持って立ち上がった。
「先生、八代さん、さっき皆の前でスカートを脱いで、部屋の後に置きっぱなしにしてたんで私が拾っておきました」
葉月は、いきなり目の前が真っ暗になった気がした。
───皆の前でなんか脱いでない!!
「分かりました。自分で皆の前で脱いだなら、その格好を誰かに見られてもいいって思ったのね。八代さんは、そのまま立っていて下さい。授業の方を進めます」
和田は、それが当たり前とでもいうようにサラリと言って、葉月に反論する隙も与えずに授業に戻ってしまった。
生徒たちのざわめきの声の中に、葉月を揶揄する言葉が混じっているのを、快く思いながら。
当サークルは、変態紳士と変態淑女の性的な欲求不満を解消するために、活動しています。